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第1部 本

社会

世界の本当の仕組み(シュミル)

『世界の本当の仕組み: エネルギー、食料、材料、 グローバル化 、リスク、環境、そして未来』2024/9/2
バーツラフ・シュミル (著), 柴田 裕之 (翻訳)


(感想)
 徹底的な数値思考により、私たちの将来の決定要因である7項目を検証し、「世界は数年以内に滅びる」「技術革新が近い将来にすべてを解決する」のような両極端な主張を一刀両断、私たちに今こそ必要な、より現実的・建設的な未来を予測している本で、主な内容は次の通りです。
第1章 エネルギーを理解する――燃料と電気
第2章 食料生産を理解する――化石燃料を食べる
第3章 素材の世界を理解する――現代文明の四本柱
第4章 グローバル化を理解する――エンジン、マイクロチップ、そしてその先にあるもの
第5章 リスクを理解する――ウイルスから食生活、さらには太陽フレアまで
第6章 環境を理解する――かけがえのない生物圏
第7章 未来を理解する この世の終わりと特異点のはざまで
   *
「第1章 エネルギーを理解する――燃料と電気」では、人間がどのようにエネルギーを使ってきたかの歴史から始まって、エネルギーの現状が具体的な数値で示され、さらに将来についても考察しています。
 西暦1500年頃までは、仕事に変換できる有効な力学的エネルギーの90パーセント超は生物(人間と動物)が提供し、熱エネルギーはほとんどすべて植物燃料の燃焼から得ていたのですが、その後、石炭の発見→産業革命→石油へと変わっていくうちに化石燃料の利用は爆発的に増えていきました。
「(前略)私の計算では、化石燃料の利用は19世紀に60倍に、20世紀にそのさらに16倍に増え、過去220年間では約1500倍の増加を見せたことになる。
 化石燃料に対するこのような依存の高まりは、近代以降の文明の進歩を説明するうえで最も重要な要素だ。」
 続く「第2章 食料生産を理解する――化石燃料を食べる」では、狩猟採集生活から農耕へと進んで人々の食糧事情は改善しましたが、現在の食料生産では、太陽光だけでなく化石燃料も重要な役割を果たしていると言っています。
「(前略)現代世界にとって最も重要で、生存の根幹にかかわるのは、食料生産における、直接・間接利用を通しての化石燃料への依存だ。直接利用の例には、トラクターとコンバインとその他の収穫機を中心とするあらゆる農業機械や、農地から貯蔵施設や加工施設への収穫物の輸送、灌漑用ポンプの動力源となる燃料がある。間接的な利用ははるかに幅が広く、農業機械や肥料の生産と、除草剤や殺虫剤や殺菌剤といった農業用化学物質の生産に使われる燃料や電気に加えて、温室用のガラスやビニールシートから、精密農業を可能にするGPS(全地球測位システム)デバイスまで、他のさまざまなインプットに及ぶ。」
 ……そして、このような農業生産性の向上は、農業以外の仕事や研究に従事できる人口を増やして、人間の生活を豊かにすることにも役立ちました。
「疑念の余地のないまでに目覚ましい技術の進歩が、諸産業や輸送、通信、日常生活を一変させ、称賛されているが、そのほとんどは、農業の生産性向上があってこそなのだ。」
 ……確かに、その通りですね。
 また「第3章 素材の世界を理解する――現代文明の四本柱」では、現代文明の4本柱である「セメント」「鋼鉄」「プラスチック」「アンモニア」を大量生産するには、化石燃料の燃焼を必要とする(プラスチックとアンモニアの場合は原料でもある)ことが書いてありました。ここでは「アンモニア」が四本柱の一つであることが意外でしたが、ハーバー・ボッシュ法で大量生産が可能になった「アンモニア」は食料生産を大幅に向上させた「世界を養う気体」だからだそうです。
 そして「第5章 リスクを理解する――ウイルスから食生活、さらには太陽フレアまで」では、私たちのリスク認識が、あまり合理的ではないことが次のように指摘されています。
「原子力発電絡みのリスク認識で最も驚くべき対比は、フランスとドイツを比べたときに見られるかもしれない。フランスは1980年以降、70パーセント以上の電気を核分裂から得ており、60近い原子炉が国内に点在し、セーヌ、ライン、ガロンヌ、ロワールといった、フランスを流れる多くの川の水で冷却されている。それにもかかわらず、フランスはEU内ではスペインに次ぐ長寿国であり、これは、これらの原子力発電所が不健康や早死にの明確な原因になっていないことの、最高の証拠だ。ところが、ライン川の向こう岸では、ドイツの緑の党だけでなく社会のずっと大きな割合が、原子力は悪魔の発明であり、できるかぎり迅速に廃絶しなければならないと信じている。
 だから多くの研究者が、「客観的なリスク」は存在しないと主張してきた。測定しようとしても無駄で、それは私たちのリスク認識が本来主観的であり、特定の危険(馴染みのあるリスクと新しいリスク)の受け止め方や文化的状況次第だからだ。(中略)
 リスクの認識では、恐怖感が並外れて大きな役割を果たす。許容度に違いが出ることを示す最高の例は、テロ攻撃かもしれない。恐れが判断力を奪い、議論の余地のない証拠に基づいて簡単になされた合理的な評価を締め出してしまう。」
 ……うーん、そうかもしれません……。
 さらに「第6章 環境を理解する――かけがえのない生物圏」では、EUの研究者によるエネルギー需要の希望的観測は非現実的だとして……
「過去30年間に1人あたりのエネルギー需要が20パーセント増えたことを考えると、その需要を30年間で半減させられたら、それは驚異的な偉業と言える。それが実現するという推定は、モノの所有を減らし、日常生活をデジタル化し、エネルギーの変換と貯蔵の面で技術革新を急速に普及させ、エネルギー需要を大幅に減らせることを前提としている。」
 ……そして現状を正しく理解し、石炭火力による発電を天然ガスによる発電に置き換える、太陽光発電や風力発電を増やす、SUVから脱却して電気自動車の大規模な導入を加速させる、建築や家庭、商業でのエネルギー効率を上げるなど、より現実的な方法を実行すべきだと言っています。
 そして最後の「第7章 未来を理解する この世の終わりと特異点のはざまで」では、いくら情報や通信の技術の進歩が速くても、生存に必要なもの(十分な水の供給の確保、作物の栽培や加工、動物の飼育と食肉処理、大量の一次エネルギーの生産と変換、原料の採掘と無数の用途に合わせた加工など)の方の進歩には時間がかかるとして……
「このような現実を踏まえれば、私たちの生活の基礎が今後20~30年には劇的には変わらない理由がわかりやすくなる。」
 ……確かにそうですね……すると世界的な地球温暖化や自然環境の悪化などを改善することも非現実的なのかなあ、と少し悲観的になりましたが……
「いくつかの重要な事例で私たちが成功を収め、最悪の時代を避けられたのは、先見の明を持ち、警戒を怠らず、効果的な解決策を断固として見つけようとしたからにほかならない。」
 ……例えば、私たちはこれまで、効果的なワクチンの開発によるポリオの撲滅、飛行機の製造やシステムの改善による航空機の飛行リスクの軽減、食品加工と冷蔵技術による食中毒の減少など、さまざまな進歩をなしとげてきました。大事なことは、現実をきちんと把握すること、そして知恵を絞って、出来ることをやっていくことのようです。
・「遠い将来については知りえないという立場を取るのは、誠実なことだ。私たちは、自らの理解には限界があることを認めて、地球にまつわるすべての課題に謙虚に取り組まなければならない。そして、進歩や挫折や失敗はすべて私たちの進化の一部であり続けることや、どう定義したものであれ最終的な成功を収める保証がないこと、どんなシンギュラリティにも到達できないことを認識しなければならない。だが、蓄積された知識を決然と忍耐強く利用するかぎり、世界の終わりが早まることもない。未来は、私たちの成果や失敗から現れ出てくる。」
・「私たちの過去、現在、そして不確かな未来を現実的に把握することは、私たちの目の前にある、知りようのない時間の拡がりに取り組むための最善の基礎だ。(中略)未来は相変わらず、規定のものではない。その成り行きは、私たちの行動次第なのだ。」
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『世界の本当の仕組み: エネルギー、食料、材料、 グローバル化 、リスク、環境、そして未来』……私たちにとって重要な7項目の検証を通じて、世の中の実状を知り、将来に向けて何をすべきかを考えさせてくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『世界の本当の仕組み』