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第1部 本
生物・進化
利己的な遺伝子<増補新装版>(ドーキンス)
『利己的な遺伝子<増補新装版>』2006/5/1
リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆 (翻訳), 岸 由二 (翻訳), & 2 その他
(感想)
遺伝子の観点から、利己主義と利他主義の生物学を研究した本。ドーキンスさんの世界的大ベストセラーで、発行された当時は大論争を巻き起こしましたが、現在では、生物学の古典の一つともいえる本です。
「なぜ世の中から争いがなくならないのか」
「なぜ男は浮気をするのか」
この本でドーキンスさんは、動物や人間社会でみられる親子の対立と保護、雌雄の争い、攻撃やなわばり行動などが、なぜ進化したかについて、「自らのコピーを増やそうとする遺伝子の利己性」という側面から明快な解答を与えています。
ところで生命の起源は、三、四十億年の地球の「原始スープ」の中で、自己複製子ができたことに始まると言われています。それは、それまでできた分子とは違って、自らの複製を作れるという驚くべき特性をそなえていたのです。これがDNA(遺伝子)へと進化し、さらには動植物へと進化してきました。
そして長い年月の間、複製中にはいくつかの誤りが発生(突然変異)し、自然淘汰によって、生き残りに選別がかけられてきました。
私たちは「進化」というと、「よい方向に進む」と考えがちですが、ドーキンスさんは、「実際に進化したいと望むものはない」と言い切ります。「進化とは、自己複製子(遺伝子)がその防止にあらゆる努力を傾けているにもかかわらず、いやおうなしに起こってしまうという類のものなのだ」……と! 「われわれは遺伝子という名の利己的な分子を保存するべく盲目的にプログラムされたロボット機械なのだ」そうです!
そしてドーキンスさんは、この観点から、「なぜ世の中から争いがなくならないのか」など、現実の世界で起こっていることを考察し、自分の考えを裏付けていきます。
なるほどなー、と思いました。この観点から考えると、なぜ世の中から紛争がなくならないのかや、果ては動物園などで起こっている「子育てを放棄する母親」まで理解できるような気がしました。
母親は、父親に比べて出産・子育てにエネルギーが必要ですが、これは母親本人の生き残りにとっては不利になることなのだと思います。そう考えると、「他に自分の遺伝子を引き継ぐものを育ててくれる存在」が期待できる時には、それに委ねてしまって、自分のエネルギーを他に使おうとするのは、むしろ自然なことなのかもしれません(汗)。
さらに紛争にいたっては、まさに自然淘汰の一つの側面ような気がします。われわれは生物的には利己的に生まれついているようですし、遺伝子の戦略は、(環境も変化するし、最善がどれかを完全に予言することなど出来ない。よくわからないけど、とりあえずコピーしておけ。どれが残るかは、コピーされた奴らに任せればいい。すごく無駄が起こるけど、なんとかなるだろ)のようなので(汗)。
すると……「利己的な遺伝子」の観点からみると、必然的に、「おひとよし」や「協力」よりも、「ごまかし屋」や「背信」の方が有利になるのでしょうか?
ちょっと悲しいですが、少なくとも世の中から「紛争」や「背信」を根絶するということは、不可能なのだと考えるべきなのだろうと思います(汗)。
そう考えると空しくなるような気もしますが、……そうでしょうか?
ドーキンスさんは、この本の中で、「われわれが利己的に生まれついている以上、われわれは寛大さと利他主義を教えることを試みようではないか」と言っています。「遺伝的にうけつがれる特性が、その定義からして固定した変更のきかないものだと考えることが誤りだからである。われわれの遺伝子は、われわれに利己的であるよう指図するが、われわれは必ずしも、一生涯遺伝子に従うよう強制されているわけではない」と。そして「遺伝子は行動に基本的な力をふるっている。しかし、次に何をするかを一瞬一瞬決定していくのは、神経系である。遺伝子は方針決定者であり、脳は実施者である」とも言います。
私たちの行動は、文化や教育で変えることが出来るのです。
またドーキンスさんは、この本の中で、生物的な遺伝子の他に、文化的な遺伝子(ミーム)の概念についても言及しています。私たち人類は、コミュニケーションや記録を通じて、文化的な遺伝子を伝えたり残したりすることも出来るのです。
生物的な遺伝子の変化はゆっくり進み、生まれた時には、ほぼ「1」からのスタートになりますが、文化的な変化は生物変化よりもどんどん進み、文化的遺伝子を残してあれば、未来人は過去の人類より、より累積した文化遺産をすぐに利用できることになるはずです。
そして「紛争」は根絶できないとしても、我々人類は、「教育」によって無駄な紛争を避けることが出来るようには出来ます。
さらに、文化の力を手に入れた人類が生まれたことで、「遺伝子」の生き残り戦略は、新たなステージを迎えたのだと思います。それは我々が、遺伝子解析&操作やクローン技術まで手に入れてしまったからです。
「利己的な遺伝子」の生き残り戦略の観点からみれば、実は、クローン技術なども「織り込み済み」なのだと思います。クローン技術は、複製技術の一つにすぎないのですから。そして、進化がどんな風に進んでいくかは、その時に生きている側に委ねられているからです。
遺伝子の複製ミスは盲目的に起こり、どの遺伝子が生き残るのかをあらかじめ予言することは出来ません。どの方向に進化していくのかを、誰も決めてはくれないのです。
ということは、ひょっとして、良い方向に進めていくことを、私たち自身が決められるということではないでしょうか? 生物学的遺伝子がどのように進むかは決められませんが、文化的遺伝子を使って、良いと思える方向に誘導することは出来るのだと思います。もちろん、どの「文化的遺伝子」が残るかは、未来の生物たちの手に委ねられるのですが、それはむしろ良いことなのだと思います(何が「良く」て「必要」かは、その時々の生物が選択すべきだと思います)。
……この本は、生物に関する考え方を根本から問い直させてくれるだけでなく、文化や生き方など、本当にさまざまなことを考えさせてくれました。
進化など生物学についての知識も分かりやすく教えてくれるので、ぜひ一度、読んでみて欲しいと思います。
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この本にはさらに新しい版の『利己的な遺伝子 40周年記念版』もあります。「古くなった表現、表記を変更」だけでなく、ドーキンスさん自身による「40周年記念版へのあとがき」の追加などもありますので、購入する場合は、こちらの方をお勧めします。
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ドーキンスさんの他の本、『進化の存在証明』、『進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義』に関する記事もごらんください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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