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第1部 本
ユーモア
とっぴんぱらりの風太郎(万城目学)
『とっぴんぱらりの風太郎』2013/9/28
万城目 学 (著)
(感想)
天下が豊臣から徳川へ移ろうとする頃、不運のせいで伊賀を追い出され、やむなく京都でニート生活を送ることになった忍者の若者、風太郎が、ヘンテコなひょうたんと出会って、とんでもない冒険に巻き込まれていく物語です☆
いつもの万城目ワールド全開の大長編。笑いあり、涙ありの傑作時代劇ファンタジー。ただし今回は、設定が戦乱末期の忍者なので、いつもよりもずっと過酷な人生・戦いが展開します。実力はありそうなのに、メンタル弱めのニート忍者を中心に、魅力的な登場人物が、戦乱の中、はらはらする冒険を繰り広げます。しかも今回の敵は、いつもと違って(?)決して甘くありません。美形の残菊が率いる苛烈で非情な忍者集団の月次組。果たして風太郎たちの運命は……。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
物語は、忍者の若者、風太郎が、相棒の火薬の使い手、黒弓とともに城への侵入を企てるところから始まります。かっこいいアクションシーン満載なのに、のんきな大学生っぽい会話をしているところが、いつもの万城目ワールドで、すごく分厚い本の大長編歴史ファンタジーなのに、どんどん読み進められます。
ただし今回の主人公は、捨て子で、「柘植屋敷」という過酷な忍者アカデミーで育てられていて、のっけから厳しい人生を歩まされています。かなり忍者としての実力はありそうなのに、自己評価は低めで、同僚の忍者、百市や蝉にいつも少し引け目を感じています。
しかも不運が重なったことで、伊賀の里を追い出され、しかたなく京都でニート生活を始めることに。一緒に追い出された相棒の黒弓の方は、如才なく商売人としての頭角を現していきますが、風太郎は、伊賀から呼び戻されることを期待しつつ、お金がなくなるとアルバイトするという名前通りの「プータロー」生活(笑)。
ところがある夜に、妙な老人(ひょうたん)に出会って、人生はどんどん奇妙な方向へ転がりはじめます。この老人はどうやら伊賀の里で知られた伝説の忍者、果心居士の関係者のようなのですが……。
そして風太郎は、ひょうたんの縁で、豊臣家のねね様や本阿弥光悦らとの関わりが生まれ、戦乱の大阪城へ向かうことになります。
時代の勝者が豊臣から徳川へと変わりつつある頃、忍者の役割も変わり始めています。歴史の渦のなかに呑み込まれていく忍者や侍たちは、それぞれ悩みを抱えながらも、せいいっぱい生きようとしていて、すごく身近に感じられます。
そして物語終盤、『プリンセス・トヨトミ』が登場し、「あっ」と思わされました。
これは、はじめの『プリンセス・トヨトミ』だったのです。
豊臣対徳川の戦いは、歴史的にネタバレされているので、結果がわかっている物語のはずですし、既刊の『プリンセス・トヨトミ』がある以上、その結果もわかっているという、二重の制約があるのに、最後まではらはらさせられます。
なぜなら今回の主人公は、あくまでも「風太郎」。そのメンタルの弱さに、「もっと頑張れ」と励ますことで、すっかり感情移入してしまうニート忍者です。ひょうたん・ミッションはコンプリートできるのか、そして彼のせいいっぱいの頑張りは報われるのか……。
ところで、彼の最高の相棒、黒弓の運命は、物語の中では語られません。が……、多分、「神のご加護」があったことだと思います。そうでなければ……。
……語られないことで、いつまでも余韻が心に残る物語。さすがです。
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万城目さんの他の本『鴨川ホルモー』、『ホルモー六景』、『鹿男あをによし』、『プリンセス・トヨトミ』、『偉大なる、しゅららぼん』、『バベル九朔』に関する記事もごらんください。
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