ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
自己啓発・精神力
バカの壁
『バカの壁』2003/4/10
養老 孟司 (著)
(感想)
「人間というものは、結局自分の脳に入ることしか理解できない」
これを「バカの壁」と表現し、その概念を軸に、戦争や犯罪、宗教、科学、教育、経済など世界を縦横無尽に容赦なく考察(批判)したエッセイ集で、2003年の大ベストセラーとなった本です。
かなり刺激的なタイトルですが、自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまうことも「バカの壁」だそうで、「バカの壁」は他人を罵倒する言葉ではなく、むしろ自分を戒める「自分の壁」のことのようです。
この本の中で養老さんは、「知りたくないことに耳をかさない人間には話が通じない」ことや、「現代人がいかに考えないままに、己の周囲に壁を作っているか(バカの壁)」について語り、あの人たちとは話が合わないという「一元論」が、この「バカの壁」の元凶であり、アメリカ対イスラムの構造や、日本の経済の停滞などもすべてこの理論で説明されると言います。
なるほど……。思考は常に柔軟に、そして「相手は自分と同じではない」ことをいつも心にとめて周囲や物事の理解に努め、自分の中に「バカの壁」を築いてしまうのを防ぎたいと思いました(汗)。
ところで、脳(意識)は社会生活を普通に営むために、「個性」ではなく、「共通化」を徹底的に追求しているそうですが、これと現代社会がしばしば求めてくる「個性を伸ばせ」ということは矛盾しているそうで、養老さんは、「個性は伸ばすものではなく、初めからあるものだ」と言っています。うーん……これも確かにそうかも、と思いました。協調性と個性の矛盾する二つの属性を同時に伸ばそうと頑張ってしまうから、ストレスが溜まるのかもしれません。これからは「個性」ではなく、「才能」を伸ばしていこうと思います(「あれば」ですが……汗)。
さらに教育問題では、「キレる脳」についても言及しています。ここで養老さんは、信州大学教育学部の実験結果(約三十年前の小学生より、今の小学生の方が「我慢する能力」の発育に遅れがでている)と、心理カウンセラーの方の実験結果(「人間」と「木」と「家」の三つを描かせてみると、十六年前の子どもより、今の子どもの方が、絵のバランスが悪くなっている)という二つを紹介し、昔の子どもより今の子どもの方が、前頭葉の動きが悪くなっているのではないかと考察されているようですが、これに関しては「そうなのかな?」と疑問に思わなくもありませんでした。信州大学の実験の方は、「人間一般の時間感覚のスピードが上がっているのでは?(昔の方が全般に「のんびり」していただけでは?)」と感じましたし、「人間・木・家の絵」の実験の方は、「庭が狭くなり、マンションに住む子どもも増えているので、庭に木のある一戸建てに住んでいるという感覚を持つ子ども自体が減っている(住環境が変わっている)ことに原因があるのかもしれない」と思いました。
このように必ずしも論旨のすべてに賛同できたわけではありませんでしたが、「バカの壁」をキーワードに、養老さんが世の中のさまざまなことを「ヘンだ」とびしびし批判していくさまが痛快で、さまざまなことを考えさせられたことも事実です。
その他にも、「万物は流転」し、「情報は不変」だ、という考えも新鮮に感じました(永遠に残ってしまう言葉を「情報」と言うそうです)。
安易に「分かる」、「絶対の真実がある」などと思ってしまう姿勢、そこから一元論に落ちていくのはすぐ、なのだとか。一元論にはまると、一見楽になるようですが、自分と違う立場のことは見えなくなり、話は通じなくなる……自分の周りにそんな「バカの壁」を築かないよう、心掛けていきたいと思います……(汗)。
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養老さんの他の本、『「自分」の壁』、『唯脳論』、『解剖学教室へようこそ』、『考えるヒト』に関する記事もごらんください。
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養老さんは、他にも『死の壁』、『超バカの壁』、『バカの壁のそのまた向こう』、『文系の壁』、『老人の壁』などの本を出しています。
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