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第1部 本

文学(絵本・児童文学・小説)

絵本・児童書(海外)

神秘の島

『神秘の島』2004/9
ジュール ヴェルヌ (著)


(感想)
 ヴェルヌさん版「ロビンソン物語」です。
 嵐に流され、気球で無人島にたどり着いた5人が、たくましく生き抜いていくサバイバル物語ですが、この「たくましさ」が半端ないです☆ ヴェルヌさんらしい理系知識大活躍の爽快な物語で、これを読むだけで「生き抜く」力が増大されそうな気がします(笑)。
 物語の時代は、南北戦争のさなか。南北戦争で南軍の捕虜として監禁されていた技師や水夫たちが、南軍の気球を奪って脱出したのですが、猛烈な暴風にあって気球は落下し、太平洋上のある無人島に漂着します。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 ところが、漂着したのは、水夫、新聞記者、召使の3人の男と、少年の4人だけでした。彼らが最も頼みにしていたのは、召使の主人の技師だったのですが、彼とその飼い犬は、漂着する直前に、ハリケーンで荒れた海に落ちてしまい、姿が消えていたのです。この技師のサイラスさん、実はもの凄い人で、仲間たちから(サイラスさんのいない街より、サイラスさんのいる無人島の方が住みやすい)と思われるほどの人(!)だったのですが、彼がいないという大変な喪失感の中、無人島での生活が始まったのでした。
 主人に心酔する召使と彼の友人の記者は、技師を探しに行くのですが、現実主義者の水夫は、少年とともに食糧探しを始めます。技師の凄さの前で、水夫の力の方は、ちょっと霞んでしまいがちなのですが、この水夫がいなければ、悲惨な初日に、全員疲労と失望で身体を壊し、共倒れになりかねなかったのではないかと思います。技師が見つからずに悲嘆にくれて帰って来た二人を、水夫と少年は、急造した岩場の棲家と、探しておいた食糧の貝と真水で迎えたのでした。
 こんな感じで始まった無人島暮らしですが、数日後、技師の飼い犬が彼らの棲家にやってきて、瀕死の状態の技師も、彼らが探しに行った洞窟で見つかります。やがて技師は回復するのですが、技師と犬がなぜ無事だったのか、なぜ技師が洞窟にいたのかは、解けない謎として残ります。
 ところで、技師が見つかる前の4人も、島を探検して食料を探すなど立派なサバイバル生活をしていたのですが、技師が回復してからの5人と一匹は、もう、もの凄い!の一言に尽きます。彼らは文字通り身一つで漂着したので、文明の臭いがするものは、ほぼ着ている服しかありません。ポケットにあったのは、懐中時計数個、マッチ一本、犬の首輪、小麦一粒ぐらいなものでした。
 なのに……この島がたまたま食料や資源が豊富だという幸運があったにしても、その後に建造していったものが、とにかく半端ないです☆
 食糧を探し、火を作り、島の地図を作り、緯度や経度を計測し、陶器や籠を作り(もちろん竃もです)、筏や弓矢を作り、そしてなんと爆薬まで!(この爆薬で、湖の水位を下げるなんていう荒業をやってのけ、花崗岩の岩の中に住居を築きます!)、さらには、家畜を飼い、薬を作り、麦を育て、衣服を作り、船、風車、そして電信まで!……このまま続けていたら、本当に鉄道まで建築しそうな勢いなのでした……(笑)。
 物語の初めの方で、島の探検が終わって地図を作った時に、水夫が「自分たちのことを遭難者ではなく、ここに植民地を作るためにやってきた開拓者と考えよう!」と提案するのですが、この精神がまさに彼らの原動力なのだと思います(もっとも、この提案以前から、彼らはすでに開拓者として活動していましたが)。フランス人のヴェルヌさんが、この遭難者たちをアメリカ人に設定したのは、まさにこの時期、アメリカには開拓者精神がみなぎっていたからかもしれません。
 そしてこの時代は、科学技術も勢いよく進歩していて、しかもまだ身近でした。機械は歯車など目に見える形の部品で動いていることが多く、IC基盤などでブラックボックス化していなかったため、構造自体が分かりやすかったのです。
 現代に比べて、そういう有利さ(?)はあったのですが、とにかく技師の理系知識が凄すぎて、作れない機械はないのではないかと思ってしまいました。島の鉱物資源などを活用して、ニトログリセリンまで作ってしまうので(作り方も詳細に記述してあります)、製鉄なんかが出来るのは、もう、なにか当然のような気がします(笑)。また博物学好きの少年の動植物関連の知識の方も、びっくりするほど詳しいです(笑)。
 こうして彼らは、元気に開拓生活を送っていきます。やることがたくさんあるので、むしろ精神的にも良かったではないかと思います。技師が、次々と問題解決の方法を考えていき、みんなも知恵を出し合って協力するので、どんどん目に見えて近代化が進み、悲嘆にくれている暇がないほど、充実した毎日なのですから(笑)。
 まさに「サイラスさんのいる無人島の方が住みやすい」のです。
 それでも、この無人島生活は、もちろん楽しいだけではありません。さまざまな困難がどんどん降りかかり、彼らは知恵と協力で切り抜けていくのでした(これもまた、この作品の見どころの一つです)。
 そして……彼らにすら切り抜けられないほどの困難に見舞われた時には、なぜか「神」が降臨して助けてくれるようなのです。
 この「神」の正体は誰なのか? については、ネタバレ過ぎるので、ここでは明かしませんが、「ああ、そうだったの!」と納得の展開になること間違いなしです。
 物語の最後に、彼らは火山の噴火(!)という最大の試練に見舞われます。彼らが必死で建造する大型船は、はたしてこの無人島が消滅する前に間に合うのでしょうか?
 ところで、せっかくこの本を読んだので、私自身が無人島に漂着してしまった時には、知識の方は無理でも(汗)、決してへこたれずに、「開拓者精神」を発揮したいと思いました。ニトログリセリンの製造は不可能でも、陶器や弓矢、水車ぐらいは、絶対に作りたいと思います。
 なお、この本を読む前に、ヴェルヌさんの名作『海底二万里』を読んでおくと、この本をいっそう楽しめると思います☆
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 ヴェルヌさんの他の本、『地底旅行』、『海底二万里』、『二年間の休暇(十五少年漂流記)』に関する記事もごらんください。

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