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第1部 本
ビジネス・経営
知的機動力の本質(野中郁次郎)
『知的機動力の本質 - アメリカ海兵隊の組織論的研究』2017/5/8
野中 郁次郎 (著)
(感想)
最強の軍事組織アメリカ海兵隊に学ぶ、進化しつづける組織の秘訣とは……旧日本軍の敗因を分析したベストセラー『失敗の本質』の野中さんが、『知的機動力』の大切さを教えてくれる本です。
アメリカ海兵隊は、「世界唯一の陸・海・空を統合した、世界最強の攻撃部隊」ですが、「一七七五年の創設以来、何度も存在価値を問われてきた組織であり、その度に自己革新組織として変わり続けて成果を出し、すなわち知的機動力を発揮し新たな存在価値を創造することで、二百四十年もの長い時間を生き延びてきた」そうです。
「自己革新は、たえず変化する現実を直視し、既存の概念との矛盾を解消するために、新たなコンセプトやモデルを創り、主体的に変化を生み出す無限のプロセスである」……どんどん変化する時代に適合していくには、組織も変わり続けていかなければならないのですね。
そして、「先が読めないほど組織を取り巻くグローバル知識環境の変化が激しい今の時代には、俊敏かつ知的な判断・行動を可能とする組織の知的機動力が必須である。知的機動力は、組織成員一人ひとりの心と体を一つにすることで組織が一つの心と体を持って環境に棲みこむ、すなわち「組織・環境一心体」になることで実現できる」のだとか。
構成員一人ひとりが「知的機動力」を発揮することが、勝ち続ける組織となる秘訣のようです。
「知的機動力というのは、ざっくり言ってしまうと、組織の根本に人間を据え、環境に身体化された/拡張された「心」を以って組織内の人と人を繋げ、鍛え、社会のために奉仕していく組織的努力を指す。つまり、海兵隊においては、鍛え抜かれたブレない「人の心」や「信念/思い」が知的機動力を突き動かす原動力となっているのである。」
海兵隊の得意とする「機動戦は、敵軍を不安に追い込んで動揺や混乱を招き、自軍を有利な立場に確保する戦い方」で、「機動戦を行う組織は、自律分散的・協働的なネットワーク型でなければならない」のです。
そんな海兵隊リーダーの特質として、次の6つの能力があげられるのだとか。
1)善い目的をつくる能力
2)ありのままの現実を直観する能力
3)場をタイムリーに作る能力(師と弟子の共感をはぐくむ相互主観の場)
4)直観の本質を物語る能力
5)物語を実現する能力
6)実践的賢慮(フロネシス)を組織化する能力
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個人的に、本書の中で特に印象的だったのが、「戦争はアートである」。
「戦争遂行の大部分は、創造的スキルあるいは直観的スキルを用いるアートの領域である。アートには、判断と経験により科学的知識を状況に合わせて創造的に適用することが含まれるので、戦争のアートは戦争のサイエンスを包含している。」
……戦争がアートだと思ったことはなかったので、ちょっと衝撃的でしたが、ここでは、正解のない状況で意思決定・行動をしなければならないという意味で、「アート」という表現を使っているように感じました。
戦争では「意思決定では速さと大胆さを求められ」、「矛盾の存在が常態なので、矛盾を受け入れ、相反する考えを同時に機能させるダイナミックなバランス能力が要求される」……海兵隊では、戦場という不確実性の高い状況の中、素早くて大胆な意思決定が求められるので、全員が自らの判断で行動できるように訓練されなければなりません。そのため、常に次のことを心掛けているようです。
「自発性、すなわち自分の判断で進んで行動することは、大胆不敵の前提条件である。(中略)「完全主義」はあってはならない。それをなくすということは、大胆不敵や自発性を罰則の脅しで抑止しない、ということである。」
「完全主義」は「あってはならない」と断言しているところに、深い感銘を受けました。
戦争では素早い意思決定が生死を分けるので、「その時に直観的に最善と思った行動」をとれるよう常に訓練し、判断ミスによる失敗を責めるのではなく、失敗からのリカバリを図って臨機応変に行動し、終わった後で「次の行動に活かせるよう」失敗について分析する、ということが重要なようです。それが、「常に勝ち続ける組織」を作っていくのでしょう。
「戦争」のための組織「アメリカ海兵隊」の組織研究ですが、企業経営の面でも学べる部分が数多くあると思います。読んでみてください。
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