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第1部 本
生物・進化
カタツムリから見た世界(ドゥーレン)
『カタツムリから見た世界: 絶滅へむかう小さき生き物たち』2024/9/24
トム・ヴァン・ドゥーレン (著), 西尾義人 (翻訳)
(感想)
かつてハワイ諸島に存在していたカタツムリは、現在では3分の2近くが失われています。植民地化、コレクションブーム、肉食のカタツムリを持ち込んでの害虫駆除……かれらが絶滅した多くの原因は、人間の歴史の延長線上にあるのです。そんなカタツムリたちが絶滅へ向かっている過程を克明に描いている本です。
『カタツムリから見た世界』というタイトルだったので、べたべたした粘液をまとって草葉の上から大きな世界を見上げているという、人間とはまったく違った生き方がどんなものかを教えてくれるような、ある種の童話っぽい本かなーと想像していたのですが、ハワイのカタツムリに関して歴史的・生物学的・環境的な視点から詳しく解説してくれている、かなり学問的な感じの本でした。
『カタツムリから見た世界』に関しては……
・カタツムリは人間とはまったく異なる感覚で世界を認識している。カタツムリはほとんど目が見えない。視覚だけでなく聴覚もほとんどない。その代わりに環境中の化学信号を受け取る化学受容を利用している(とりわけ触角で)。
・カタツムリは粘液で移動しているので後ずさりできないが、その粘着力のおかげで、垂直方向、あるいは上下逆さまでも移動できる。
・カタツムリには新しい環境に置かれると放浪せずにはいられないという傾向がある
……などの紹介がありました。なんと驚いたことに……
「(前略)一般的にカタツムリは「家を背負っている」というイメージ、ひいては、どこでもキャンプを張れる自由な放浪者のイメージがあるが、実のところ、ほとんどのカタツムリは特定の場所に縛られている。ハワイの例で言えば、夜に長い時間をかけて餌をさがしたあとに舞い戻り、日中に休息をする場所がそれだ。」
……えー、そうだったんですか! まあ考えてみれば、キャンピングカーだって、夜には水場のある駐車場に止めるものですよね(笑)。それにカタツムリには、キャンピングカーほどの機動力はないし……。
さて、ハワイには非常に多種多様なカタツムリが生息しているようですが、実はハワイには、もともとカタツムリがいたはずはないのです。
「ハワイ諸島は海底が隆起して生まれた「海洋島」である。太平洋の真ん中にあるホットスポット(火山)を成因としており、むろん他の陸地とつながったことは誕生以来一度もない。」
……一般的にカタツムリは定住型で、長距離を移動するとはあまり考えられていないのですが、それではハワイのカタツムリはどこから来たのでしょう?
カタツムリは海水に弱そうですが、実験では意外にも12時間海水に浸しても生きていただけでなく、20日間海水中で生き延びたものもいるようで、草木や流木を筏にして漂着、鳥にくっついて運ばれた、風(ハリケーン)で運ばれたなどの可能性が考えられています。そのためハワイの驚くほど多様なカタツムリ(腹足類)は、少数の祖先から進化してきたと考えられ、移動能力に劣るカタツムリは、地形的に凸凹が激しいハワイで地理的に隔離され、それぞれの場所で複数の新種を生み出してきたようです。
そしてハワイで人間やカタツムリの生活を変えてきたのは、プランテーションと牧畜(広大な森が失われた)だったようです。その他のカタツムリを絶滅へと導いた要因としては、カタツムリの珍しくて美しい殻のコレクションブームが起こったこと、高速道路、米軍基地・訓練施設などの存在(建設、運用)などもあるようでした。
そして現在、ハワイのカタツムリは少数の人々の努力によって保全活動が行われているようです。その一つがエクスクロージャーなどの保護地区を作ることで……
「パリケア・エクスクロージャーは、およそ一六〇〇平方メートルの植生地をフェンスで囲った施設で、希少なカタツムリの避難場所となっている。封じ込めではなく囲い込みと呼ばれるのは、その主眼が特定のカタツムリを閉じ込める点にあるのではなく、それ以外の生物を締め出しておく点にあるからだ。つまりそのフェンスは、ハワイに持ち込まれたカタツムリの天敵、ラット、ジャクソンカメレオン、ヤマヒタチオビなどの捕食者を遠ざけておくためのものなのだ。なかでも肉食性カタツムリのヤマヒタチオビには特に警戒が必要で、在来種のカタツムリを追い回しては、恐ろしい勢いで食べ尽くしてしまう。」
……と書いてありました。この地元カタツムリの最大の敵のヤマヒタチオビは、実は、農業や園芸に被害を与えていたアフリカマイマイを駆除するために農務省主導でフロリダ州からハワイに導入されたものだったようです。でも標的の個体数を減らすことができないどころか、地元のカタツムリを激減させてしまった……もっとも地元のカタツムリはすでに減少傾向にあったので、ヤマヒタチオビは最後の一撃になっただけのようでもありますが……。
そしてもう一つの保全活動は、絶滅が心配されている希少種を保護・育成・飼育するラボの運営ですが、飼育には手間がかかるだけでなく、感染症から防ぐための努力が、長期的にはその種の脆弱性を招いてしまうというジレンマもあり……とても難しい問題ですね……。
カタツムリや昆虫は数が多いだけに、人知れず絶滅していっていることが多いようです。次のようにも書いてありました。
・「無脊椎動物の種類は動物界において圧倒的多数を占めており、その割合は九九パーセント程度になると考えられている。」
・「(前略)無脊椎動物の大半は記載すらされていないため、保全の対象外となっているケースがほとんどだ。」
・「無脊椎動物は今、三重の無知に苦しんでいる――私たちは種の大部分を知らず、知っている種でも絶滅危惧種に指定できるほど深く知らず、指定できた種でも十分に保全できるほどよく知らない。」
……確かに、その通りですね……。
『カタツムリから見た世界: 絶滅へむかう小さき生き物たち』……人間のさまざまな活動のかげで、ひっそりと絶滅に向かっているカタツムリの姿に、いろんなことを考えさせてくれる本でした。
「可能であれば本来の生息地で保全を行い、それと同時に、生態系や景観も保全する」ことが、カタツムリだけでなく私たちの健康や幸福にもつながるような気がします。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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『カタツムリから見た世界』