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第1部 本

脳&心理&人工知能

意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策(阿部修士)

『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ)』2017/1/12
阿部 修士 (著)


(感想)
 心理学と脳科学の最新の研究(具体的事例や実験の結果)を紹介しながら、わたしたちの意思決定のメカニズムを考察している本です。
 ここでは、「情動」と「理性」というふたつの対立する「こころのはたらき」に注目する二重過程理論がバックボーンになっています。なお、二重過程理論というのは、意思決定において二種類のこころの働きを想定する理論の総称で、このサイトでも紹介している『ファスト&スロー』のカーネマンさんの研究など、いろいろな研究がなされています。
「速いこころ」は、直感的な反応や情動的な反応、本能的な欲求の表現を支えるシステム。「遅いこころ」は、合理的判断や論理的思考、自制心といった、意思の力によるこころの働きを支えているシステムを言います。この「遅いこころ」のキャパシティには明らかな限界が存在していて、一度に処理しきれる量には限界があるため同時に複数の仕事を掛け持ちできないという性質があります。私たちは、ふだんは、「遅いこころ」ではなく「速いこころ」を働かせているのです。
 この本では、「マシュマロテスト」「トロッコジレンマ」などの心理学実験と、fMRIなどを使った脳科学的実験による研究結果をいろいろ紹介してくれます。
「マシュマロテスト」というのは「マシュマロを今すぐ1個もらうか、20分待って2個もらうかを子供に選ばせるテスト」で、子供たちの忍耐力を調べた有名な心理学実験ですが、その後、同じ子供たちが中年になった頃に、fMRIなどによる脳活動測定での実験も行ったそうです。
 その結果、「マシュマロテストで長い時間待つことが出来た子供たちは、待つことができなかった子供たちに比べ、高い教育歴を有しており、肥満の割合も大幅に低いことが判明」しました。しかも今回のテストでは、幼少期にマシュマロテストで欲求の充足を先延ばしにできた人たちは、そうでなかった人たちに比べ、ボタンを押すのを我慢する時に下前頭回とよばれる領域(衝動の制御や論理的思考を担う)の活動が高かった一方で、マシュマロテストで欲求の充足を先延ばしできなかった人たちは、できた人たちに比べ、腹側線条体(報酬情報の処理や主観的快楽に役割を果たす)の活動が高かったのだとか。「忍耐力」は、どうやら脳の動きとも連動しているようです。
 また「トロッコジレンマ」は、暴走するトロッコを前にして、五人と一人のどちらを犠牲にすべきかを問われる厳しい状況(切替機を動かすと五人は助かるが一人が死んでしまう。動かさないとその逆の事態になる)に直面させられるテストですが、このジレンマへの対応の仕方にも、「情動のはたらき」と「理性のはたらき」が深く関わっていることが明らかになってきました。「情動のはたらきが強まると、一人を犠牲にして五人を助けることをより許容できなくなる」一方で、「理性のはたらきが強まると功利主義的な反応が増加し、一人を犠牲にして五人を助けることをより許容できるようになる。」のだとか。このテストでも、「功利主義的な反応をする際には、背外側前頭前野の活動」などの脳の活動の違いが測定されています。
 その他、「疲れているとズルをしてしまう」とか「午後の方が嘘をつきやすい」などの興味深い実験結果が、数多く紹介されていました。
 fMRIを活用した実験はまだ歴史も浅く、人間の脳の仕組みが明らかになったわけではありませんが、このような心理学+脳科学の研究で、少しずつ人間の脳の働きが解明されていき、私たちの判断力を向上させたり、より健全な心的成長を促進させたり出来るようになって、より良い社会の構築のために役に立っていくと良いなと思います。
「意思決定には、主に速いこころの仕業によって様々なバイアスがかかっているわけですが、それをあらかじめ把握しておくことで、不要なトラブルを避けることが可能」になるのでしょう。
「俯瞰的に二つのこころのはたらきをとらえ、遅いこころをサポートすることで、多くの場面では(速いこころの)コントロールが可能」だという阿部さんの意見に共感を覚えました。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 別の作家の本ですが、『心理学 第5版』、『心理学・入門 --心理学はこんなに面白い』、『脳と心の秘密がわかる本』、『心理学研究法 補訂版』など、脳や心理学を学ぶ上で参考になる本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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