ちょき☆ぱたん 紙の豆知識 (chokipatan.com)
10-8 紙の保存性
10-8-1 劣化しやすさ(酸性紙と中性紙など)
気にいった書籍や絵画などは、百年以上劣化しないでいてほしいものです。
紙の寿命は一般的に、和紙が1,000年、洋紙が100年ほどと言われています。しかし保存環境や紙の製造方法によって、保存性には大きな差が出てきます。紙が劣化するのは、日光、湿気、温度変化、加工時の接着剤、カビ、害虫被害などが主な原因で、ある程度の時間がたつと、どうしてもボロボロになってしまいます。
保存性に関わる要因の一つは、原料繊維の種類です。例えば、世界最古の紙として中国で発見された紀元前2世紀ごろの紙や、わが国最古の印刷物の「百万塔陀羅尼経」(西暦
770年)の原料が麻類であることからみても、長繊維で、セルロース分が多く、リグニンが少ない繊維純度の高いものは、保存性が高いことを示しています。それに対して洋紙などのように、繊維中にリグニン分などが多い機械パルプを原料にしている紙は、外界からの空気・日光・熱・温度・湿気などの影響で、より化学反応を起こしやすく保存性が悪化していくのです。
紙の保存性に関わるもう一つの要因は、紙のpH(酸性度)です。日本では、1980年代に酸性紙の劣化が大きな問題になりました。百年もたっていない書籍や資料がぼろぼろになってきたのです。これは製造過程で、紙の「滲み」止めの定着に硫酸バンドが使われていたことが原因です。
インクは紙に書くと滲んでしまうため、それを防止するために紙に滲み止めをする必要がありました。そのため紙を作るときに初めは、膠(にかわ、ゼラチンが主成分)を表面に塗布する表面サイズ処理をしましたが、後に松ヤニを加工したロジンサイズ剤を紙の内部に入れるようになりました。しかしロジンサイズはセルロースと反発し合い、そのままでは紙繊維中に留まらないので、定着剤として硫酸バンドなどを一緒に添加する必要があり、これが紙を酸性にしたのです。こうして紙の中に残った酸が、長い間に紙を構成しているセルロースを痛めて、紙がしだいに劣化していきます。そして数十年後には紙は茶褐色に変色し、ぼろぼろになって修復不可能な状態になってしまうのです。
こうした問題への対応策として、中性の滲み止めを使用した中性紙が開発されました。中性紙の寿命は酸性紙の3~4倍以上とも言われ、現在では出版物の書籍用紙などに積極的に使われています。
用紙が酸性紙か中性紙かを確認したい場合は、中性紙チェックペンで紙をなぞると、pHで色が変化して判別することが出来ます。画材店や文具店などで販売されています。
<参考:文化財保護用紙>
酸性紙は、酸の移行を起こして他の紙まで痛めてしまうことがあります。例えば、お気に入りの画集のページに、しおりをはさんでおいたら、その跡が黄色く残ってしまっていた……などという悲しいことが起きたりします。
紙に含まれる酸性物質は、硫酸バンドなど製紙過程で添加された酸と、紙の劣化過程で分解し生成される酸の2種類が考えられます。比較的長持ちするはずの中性紙の本でも、酸性紙のしおりに接触していると、酸の移行によって劣化が進行してしまうのです。
博物館や美術館の資料や文化財などは、劣化の原因となる光やほこり、急激な湿度変化などから護るために封筒などに納めて保管していますが、その封筒が酸性紙でできていると、かえって劣化が進んでしまいかねません。そのため文化財保護用紙という、特種製紙の厳密な工程管理のもと、中性から弱アルカリ性で抄紙されている紙があります。これらの紙は酸の発生がなく、資料の劣化に伴って発生する酸や外部からの酸も中和してくれるそうです。