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第1部 本

脳&心理&人工知能

Newton大図鑑シリーズ AI大図鑑(松尾豊)

『Newton大図鑑シリーズ AI大図鑑』2020/11/30
松尾 豊 (監修)


(感想)
 AIとは何か、そして、これからどうなっていくのかについて、Newtonらしく大きなイラストで分かりやすく紹介してくれる「AI大図鑑」です。
 かなり大きくて厚みのある本だったので、読むのに時間がかかりそう……とびびってしまいましたが(汗)、そんなことはまったくなく、一般向け科学雑誌Newtonらしい、美しいイラストでAIの基礎から分かりやすく総合的に紹介してくれる本でした。
 逆に言うと、すでにAIに詳しい方にとっては、目新しい話はほとんどないとも言えますが(汗)、少なくとも自分のAI知識の総復習や、誰かにAIを教える時の参考書として使えると思います。
 さて、AIはすでに画像認識や自動翻訳、話しかけたら答えてくれるスマートスピーカーなど、私たちの生活のいたるところで使われています。今後も様々な場面で活用されていくことでしょう。
 例えば医療分野では、次の6領域での活用が進んでいくそうです。
1)ゲノム医療:ゲノムデータをAIが解析し、より効果的治療を行う。
2)画像診断支援:AIが病理診断を行う
3)診断・治療支援:診断に必要な知見をAIがデータベース化
4)医薬品開発支援:創薬にかかる時間を大幅に短縮させる
5)介護・認知症:介護ロボットによる支援
6)手術支援:バイタルサインの把握などをAIが行う
 ……A Iの活用で、私たちの健康寿命が長くなっていくといいですね。
 また個人的にとても期待している「自動運転」技術では、自動運転車が周囲の環境を認識する方法として、次の2種類があるそうです。
1)自律型:カメラなどを使って自動運転車自身が認識を行う
2)協調型:周囲の車両や信号機、歩行者と「無線通信」を行うことで、おたがいの位置や速度を認識するインフラとの協調
 そして自動運転の基本ソフト「Autoware」には、次の2種類のAIが使われているのだとか。
1)新しいAI:ディープラーニングで自ら学習するAI。周囲を走る車などを認識する「環境認識」に使用される。
2)古いAI:ルールを人が設定する古典的AI。加減速やハンドル操作に使用される。
 最近は、AIが自ら学習するディープラーニングなどの手法に注目が集まっていますが、個人的には、ここで「古いAI」と言われているルールベースAIの方が、現実的には「信頼して使えるAI」ではないかと思います。というのもディープラーニングによるAIは、なぜそう決めたのかが分からないからです。だから自動運転のソフトに、両方のAIが使われていることを知って、少し安心しました。
 ところで、この本には「攻撃されるAI」として、ディープラーニングによるAIが攻撃されることの危険性も書いてありました。この場合、AIが攻撃されたことに人間は気づきにくいそうです。例えば、パンダの画像に攻撃者が意図的にノイズを加えて、「人間にはパンダに見えるのに、AIにはテナガザルに見えてしまうような操作」をすることが可能だから。もちろん、これに対処するためのセキュリティ研究も進み始めているそうですが、気が付かないうちにAIが騙されてしまうことで、システム全体が危険になってしまうのは困りますよね……。
 さて、AIには、次のように特化型AIと汎用AIの二種類があります。
1)特化型AI:囲碁、自動運転、顔認識など特定の課題に特化したAI
2)汎用AI:決められた課題だけでなく、複雑かつ未知の課題にも臨機応変に対応できるAI
 おそらく汎用AIは、特化型AIを臨機応変に使いこなす司令塔のような機能が要求されていくことになるのでしょう。でも、それを実現する技術は、もちろん容易ではないようです。
 個人的には、AIは当面の間、特化型AIとして育てるべきだと思います。なぜなら特化型AIの得意分野は、すでに人間を越える勢いで進化していますし、AIが得意な分野を育てることは人間にとってもメリットが大きいからです。
 それに対して汎用AIの方は、まさに(少なくとも今のところは)「人間ならではの能力」が期待される分野で、そこまでAIに任せてしまうのは、まだまだ不安がありますし、その必要もないと考えているからです。
 今後のAIをどう開発していくかは、かなり重大な問題ですが、これに関しては、2017年1月に「アシロマの人工知能(AI)23原則」が発表されていますので、それを参考に、今後もより良い方向を目指して更新していくべきなのでしょう。
 ちなみに23原則の最初の5項目(研究課題)及び最後の5項目(長期的な課題)は、以下の通りです。(本書には23原則の全部の概要が書いてあります)。
・研究課題
1) 研究目標:研究の目標となる人工知能は、無秩序な知能ではなく、有益な知能とすべきである。
2) 研究資金:コンピュータサイエンスだけでなく、経済、法律、倫理、および社会学における困難な問題を孕む有益な人工知能研究にも投資すべきである。
3) 科学と政策の連携:人工知能研究者と政策立案者の間では、建設的かつ健全な交流がなされるべきである。
4) 研究文化:人工知能の研究者と開発者の間では、協力、信頼、透明性の文化を育むべきである。
5) 競争の回避:安全基準が軽視されないように、人工知能システムを開発するチーム同士は積極的に協力するべきである。
・長期的な課題
19) 能力に対する警戒: コンセンサスが存在しない以上、将来の人工知能が持ちうる能力の上限について強い仮定をおくことは避けるべきである。
20) 重要性:高度な人工知能は、地球上の生命の歴史に重大な変化をもたらす可能性があるため、相応の配慮や資源によって計画され、管理されるべきである。
21) リスク: 人工知能システムによって人類を壊滅もしくは絶滅させうるリスクに対しては、夫々の影響の程度に応じたリスク緩和の努力を計画的に行う必要がある。
22) 再帰的に自己改善する人工知能:再帰的に自己改善もしくは自己複製を行える人工知能システムは、進歩や増殖が急進しうるため、安全管理を厳格化すべきである。
23) 公益:広く共有される倫理的理想のため、および、特定の組織ではなく全人類の利益のために超知能は開発されるべきである。
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 分かりやすくて総合的な『AI大図鑑』で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 松尾さんの他の本、『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』、『よくわかる人工知能 何ができるのか?社会はどう変わるのか?』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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