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第1部 本

ビジネス・問題解決&トラブル対応

「つい、うっかり」から「まさか」の失敗学へ(中尾政之)

『「つい、うっかり」から「まさか」の失敗学へ』2013/6/1
中尾 政之 (著)


(感想)
 東日本大震災の後、日本が大きく変わってきたことを、「まさか」の失敗と「まさか」の成功に注目して考察している本です。
 20世紀後半の日本の製造業では、「つい、うっかり」の失敗ばかりが議論されていましたが、東日本大震災が起きてからは、「まさか」の失敗の予防が急かされるようになったそうです。そんな今こそ、「つい、うっかり」の失敗だけでなく、「地雷(そんなものだと諦めて放置されたリスク)」の撤去作業も始めるべきであると、中尾さんは言っています。
 そのためにも、火災や地震の避難訓練は「実地訓練」にすべきだそうです。例えば、東大工学部では、避難訓練の準備の時、「避難後にはPHSで連絡してください」と頼んところ、事務室から「PHSは以前から使っていない」と答えがきたそうです。なんと以前の避難訓練では、こっそり「危険と想定されている室内」に戻って「有線」の内線電話で連絡していたのだとか……こういうのが「地雷」になるんですね……。
 そして「第3章 福島第一原発の事故に“勝利の方程式”はあったのか」では、「勝利の方程式は存在した」と言っています。この「勝利の方程式とは、たとえるならば野球で勝っている試合を逃げ切るための中継ぎ、抑えまでの継投策である。」そうです。福島第一原発の事故を調査すると、「それぞれの原発ごとに少しずつ設計が異なる」など色々な問題がありましたが、あの未曽有の災害を、より小さくできる道があったと考えられるそうです。
「「原子炉の減圧作業を1時間以内に終えて、消防車による低圧冷却系で原子炉に注水する」ための準備と訓練ができていれば(1号機は非常用復水機が稼働しなかったので一部の燃料棒は損傷しただろうが)2号機と3号機は冷温停止に持ち込めたはずである。そして、日本の高い技能・技術で現場が対処すれば、実に簡単に実現したであろう。」
 ……確かに、そうだったのかもしれません。「まさか」の危機が訪れてパニックになると、とっさに動くこと、考えることが出来なくなってしまいます。めったに起きないことであっても、やはり現実的な「準備と訓練」を怠らないよう、私自身も気をつけたいと思いました。
 例えば、2003年に地下鉄火災が起きた韓国は、事故を教訓に、次のような対策を行っているそうです。
「また、別の機会で筆者が訪れた韓国テグ市の安全博物館では、2003年の地下鉄火災にあった事故車そのものを、駅を模した線路上に置いて展示していた。真っ黒焦げの車体を見ていると、死亡した196名の顔が見えるようでショックだった。このショックの後に、模擬車両に乗車すると、煙が噴出してライトが消える。しかし、落ち着いて、椅子の下の緊急安全コックを回して、車両のドアを手で開けて逃げる、という避難作業を実施させる。「ここでは小学生でも避難作業が身につく」と学芸員が筆者に豪語していたのだが、確かにそのとおりであろう。ガチンコの避難訓練に優るものはないのだから。」
 こういう訓練が、本当に大事だと思います。
 ところで、「まさか」の被害を想定して、「実地訓練」により「地雷」を見つけ出して、あらかじめ撤去しておくことがとても重要なのは、もちろんですが、東日本大震災後の日本人は、あまりにも「原子力」から目を背け過ぎなようにも感じます。「原子力」は、資源に乏しい日本にとっては、やはり有用なエネルギー源なのではないでしょうか? アメリカや中国が「宇宙」に力を入れている現状を見ても、今後は「宇宙」での競争が予想されます。超大国だけに独占や覇権争いをさせず、宇宙の平等な「平和利用」を促進できるよう、日本も「宇宙進出」すべきだと思います。「原子力」は、そのためのエネルギー源としても有望だと思うのですが……。
 とても心配なのは、このまま日本から「原子力」に関する「技術力」が失われていくことで、研究者や技術者を維持・育成するためにも、原子力の平和利用を今後も行っていくべきではないかと思います。
 それでも「まさか」の事態にも対応したい……と悩んでいたところ、この本にヒントが書いてありました。それは、「原子炉自身を海に浮かべる」方法。「原子力空母もニミッツ級になると50万kWの発電ができるそうである。これは福島第一の1号機の46万kWと同程度である。海に浮かべておけば津波に強いし、非常時は冠水させればよい。」のだそうです。もちろん「原子力空母」を作るのは問題外ですが、空母ではなく「海に浮かぶ原子炉」ならば、原子力の平和利用と安全性が両立できるかも……。
「失敗」を防ぐ努力をするのはもちろん大事ですが、未来に向けて新しいものを「創造」するための努力をするのも大事だと思います。中尾さんも次のように言っています。
「日本人も失敗防止のブレーキだけでなく、成功促進のアクセルを踏もう」
「リスクとチャンスは別物ではない。リスクは失敗の予兆であり、チャンスは成功の予兆である。どちらに気づいても、それなりに対策すれば成功する。面白いことに、リスクに強い人はチャンスにも強い。なぜならば、早い段階で予兆を感じ取り、素早く対応するからである。」
 ……いろいろなことを考えさせられ、とても参考になる本でした。ぜひ読んでみてください。
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 中尾さんの他の本、『なぜかミスをしない人の思考法』、『知っておくべき家電製品事故50選』、『続・失敗百選』、『続々・失敗百選』、『失敗の研究』に関する記事もごらんください。

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