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第1部 本
社会
サーキュラーエコノミー(野田由美子)
『サーキュラーエコノミー (日経文庫)』2025/3/15
野田由美子 (著)
(感想)
サーキュラーエコノミー(CE)は、これまでの私たちの経済やビジネスのあり方を根本的に塗り替える革命で、そのインパクトは、経済やビジネスにとどまらず、社会、地域コミュニティ、そして私たちの暮らしそのものに大きな転換をもたらすものであることを詳しく教えてくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 サーキュラーエコノミーとは何か
1.いまなぜ、サーキュラーエコノミーか
2.サーキュラーエコノミーの基本
第2章 サーキュラーエコノミーの潮流
1.先進地EUのサーキュラーエコノミー政策
2.欧州各国の取組状況
3.EUから世界へ広がる
4.日本におけるサーキュラーエコノミーの胎動
第3章 ビジネス変革とイノベーション
1.サーキュラーエコノミーのビジネスモデル
2.サーキュラーエコノミーが生み出すスタートアップ
第4章 経営の新たな挑戦と未来像
1.世界の先進企業の取り組み
2.サーキュラーエコノミー経営に求められるもの
3.日本企業の取り組み
第5章 サーキュラーエコノミーへの移行を可能にするイネーブラー
1.循環型サプライチェーンを担う静脈プレーヤー
2.ステークホルダーをつなぐデジタル技術
3.産業の変革を促す金融の役割
第6章 都市のあり方を変える
1.世界を牽引するアムステルダム市
2.サーキュラーシティづくりの要諦
3.日本の都市・地域の事例
第7章 市民力と地域力をつくり出す
1.システム変革の主役を担う市民
2.市民セクター主導の活動
3.人のつながりと地域の活性化
第8章 日本の未来を拓く
1.出発点を確認する
2.未来を共有する
3.アクションを起こす
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「はじめに」によると、サーキュラーエコノミーとは……
「サーキュラーエコノミーは、モノを使い捨てにせず、リペアやリファービッシュ、あるいはアップサイクル、水平サイクル、ダウンサイクルという様々なリサイクル手法を通じて資源を循環させると同時に、地球や自然から搾取するのではなくむしろその再生に努めるというものです。(中略)
グローバル規模での必要な資源の移動を前提としながらも、デジタル技術や科学技術イノベーションを最大限に活用し、モノや資源を循環させることで価値を生み出し、むしろ経済の持続性を確保し、雇用を創出しようとするのがサーキュラーエコノミーです。」
*
地球温暖化問題だけでなく、現在の地球には資源の問題もあります。第1章には次のように書いてありました。
「2024年3月、世界の著名な科学者や専門家で構成される国連環境計画の「国際支援パネル(International Resource Panel:IRP)」は、世界の資源(農作物、森林・畜産・水産資源、化石燃料、鉱物資源)の採取量が過去50年間に3倍以上に急増し、驚くべき規模での負の影響をつくり出していると警告しました。」
そして……
「サーキュラーエコノミーへの潮流を動かしているもう一つの重要な背景が、枯渇する資源をめぐる国際的な争奪戦と、それに伴う経済安全保障の問題です。」
……この本を読む前には、「サーキュラーエコノミー」は、リサイクル活動のようなものと勘違いしていましたが、それとは根本的(革命的)に違う活動のようです。
「(前略)サーキュラーエコノミーとは、廃棄物の削減やリサイクルといった個別の取り組みや改善ではなく、経済全体の構造的な(システマティックな)変革を意味しているのです。それは、環境保護や廃棄物管理といった個々の政策を超えて、経済活動の根本的な再構築を目指す包括的なアプローチであり、持続可能性と経済成長の両立を目指すビジョンなのです。」
また、次のようにも……
「廃棄ゼロを可能とするためには、経済のあらゆるプレーヤーを巻き込んで、システム全体を変革しなければなりません。製品の設計のあり方、廃棄とならない原材料の新規開発、廃棄を出さない製造や建設のあり方、消費のあり方、再生のための技術、関係する事業者間の協働、静脈産業と動脈産業の連携、原材料の技術革新、デジタルによる資源のトレーサビリティなど、経済全体の仕組みとビジネスモデルを根本から見直さなければならないのです。」
……つまり製品の使用終了後からではなく、製品の設計段階から「廃棄と汚染を出さない」「製品の寿命を延ばして使い続ける」などの仕組みに取り込んでいく活動なのです。
続く「第2章 サーキュラーエコノミーの潮流」では、サーキュラーエコノミーへの移行を牽引しているEUの先進的な取り組みの事例(オランダやフランスなど)が具体的に紹介されていました。
また「3章 ビジネス変革とイノベーション」では、アクセンチュアが次の5つのビジネスモデルを提示していることが書いてあります。
1)循環型サプライチェーン
2)プロダクト・アズ・ア・サービス(PaaS)
3)シェアリング・プラットフォーム
4)製品寿命の延長(中古再販、修理、リファービッシュ、再製造など)
5)回収とリサイクル
……PaaSやシェアリングも、サーキュラーエコノミーの1つなんですね。
そして「第5章 サーキュラーエコノミーへの移行を可能にするイネーブラー」では、次のようなEUの「デジタル製品パスポート(DPP)」という仕組みが紹介されています。
「サプライチェーンの各事業者の情報登録により、サプライチェーンの他事業者・消費者が、製品のライフサイクルにわたる経営影響度・循環度その他の情報にアクセスできる仕組み」
……ここでとても参考になったのが、オランダのスタートアップのCircularise社が提供している「サーキュラーエコノミーの実現に向けたブロックチェーンを使ったトレーサビリティ管理プラットフォーム」という仕組みで……
「サーキュラーエコノミーの本格的な社会実装には、製品のライフサイクルにわたる情報を多くのプレーヤー間で共有することが望まれますが、企業にはビジネスにおける優位性を保持すべく企業秘密を守る必要があり、すべての情報を公の場で開示することを躊躇します。同社は、この課題に対して、暗号学における「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)」と呼ばれる技術を組み合わせ、透明性と匿名性を同時に成立させるアプローチにより解決策を提示しています。」
……確かに。サーキュラーエコノミーには「修理」や「再利用」が欠かせないために、製品の情報を詳しく開示する必要がありますが、競争のために秘密にしておきたい情報も開示させられかねないという製造企業側の危機感にどう対処するのか疑問に思っていたのですが……それに対処しようという会社もあったんですね……。
EUではサーキュラーエコノミーの促進を、環境問題への対応としてのみ捉えるのではなく産業政策として位置付け、経済の仕組み自体を変え、成長につなげていくことを掲げています。その背景には、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムが限界に達し、生産と消費そのものの在り方を変えるべきだとの問題意識があるようです。
「第8章 日本の未来を拓く」には、日本も、これまでの循環型社会形成への取り組みで培ってきた技術やノウハウを活かして、資源の確保や環境負荷の低減の取り組みを競争力の強化や成長戦略につなげる、サーキュラーエコノミーの実現を目指すことの重要性が書いてありました。
「(前略)資源小国の日本は、エネルギー資源だけでなく、鉄鉱石、銅、アルミニウム、さらにはレアアースや希少鉱物資源も、その大部分を世界に依存しています。」
……その通りですね。その一方で国内には大量の電気製品の廃棄物があるのですから、その「都市鉱山」からの鉱物資源を再利用すべきだと思います。
『サーキュラーエコノミー』……サーキュラーエコノミーは「リサイクル産業」ではなく、耐久性・修理性・リサイクル性に優れた製品を作る「ものづくり産業」であることを、先進事例もまじえて総合的に詳しく紹介(解説)してくれる本で、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『サーキュラーエコノミー』