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第1部 本
生物・進化
「顔」の進化(馬場悠男)
『「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか (ブルーバックス)』2021/1/21
馬場 悠男 (著)
(感想)
そもそもなぜ顏があるのか? 顏は何をしてきたのか? 「顔」の進化を教えてくれる本です。
動物は食べなければ生きていけないので、次のように、はじめに口ができ、その機能を高めるために顔ができたそうです。
「顔はまず、水中の動物につくられた。(中略)一定の方向に移動する動物の口が、咀嚼器のはじまりとなった。そしてそのまわりに感覚器が集中することで、基本構造ができあがったのである。」
主な内容としては、第1章は、顔の進化(咀嚼器から始まって感覚器の進化の過程)。第2章は、顔の各部分の解説、第3章は、人種や性別による顔の相違、第4章は、人類の顔の進化、最後の第5章は、日本人の顔の変遷についての解説となっています。「顔」の進化の過程を詳しく知ることが出来て、とても興味深く感じました。
個人的にとても面白かったのは、古代人の復元モデルの話。2013~2017年に、馬場さんは、国立科学博物館における復元作業の監修をしたそうで、以下にその一部を紹介させていただきます。
「誰も見たことのない化石人類の姿を復元するのは、簡単ではない。しかし、解剖学や法医学の知識によって化石人骨を分析すれば、年齢・性別・体格がわかり、顔立ちも復元できる。さらに、人類学の知識によって、骨からだけではわからない顔の表面の特徴が推定でき、考古学の知識によって、生活の様子も推定できる。なお、最近では、古人骨DNAのゲノム解析から、人種、身長、肌や眼の色、ソバカスの多さ、特定の病気にかかりやすいかどうかまで推定できるようになっている。」
「復元づくりの具体的な作業としては、まず、化石の精密模型を入手し、金属工芸の専門家が金属の支持構造をつくり、模型をつなぎ合わせ、骨格をつくる。(中略)
つぎに彫塑の専門家が、骨格と同じサイズに木の骨組みをつくり、筋肉や皮下脂肪に相当する彫塑用粘土を盛りつけて身体を成形する。筋肉の発達具合、胴体や手足の太さなどは、人類学と解剖学の専門家である私が、骨に残る筋肉の付き具合や、どのような気候環境に暮らしていたかを判断して決定する。(中略)
粘土原型に石膏をかぶせて雌型をつくり、粘土原形をはずす。雌型の中にプラスチックを流して固め復元像の原型ができる。それに、眼(特製の義眼)をつけたり、皮膚の色を塗ったり、毛を植えたり、さらにシワやシミまで表現すれば、完成である。」
実際には、人類学などの専門家の知識だけでなく、芸術家の腕前と想像力との共同作業でつくりあげるそうで、「学術的に正しくとも、生きている人間(の祖先)に見えなければ、ただの木偶人形になってしまい、展示物にはならないからだ。」そうです。博物館でよく見かける展示物は、こんなふうに作られていたんですね。
また「第5章 日本人の顔」も興味津々でした。その内容を要約すると、「日本人の顔の変遷は、縄文時代人と渡来系弥生時代人という二つの系統の混血具合と、食生活の変化によって咀嚼器官が退縮したことが関連していると考えられる。」ということになるでしょう。
江戸時代の大奥の女性では、庶民の顔と、正室・側室の顔に違いがあったそうです。正室・側室の顔の方が、顔の下の方が狭くなっている「貴族的な顔立ち」が多かったとか。「貴族的な顔立ち」ができたのは、貴族の間では柔らかい食べ物を食べる習慣が昔から続いていたためだろう、ということですが、貴族出身が多かった正室の「貴族的な顔=美しい顔」というモデルがしだいに定着して、しだいに側室や庶民の顔にも貴族的な顔だちが増えていったのだとか(大奥には美人が送り込まれたので)。そしてこれは、現代人の顔にもあてはまる傾向のようです。現代人は、江戸時代よりも、さらに柔らかい食べ物を食べているので。
人間の「顔」の進化を、総合的に知ることができる本でした。「顔」だけでなく、人類の誕生から現代人までの、人類の進化も概観できます。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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馬場さんの他の本、『人類の進化 大図鑑』に関する記事もごらんください。
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