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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
宮沢賢治の地学教室(柴山元彦)
『宮沢賢治の地学教室』2017/11/22
柴山 元彦 (著)
(感想)
宮沢賢治さんの作品に織り込まれた地学の知識を手掛かりに、高校までの地学の基礎を学び直せる新感覚の参考書で、宮沢賢治さんと柴山元彦さんの地学講座シリーズ第1弾です。
星空をめぐる列車の旅を描いた『銀河鉄道の夜』や、独特のリズムを持つ風の歌が印象的な『風の又三郎』、素朴で愚直な生き方への憧れを歌った『雨ニモマケズ』など、宮沢賢治さんの作品は、現在も多くの人に読み継がれ、愛されています。
現在では文学者として有名な宮沢賢治さんですが、実は作家であると同時に、熱心な地学(地球惑星科学)の研究者(地学の先生)でもありました。宮沢賢治さんが生きた時代、東北地方は地震や津波、天候不順による凶作に襲われるなど、自然災害に翻弄されました。不作に苦しむ農民を助けるため、宮沢賢治さんは地質や肥料の研究にいそしみ、病気に冒されながらも死の前日まで農民たちの相談にのっていたほどだったそうです。そうして得た地学の知識や、厳しい自然に直面して感じた畏敬や素直な驚きを、宮沢賢治さんは多くの作品に織り込んでいます。
この本は、そんな宮沢賢治さんの地学的な作品を引用しながら、「基礎地学」を学べる新感覚の参考書です。だから、この本のメインは、宮沢賢治さんの作品の地学的解説ではなく、「基礎地学の学習」なのです。
舞台は森の学校。宮沢賢治さんの大ファンであるケンジ先生が、その作品集を片手に、動物たちに楽しく地学を教えています。読者も生徒の一人(?)になったような気持ちで、地球や宇宙のしくみを楽しく学べます。内容は、「宇宙」、「地球」、「鉱物」、「地史」、「気象」の全5章。イラストや写真も多数あって、とても分かりやすかったです。
たとえば「2限目 地球のしくみ」では、地震に次の3つの種類があることなどが説明されていました。
1)深発地震:プレートの沈み込みによって地下100キロ以深で発生
2)海溝型地震:沈み込む海洋プレートに巻き込まれた大陸プレートの反発によって発生
3)プレート内地震:大陸プレートの地表近くで発生。断層ができる
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また地震の揺れが伝わる順番は、次の通りなのだとか。
1)P波:地球内部を伝わって最初に来る縦波
2)S波:地球内部を伝わって二番目に来る横波
3)L波:地球表面を伝わって三番目に来る波
……P波とS波は知っていましたが、L波というのもあったんですね(汗)。もちろん、この両方ともイラストを使って、もっと詳しく説明されています。
章の終わりには「コラム」もあり、「賢治と石灰石」では、次のような記述を読むことができました。
「(前略)特に自然災害の影響を受けやすい農作物については、賢治は肥料の種類や施し方を熱心に研究し、農民に指導しました。東北地方は火山灰土に広くおおわれていることもあって、土壌が酸性になりがちでした。それを中和してよい土壌にするためには石灰をまく必要があったのです。賢治はその必要性を農民たちに説明するとともに、みずから石灰岩採石場の技師となって石灰の普及に努めました。」
ここにも、宮沢賢治さんと地学の深い関わりが感じられます。
なお、この本の中で、一部が引用紹介されているのは、次の文学作品です。
『土神ときつね』、『イーハトーボ農学校の春』、『双子の星』、『銀河鉄道の夜』、『グスコーブドリの伝記』、『気のいい火山弾』、『十力の金剛石』、『台川』、『楢ノ木大学士の野宿』、『イギリス海岸』、『春と修羅序』、『柳沢』、『東岩手火山』、『風野又三郎』、『雨ニモマケズ』。
これらの作品の地学的解説もあります(あまり多くはありませんが……)。例えば『銀河鉄道の夜』では、二人きりになって旅を続けるカムパネルラとジョバンニが天の川を眺めて、カムパネルラが「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」と指さすシーンの「石炭袋」とは、「暗黒星雲(手前に星間雲があって、星の光がさえぎられているところ)」のことだそうです。
高校の地学の基礎知識「宇宙」、「地球」、「鉱物」、「地史」、「気象」について、分かりやすく学べる本でした。
巻末には、引用作品の簡単な解説と、「宮沢賢治と地学の関わり」という年表もあります。
楽しく地学の勉強ができる本です。ぜひ読んでみてください☆
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柴山さんの他の本『3D地形図で歩く日本の活断層』、『宮沢賢治の地学実習』、『宮沢賢治の地学読本』に関する記事もごらんください。
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