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第1部 本

社会

プライバシーという権利(宮下紘)

『プライバシーという権利: 個人情報はなぜ守られるべきか (岩波新書 新赤版 1868)』2021/2/22
宮下 紘 (著)


(感想)
 個人情報がビッグデータとして利用されている現代、個人が尊重される社会を実現するため必要となるのは、人格形成や民主主義にも関わる重要な問題として、権利としてのプライバシーを問いなおすことだということを深く考察している本です。
「第二章 進化するプライバシーの権利」には、プライバシー権が形成されてきた歴史的経緯などが書いてありました。
「プライバシー権は、一八九〇年、ボストンの弁護士であったサミュエル・ウォーレンとルイス・ブランダイスが『ハーバード・ロー・レビュー』に執筆した「プライバシーへの権利」という論文に由来します。この論文において、二人はプライバシー権を「独りにしておいてもらう権利(the right to be let alone)」と定義しました。」
 ……そして日本のプライバシー権の原点となったのは、『宴のあと』事件(『宴のあと』は実在の人物をモデルにした三島由紀夫の小説)で、日本で初めて司法の場で、「私生活をみだりに公開されないという法的保護ないし権利」としてのプライバシー権が認められたそうです。
 ところでなんと日本国憲法には、プライバシー権が明記されていないそうです。
「諸外国の例を見ると、憲法においてプライバシーを権利として保障する国も多く見られます。比較憲法プロジェクト調査によれば、世界にある二〇九の憲法のうち、約八四%に相当する一七六の憲法においてプライバシー権が実質的な意味で規定されています。
 日本国憲法には、プライバシーの権利が明文で規定されていません。プライバシー権を明文で規定しない少数の国に分類されます。」
 ……そうだったんだ。でも最高裁は「憲法第一三条からプライバシー権」を導き出しているようです。次のように書いてありました。
・「日本において、人格権とは、「主として生命・身体・健康・自由・名誉・プライバシーなど人格的属性を対象とし、その自由な発展のために、第三者による侵害に対し保護されなければならない諸利益の総体」であると定義されます。」
・「日本の最高裁は、名誉侵害の事例において、「人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきである」と判示し、憲法第一三条から人格権の名誉権が導かれることを示しました。」
・「プライバシー権の理論構成は、人格権と財産権という観点のみならず、自己の情報をコントロールする権利としても位置付けられてきました。」
・「憲法上のプライバシー権についてみてみると、最高裁は一九六九年「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」と判示しました。」
・「さらに、住基ネットによる個人情報の収集に関する事件において、最高裁は、憲法第一三条を根拠に、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する」ことを明らかにしています。
 このように最高裁は、公権力に対する「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を規定する憲法第一三条からプライバシー権を導き出しています。」
 そして「第3章 個人情報保護法の新時代」では……
「プライバシーの権利は、明文で保障されているわけではありません。しかし、プライバシーの権利を後押しする法律として個人情報保護法が存在します。」
 ……とありました。
「二〇〇三年に成立した個人情報保護法には、前述したようにプライバシーという言葉はなく、「個人の権利利益」を保護することが目的とされています。そして、個人情報保護法の基本原則は、一九八〇年OECD(経済協力開発機構)プライバシーガイドライン(二〇一三年七月に改定)に示された八原則を反映しています。」
 この「OECD(経済協力開発機構)プライバシー8原則」は次のとおりです。
1)目的明確化の原則
2)利用制限の原則
3)収集制限の原則
4)データ内容の原則
5)安全保護の原則
6)公開の原則:取得した時は利用目的を通知または公表
7)個人参加の原則:目的等を本人の知り得る状態にする
8)説明の原則:苦情の適切・迅速な処理
   *
「第4章 プライバシー保護法制の国際動向」では、プライバシー保護に関する拘束力を有する国際条約は一つしかないということに驚かされました。
「プライバシー保護に関する拘束力を有する国際条約は、現在のところ、一九八一年に採択された欧州評議会「個人データの自動処理に係る個人の保護に関する条約」(第一〇八号条約)のみです。」
 ……そうだったんだ。この条約には、次の3つの特徴があるのだとか。
(特徴1)国籍や居住地にかかわらずあらゆる人を対象に、官民問わずデータ保護の原則が適用される
(特徴2)データの自動処理を主な規制対象としている
(特徴3)司法手続きとは別に、データ処理を監視するため独立した監督機関による調査権限が付与されている
   *
 ヨーロッパの個人情報保護はかなり厳しいようです。
 ヨーロッパは「権利基底アプローチ」(害悪の有無に関係なく、個人の「権利」への干渉を防止する仕組み)をとっているのに対し、アメリカは「害悪に基づくアプローチ」(個人情報の不正利用で「害悪」が生じた場合、保護対象にする)をとっているようで……個人情報保護の状況は、各国でかなり違っているようでした。
「こうして世界の動向を見ると、EUはアメリカへのデータ移転を制限して緊張関係が継続しつつあり、またアメリカは中国によるデータ利用を制限して安全保障を理由としたプライバシー問題が提起されているという、プライバシー権をめぐる世界の構図を理解することができます。」
 ……と書いてありました。
 そして最終章の「第5章 プライバシー権をめぐる新たな課題」では、「一定の監視を正当化する方法は、監視に対する監視を行うことです。」として、個人情報に関する独立した監督体制の存在が重要だとありました。
 独立した監督機関が、司法機関とは別に必要とされる理由としては……
1)司法は個別具体的な事案を処理することを目的とするが、データ保護監督機関は、事件に発展する前の段階で未然にプライバシー権と個人データ保護権の侵害を防止することを狙いとしている
2)公的機関が保有する個人情報の均衡を図るという観点からは、情報の非対称性を是正するために独立した監督機関の役割が重要になる
   *
「(前略)独立した監督機関による効果的なチェック機能が確保されることで、行政機関や自治体等、そして民間企業が個人情報保護法制を遵守した上で個人データを利活用していることを保証し、利用者に信頼感を与えうる点において、独立した監督機関はデータ利活用に貢献しているとみることができます。」
 ……監視に対する監視をきちんと行うことが、社会を良くすることに役立つのでしょう。
「プライバシーは事後に回復することが困難な権利であるため、実質的害悪が生じていなくても、権利侵害を未然に防止するための統治システムが必要となります。」
 ……まったく、その通りだと思います。
『プライバシーという権利: 個人情報はなぜ守られるべきか』……デジタル環境の変化に伴って、私たちの個人情報は、自分が知らないうちにビッグデータとして利用され、効率とともにリスクをも生み出しています。個人が尊重される社会を実現するため、権利としてのプライバシーはどう扱われるべきかを総合的に語っている本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『プライバシーという権利』