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第1部 本

脳&心理&人工知能

まず知っておきたい心理学(市村彰英)

『まず知っておきたい心理学 基礎・応用・実践まで心理学のエッセンスをつかむ』2025/4/12
市村彰英 (著)


(感想)
 心理学のエッセンスと、児童相談所などでの応用例を紹介してくれる入門書です。
 第1部は基礎心理学。学習心理学、認知心理学、生理心理学などの概説があります。
 第2部は応用心理学。臨床・発達心理学、社会心理学などの概説がありました。
 そして第3部には、心理学を用いた実践について、具体的な内容にまで踏み込んだ解説があります。市村さんは、家庭裁判所調査官を20 年務めたのち、大学教員として心理学を教えているので、家庭裁判所でのカウンセリングに詳しく、この第3部が特に参考になりました。
「わが子を虐待してしまったお父さんたちのグループワーク」があるのですが、これでは「オープンダイアローグ」という手法が使われているそうです。
 北欧フィンランドのケロプダス病院では、薬物による措置の前に「開かれた対話」が行われていました。そして1984年に対話主義が宣言され、次の2つが決められたそうです。
1)その人のいないところで、その人の話をしない
2)1対1で話さない
 またこの「オープンダイアローグ」には、次の7原則もあります。
1)即座に助ける:相談の連絡受理後、24時間以内に対応
2)当人のネットワークにある人たちを招く
3)柔軟かつ機動的に
4)責任:スタッフはしっかりとリフレクティングする
5)心理学的な連続性:担当者を理由なく変更しない
6)不確実な中に一緒に居続ける:一緒に考える
7)対話主義:目的のために対話をするのではなく、対話こそが目的
   *
 オープンダイアローグは「車座になって語り合う・対話を繰り返すだけ」というもので、実際には次のように行われているようです。
幻聴や妄想で興奮状態にある患者さんの家族から相談の連絡がくると、2名以上のスタッフがその家庭を訪問し、家族と車座になって、当人が見聞きできるところで対話を始めます。対話の内容は、当人の症状や家族の苦労話、あるいは世間話。その結果、徐々に当人が落ち着き始めるのだとか。……なんとこの「対話」で約7割もが落ち着くそうです。落ち着かない時は連日対応し、それでも激しい興奮状態が続くときだけ、神経弛緩剤を投与することもあるようです。このオープンダイアローグが用いられるのは、統合失調症、精神科医療ですが、最近では、ひきこもり、非行、犯罪、児童虐待、高齢者虐待、DVなどにも応用されているのだとか。
 そして「わが子を虐待してしまったお父さんたちのグループワーク」の構成メンバーと進め方は……
 グループワークの参加者は、子どもを虐待していた様々なお父さんたちの他、ファシリテータとして外部の臨床心理士と精神科医、そして窓口となる内部スタッフ。
 スタッフがメンバーに順番に話を聴いていくのが一対一法。次にスタッフが二人のメンバーとコミュニケーションを取る扇形法、メンバー同士が直接コミュニケーションをとるメンバー話し合い法などを行い、最後の20~30分でリフレクティング(スタッフはメンバーたちの前で、メンバーたちと向かい合わせに座り直し、スタッフがメンバーの話をどのように聴いたか、感じたかを話す)を行い、スタッフが話し終えた後、再びメンバーとスタッフが車座になり、メンバーたちが自分自身の思ったこと感じたことを話して、クロージングとなる……という感じのようです。
 お父さんたちはだいたい2年間で家族が再統合されてグループを卒業していき、およそ3か月ごとに新しいメンバーが加わるのだとか。ベテランのメンバーの自己紹介を傾聴していると、回数を重ねるごとに、自分の行為と対峙できるようになっていく変化が見られるようで、この「対話」にはとても効果があるようです……薬物を利用する場合は副作用や依存症が心配ですが、この「対話」は理想的な療法のように思えました。
 この他にも、非行少年に行われる「家庭裁判所の「親の会」」や、「家庭訪問型子育て支援の取り組み」などが事例紹介されていました。
『まず知っておきたい心理学 基礎・応用・実践まで心理学のエッセンスをつかむ』……心理学の基礎知識や代表的な心理療法の概要が学べるだけでなく、それが社会で活かされている現場についても知ることができる本で、とても参考になりました。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『まず知っておきたい心理学』