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第1部 本

社会

国際取引法入門(早川吉尚)

『国際取引法入門』2024/11/18
早川 吉尚 (編集), 森下 哲朗 (編集)


(感想)
 国際取引法の基礎的知識をコンパクトにまとめて、現代企業が直面する国際取引上の問題について分野横断的に解説してくれる入門書です。
 グローバル化が進んで国際取引が盛んになる一方で、少子高齢化が進む日本の企業が、これから生き残っていくためには、アジアを中心に急拡大している新興国マーケットに対して自社の商品やサービスを効果的に売り込んでいくことがとても重要です。すでに輸出が日本のGDPに占める割合が15~20%になっているだけでなく……
「帝国データバンクが2023年に公表した「海外進出・取引に関する企業の意識調査」によれば、日本企業の28.1%が直接に、または、他社を介する等して間接的に、海外と取引を行っている。」
 ……日本企業のグローバル化もちゃくちゃくと進んでいるんですね。

 そして国際取引法を学ぶ際、重要な目標は次の3点なのだとか。
1)典型的な国際取引の基本的な仕組みやルールを知ること
2)総合的、分野横断的な分析ができるようになること
3)さまざまな当事者の立場に立って具体的な問題を検討し、対応策を考えることができるようになること
   *
 国際取引では……
「国内取引では、私法も公法もその国の法の適用のみを考えればよいが、国際取引では、関係する複数の国の法が適用される可能性がある上、国家間のルールである国際法(条約)も適用される可能性がある。」
 ……法律についても、もちろん知っておく必要があります。
 そしてどんどん拡大している国際取引については、国際取引に関係する私法を統一する努力もなされていて、国連国際商取引法委員会、私法統一国際協会による条約の策定やモデル法の提示などもあるようです。
 また自由貿易主義に基づく取引の基本的な枠組みとして、関税及び一般協定(GATT)があり、事業者間の国際物品売買契約には「国際物品売買に関する国際連合条約」(CISG)が、一般的ルールとしては「国内および国際定型取引条件の使用に関するICC規則」(インコタームズ)もあります。(なおインコタームズとは、貿易上の責任範囲と費用負担を定義した貿易条件で、貿易取引における「危険負担」「費用負担」「保険負担」を売り手と買い手どちらが行うべきかが明記されています。)
 ICCは、国際取引慣行上利用されてきた表現内容を取りまとめ、貿易条件として次のようなインコタームズを作成しています。
・EXW(Ex works):工場渡し
・FCA(Free Carrier):運送人渡し
・FAS:Free Alongside Ship:船側渡し
・FOB(Free on Board):本船渡し
・CFR(Cost and Freight):運賃込み
・CIF(Cost, Insurance and Freight):運賃保険料込み
・CPT (Carriage Paid To):(輸送費込み
・CIP (Carriage And Insurance Paid To):運送費と保険料込み
・DAP(Delivered at Place):仕向地持込渡し
・DPU (Delivered at Place Unloaded):荷卸込持込渡し
・DDP(Delivered Duty Paid):関税込持込渡し
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 本書ではこのように、国際取引に関する法律や、国際事業展開などの他、国際コンプライアンス、紛争処理など、国際取引法に関して総合的に解説してくれるのです。
「国際経済法」については……
「自由で公正な国際取引を進めるための国内的な法的枠組みとしては、まず、自由な経済活動を保障する競争法がある。さらに、自由な経済活動の尊重と並行して、自国の安全保障や腐敗防止のための関連法規も整備されつつある。一方、国際的な法的枠組みとして、商品、サービス貿易の自由化などを対象とするWTO体制があるが、他国間交渉であるWTO体制の限界により、特定の国や地域間のみを対象とするEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)なども広がりつつある。」
 また個人的にとても参考になったのが、「国際取引紛争における裁判地の意義」。次のように書いてありました。
「国際取引において、その紛争解決に特化した超国家的な国際民事裁判所が存在し、言語面などで使い勝手が良いものであれば、国際取引紛争にかかる裁判はそこに集約させることが適当となる。しかし、そのような裁判所は現在のところ存在していない。結局は、いずれかの国の裁判所が最後の砦として用いられることになる。」
 ……国際取引を行う者は、この状況を視野にいれた上で契約交渉に臨む必要があるそうです。万が一の時に備えて、契約書等で裁判地を合意することが望ましいのだとか。
「(前略)管轄合意があった地で訴えが提起された場合、条約があればそれにより、ない場合には当該地の国内法により、合意の抗力として自国の管轄権を行使できるかを判断する。」
 ……でも国際的な裁判は、手続きや使用言語の面で簡単ではないので、「国際取引においては、裁判以外の紛争解決方法である仲裁の利用が盛んである。」そうです。
 そして仲裁機関として、ICC国際仲裁裁判所、アメリカ仲裁協会、シンガポール国際仲裁センター、ロンドン国際仲裁裁判所、日本商事仲裁協会などがあることが書いてありました。
 UNCITRAL国際商事仲裁モデル法(モデル法)というものもあり、これに準拠して仲裁法が立法される国(日本も準拠)も多いようです。そして……
「どこの国の仲裁法が適用されるのかは、仲裁地により定まる。たとえば日本の仲裁法は、原則として、仲裁地が日本国内にある場合に適用される(仲裁法1条・3条2項)。
 仲裁地とは、仲裁手続きと当該仲裁手続きに適用される仲裁法を決定するための法的概念であり、つまり、仲裁地は東京であったとしても、手続き準備会合や審問は必ずしも東京で行う必要はなく、シンガポールやニューヨークやロンドンで行っても構わない。仲裁地は当事者が合意によって決定する。」
 仲裁合意が有効なものと認められるためには、以下の仲裁法の要件を満たす必要があるそうです。
1)仲裁可能性があること(当事者が和解をすることができる民事上の紛争を対象とした仲裁合意でなければならない)
2)一定の法律関係に関する紛争を対象とする仲裁合意であること
3)書面等の形式的要件を満たすこと
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『国際取引法入門』……日本の企業にとって、今後重要性を増していくと思われる国際取引法について総合的に解説してくれる本で、とても勉強になりました。国際的なルール作りへの努力はなされているようですが、各国の事情が大きく異なることから、統一的な仕組みが出来上がるまでの道のりは遠そうで、今後、どんどん変わっていきそうな気がしますが……現状を知っておくことは大事だと思います。国際取引法をこれから学ぼうと思っている方、国際ビジネスに携わる方は、ぜひ読んでみてください。
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『国際取引法入門』