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第1部 本
描画参考資料
標本画家、虫を描く(川島逸郎)
『標本画家、虫を描く──小さなからだの大宇宙』2024/7/19
川島 逸郎 (著)
(感想)
点と線、ペン先でとらえる生命の形……来る日も来る日も、ただひたすらに虫を描いてきた孤高の標本画家・川島逸郎さんが、自らの半生と仕事を語ってくれる本です。
「標本画」は、一般の絵画とはまったく違うもののようです。次のように書いてありました。
「「標本画」とは何か? それは、標本と科学的な知見をもとに、対象となる生き物の種類ごとの標準的な姿形をグラフィックス(付図)として示すものです。形態学的にも解剖学的にも、正確さを追求するのは言うまでもありません。芸術的な絵画との大きなちがいは、「見る側へ、何を示し、伝えるための絵なのか」が明確なことです。雑多な視覚情報が入り混じった写真ともちがい、あらかじめ定めた目的に沿って、描き込む情報の整理や抽出、省略を行うことがもっとも重要です。」
……本書では、川島さんが描いた精密極まる昆虫の標本画を多数見ることができますが、これはただ細密なのではありません。
「(前略)私は細密画を描きたかったのではなく、形取りにはじまり、引く線の一本にいたるまでも科学的な裏づけをともなった描き方をしたかったのです。いま現在、私が手がけている標本画は細密な描写で成り立っていますが、絵の目的にかなうために表現が結果的にそうなったに過ぎず、「細密」である必要はないのです。やはり、対象を深く理解する昆虫学の素養が、何より必要不可欠と思われたのでした。」
……一本の線にも点にも、すべて科学的な裏づけがあるのです。だから描くためには顕微鏡が必須なのはもちろんのこと、解剖すら必要だそうです。なにしろ……
「(前略)スケッチは部分ごとに取っておき、後で全身像へ合成します。なせなら、部分それぞれに特徴がもっともよく現れる角度があるからで、その角度にいちいち標本を設置し直してスケッチします。」
……そして正確な「部分」を描くためには、外から見えない内部の構造を知っておくことが必要なのです。
科学的に正しく立体感を表すためには……
「昆虫とその部分の形だけを伝えたい、つまり二次元の情報を示す図などは、シンプルにそれらを抽出した線だけで描きますが、昆虫の立体的な形のつくりといった三次元情報のほか、色みや斑紋を示したい場合は、点描を加えます。点描とは、点(ドット)の集合の密度や濃度の加減によって、立体感を表現する方法です。」
……実際、どの標本画も、ものすごく細かい点が微細に描き込まれていました。「引いてよい線は、外形を表す線、それに縫合線の二つだけ」だそうです。
そしてこの線もまた……
「私の画においては、線は基本的に、ふるえたりゆらいだりすることのないように、一定の速さで引きます。しかし、これが難しい。直線であれば直線定規が使えますが、そうは問屋がおろしません。なぜなら、生物の体には直線というものがおよそ存在しないためです。」
……描画に対する真摯さが半端なく、一つ一つの標本画に費やされた時間を思うと、本当に凄いものだなーと感心せずにいられません。
例えば、「ナナホシテントウを描く」では、テントウムシを顕微鏡で見たら、あのつるつるしているように見える体が、実はでこぼこだらけだったことに驚かされたそうです。
「表面のなめらかさや光沢を表現しながらも、これら細かな点刻がうもれてしまわないようにせねばなりません。」
……ということで、実際に出来上がった標本画を見ると、体中に細かい点刻が施されているのに、きちんと「つるつる感」も表現されていて……本当に見事なものです。
また「蟷螂の斧 カマキリと私と」でも……
「(前略)カマキリの場合は体の大半で、外皮の下を裏打ちするように色素細胞の層があるものか、バッタやキリギリスにも似たかすかな透明感があります。要は、多少は透明な外皮のすぐ下に、透けて見えている色合いがあるのです。さらに、その色調が種類ごとに微妙に違います。」
……これもまた、そのように描かれているのです……その驚異的技術力に、ため息がでてしまいました……。
『標本画家、虫を描く──小さなからだの大宇宙』……標本画家の川島さんの驚異的に真摯な仕事ぶりをじっくり見せてもらえる貴重な本でした。多数の標本画を、それを描いたときの苦労話とともに見ることができるので、とても参考になりますし、描く時の道具や描き方、さらに解剖の仕方まで教えてもらえます(とても真似できそうにありませんが……)。
細密な昆虫の画ばかりなので、昆虫が苦手な方には厳しいかもしれませんが、昆虫が好きな方はもちろん、絵を描くのが好きな方も、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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『標本画家、虫を描く』