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第1部 本
社会
SNS時代のカルチャー革命(竹田ダニエル)
『SNS時代のカルチャー革命』2024/11/28
竹田 ダニエル (著)
(感想)
ビヨンセと人種差別、映画『バービー』と資本主義……SNS上で巻き起こる議論を分析。現代のカルチャーの成り立ちや変化、そこに紐づく社会への問題意識に光をあてている本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 サードプレイスの消滅
第2章 アルゴスピークという抵抗
第3章 Girlhoodの再定義
第4章 学生デモとパレスチナ
第5章 ビヨンセとカントリー音楽
第6章 映画『バービー』がもたらしたもの
第7章 Tradwifeブームとフェミニズム
第8章 「Girl」トレンドの変遷
第9章 「Fast Car」が愛され続ける理由
特別対談 竹田ダニエル × SKY-HI 議論自体が自己肯定感につながる
おわりに
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なお「はじめに」によると、「本書は、『群像』での連載「世界と私のAtoZ」の第20回から28回(最終回)までをまとめたものである。」なのだとか。
さて、この本のタイトルは『SNS時代のカルチャー革命』ですが、どちらかと言うと「若者から見た現代のアメリカの状況」を紹介してくれるもののように感じました。著者の竹田さんは、1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住(カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中)のZ世代ライター・研究者なので、まさに現在、アメリカの社会、特にSNSで起こっていることを語ってくれるのです。
例えば「第1章 サードプレイスの消滅」には、次のように書いてありました。
「2024年上半期にアメリカのSNSで大きな議論になったテーマと言えば、「大人の孤独問題」「サードプレイスの消滅」そして「消費主義とアイデンティティ形成の繋がり」といいう3つが思い浮かぶ。さらに、その3つを繋げて考えることで、現代アメリカの資本主義の限界と、そこから生まれる様々な精神的・身体的な問題が浮き彫りになった。」
……ちなみに「サードプレイスの消滅」とは、お金を使わなくても仲間で集まれる場所(安価なレストランや公園や図書館など)が減っていることを言うそうです。
また「大人の孤独問題」は、パンデミック以降、オンラインでの繋がりは増えたが、リアルで他者と接触する機会が大きく減ったという状況のことのようで……これは日本でも同じかもしれません。
続く「第2章 アルゴスピークという抵抗」では……
「Z世代の間で、「algospeak(アルゴスピーク)」という言葉が話題になった。アルゴスピークとは、SNSプラットフォームのアルゴリズムによる検閲を回避するために、主に若者(特にZ世代)が使い始めた、あえて間違えたスペル、発音、または隠語のことだ。」
……とありました。これは日本でもかなり昔からあるオタク用語や、女子学生たちの造語と似ているのかも。オタク用語にも検索逃れという側面があったはずですが、algospeakは、はっきりそれを目的にしているんですね。
この章では、「現代の社会は、アルゴリズムに支配されていると言っても過言ではない。」など、ネット特有の問題について考えさせられることがとても多かったです。
特に次の指摘には、私自身も懸念をいだいています。
「私たちが使う言葉、私たちが作るコンテンツ、そして私たちが抱く価値観は、私たちが消費する、そして見せられるコンテンツの種類に大きく影響されている。私たちは、見せられたコンテンツを素直に受け取り、それが他のみんなも見ているものだと思い、自分が見せられているものが「真実」や「規範」だと思い込んでしまう。しかし実際には、私たちが世界を見るレンズは、私たちの好みに合わせてコンテンツをキュレートするアルゴリズムによって細かく調整されているのだ。アルゴリズムが私たちにどのような影響を与えるのか、あるいは私たちがアルゴリズムにどのような影響を与えることに特化した教育システムはほとんどない。ほとんどの人は、技術的バイアスの影響を受けながらも、それを意識せずに日常生活を送っている。より倫理的なアルゴリズムと正義志向のテクノロジーを生み出すためには、データの不平等とそれが及ぼす影響について、まずは知るところから始めなければならない。」
……私たちが何かを「検索」したときに、上位に表示されるものを選んでいるのは、こういうアルゴリズムなんですよね……それを忘れてはいけないといつも思ってはいるのですが、やっぱり忘れがちで、検索結果も上位5~10番目ぐらいまでしか読まなくなってしまっているんですよね……うーん、ちょっと反省……。
それと、竹田さんも指摘しているように、「アルゴリズムが私たちにどのような影響を与えるのか、あるいは私たちがアルゴリズムにどのような影響を与えることに特化した教育システムはほとんどない」のも問題だと思います。ネットからの「お勧め」情報などは、私たちを誰かの都合のよい方向へ誘導するための情報なのかもしれないことを、本来は、私たち全員が知っておくべきことのような気がします。
さらにはネットのもっと大きな問題、偽メール、闇バイトへの勧誘、フェイクニュースなど……現在のネットの持つ危険性についても、学校教育などで子どもたちに教えておく必要があると思います。
また「第4章 学生デモとパレスチナ」には、ガザで行われているイスラエル軍によるパレスチナ人の虐殺に抗議するために、アメリカの大学で学生デモが過熱したことについて、次のように書いてありました。
・「(前略)誰もがスマホを持ち、動画を撮影してSNSに投稿できる時代になったことで、アメリカの様々な腐敗や二面性、不都合な真実が浮き彫りになった。」
・「腐敗や虐殺は起きておらず、まるで「平和」であるかのように国が情報を統制できる時代は終わった。誰でもSNSプラットフォームで大手メディアの記事の見出しや内容を批判したりファクトチェックをしたりできる時代にいて、イスラエルの主張をそのまま垂れ流し、ガザへの侵攻を正当化するようなプロパガンダ的メディアは影響力を失っている。ガザ侵攻に反対するライターたちの組織、「Writes Against the War on Gaza」によって運営されているウェブサイト「The New York War Crimes」は、The New York Timesの偏向報道やミスインフォメーションなどを調査し、批判する役割を果たしている。」
・「(前略)CNNをはじめとした、本来「信頼できる」はずのレガシーメディアのみを信じる人は、ファクトチェックされているかわからない情報を鵜呑みにしてしまう。」
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……うーん。The New York TimesやCNNの報道は、やっぱり信頼してしまうかも……というか「本来「信頼できる」はずのレガシーメディア」が信頼できないなら、アメリカでは何を信頼していいのか分からなくなってしまいそうな……。
大人である私でさえ何を信頼していいのか分からなくなりそうなSNS時代に、若者たちはいっそう迷っているのでは? と心配してしまいましたが、最後の「特別対談 竹田ダニエル × SKY-HI 議論自体が自己肯定感につながる」では、若い二人の考え方がとても合理的で、必ずしもSNSを無条件で受け入れているわけでもないことを知り、ちょっと安心しました(笑……未来は明るいという意味で)。
例えばSKY-HIさんは、「SNSに対しても人間的成長や健康の観点から懐疑的です。」と言っています。
そして「議論」に関しても……
竹田「議論できるっていうのは、みんな違うということが当たり前にあって、その違いを理解した上で意見を聞くことが大事だよね。」
SKY-HI「そうだね。それに、楽しいとも思う。夢がある気がするけどね。議論することで、人はみんな違うっていうことを実感できると思う。(後略)」
……お二人とも、他の人の意見を聞きつつも、自らの考えで、さまざまな物事について合理的に判断しているようです。
『SNS時代のカルチャー革命』……SNSがもたらした功罪を中心に、現在のアメリカ社会の状況を詳しく紹介してくれる本で、アメリカ社会に疎い私にとって興味津々でした(へぇー情報が満載です)。インターネット世界やアメリカ社会に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『SNS時代のカルチャー革命』