ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
教育(学習)読書
マネー・ボール(ルイス)
『マネー・ボール〔完全版〕』2013/4/10
マイケル・ルイス (著), 中山宥 (翻訳)
(感想)
かつて将来を嘱望されながら夢破れてグラウンドを去った元大リーガー(ビリー・ビーン)が、統計データを駆使した野球界の常識を覆す手法で球団を改革、チームを強豪へと変えるという物語。映画にもなった傑作ノンフィクションです。
1990年代末、オークランド・アスレチックスは資金不足から戦力が低下し、成績も沈滞していました。そんななか、新任ゼネラルマネジャーのビリー・ビーンは、常識はずれの手法で貧乏球団を改革、運営費用を格安におさえたままで、チームの勝率をぐんぐんあげて、チームを連続優勝へ導いていったのです。
この物語は、野球(アメリカの大リーグ)の貧乏チームの成功を描いたものですが、いわゆるスポーツ根性物とはまったく違います。ビリーが使ったのは「統計データ」。まるで株価分析みたいなやり方で、野球チームを改革したのです。……だから、この本は、野球マニアの方にとってはもちろんですが、組織運営や企業経営に悩んでいるビジネスマンの方にも、とても参考になると思います。そして今後の生き方を模索している若者にとっても、さまざまな面で励ましやヒントを拾えると思います。
さて、この物語の主人公ビリー・ビーンは、「生まれながらのスポーツの天才」のような青年でした。容姿端麗なだけでなく勉強も優秀でスポーツ万能。欠点らしい欠点がないと言われ、大学からもスカウトからも申し出が殺到していたのです。
なーんだ、そんな奴が成功するのは当然じゃないか、と思いませんか? ところが、彼はある意味「才能に恵まれ過ぎたために」ために挫折することになってしまったのです。子供の頃から「負け知らず」だった彼は、大リーグ入りして初めて周囲の人間に「負け」ることがあることを意識しました。そして……彼の性格の弱さがじょじょに露呈してきたのです。彼は感情にムラがあり、「負ける自分」を許せず、野球でなければもっと成功したのではないかという精神的葛藤に苦しむことになったのでした……。(ボソリ……贅沢な悩みですよね……チェッ)
そして彼は選手をやめてアドバンススカウトになるという前代未聞の選択をし、フロント入りすることになりました。
ちょうどその頃、チームのゼネラルマネージャーをしていたサンディ・アルダーソンは、球界に「科学データ」を持ち込むことで新風を吹き込もうとしていました。ハーバード大学院卒業の弁護士で、海兵隊の将校だったこともあるアルダーソンの運営方針は、ファームチームを新兵訓練所とみなして規律を遵守させ、個人より組織全体を優先するというものでした。そして彼は、出塁率というたった一種類のデータを軸にした新たな「野球文化」を作り上げました。この文化の基本原則によると、得点を入れることは才能ではなく手順なのです。これを日常化して各選手が役目を果たしていけば、世間の水準よりはるかに低い労働賃金でチームの得点力を向上できるのです。
この考え方はビリーに受け継がれていきました。ビリーのもう一つの隠れた才能がついに解き放たれるときが来たのです。彼は、彼自身が幻滅を味わったグラウンドで、今までとはまったく違う野球を展開できることに気がつきました。こうして彼は、「データ」をもとに選手の真価を見極め、「出塁率」「四球率」を上げるよう選手を育てて試合を行い、チームの勝率をぐんぐん伸ばしていきました。
さて、この本の凄いところは、これが単純な成功物語ではないというところにもあります。正直に言って、この「データ野球」にはかなり冷徹なところがあり、育てた人材の給料が高騰してくると他の格安な人材とトレードしてしまうなど、長期雇用や人情を大事にする日本人としては、(選手は部品か? ちょっと冷たいんじゃないの……)と思わないでもありませんでした(汗)。まあ貧乏球団なのでしょうがない面もあるのだと思いますが……。そういう球団の裏事情なども赤裸々に描かれていて、スポーツ選手をめざす若い方にとっては、そういう厳しい世界だということを知る上でも参考になると思います(汗)。
そしてもう一つ、「常識を覆す手法で改革を実行」する困難さも描かれています。ヤンキースなどのお金持ち球団、野球記者、花形選手など野球界の人びとからは、この「データ野球」は無視され反発され続けたのです(もっとも彼らが真似しなかったおかげで、「データ野球」は格安の費用で成功を収め続けることが出来たのですが……)。大人たちは現在の世界を変えようとしないので、「常識を覆す改革」を待ち受けるのは、いつも逆風だということは、やはり真実のようです(汗)。
いろんな意味で考えさせられる本でした。ぜひ読んでみてください。
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ルイスさんの他の本、『かくて行動経済学は生まれり』に関する記事もごらんください。
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『マネーボール [SPE BEST] [DVD]』はこの本を原作とする映画です(ここではDVDを紹介しています)。
ルイスさんは、他にも『ブラインド・サイド しあわせの隠れ場所』、『こころに残る卒業式のスピーチ【日英対訳・CD付】』、『ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』、『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』、『ライアーズ・ポーカー』、『世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち』などの本を出しています。
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別の作家の本ですが、『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学』も、プロスポーツマンを目指す方の参考になると思います。
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