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第1部 本

生物・進化

足環をつけた鳥が教えてくれること(山階鳥類研究所)

『足環をつけた鳥が教えてくれること』2024/10/16
山階鳥類研究所 (著), 鈴木 まもる (イラスト)


(感想)
 日本で唯一の鳥類研究所である「山階鳥類研究所」の研究員が、100年にわたる「鳥類標識調査」によって明らかになってきた鳥の興味深い生態を紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに ~私たちは、鳥のことを、どこまで知っているのだろう~
鳥類標識調査100周年に寄せて
1章 渡り鳥が世界をつなぐ
鳥の渡りってなんだろう/鳥の長距離移動チャンピオン/東京と福岡のユリカモメがどこか違う/ツバメの越冬地を求めて/ベニアジサシの越冬地の発見/アジサシ類は天気を呼んで渡る?/先端技術と標識調査/日本にいるハマシギは、どこからやって来るのか/足環で判明したツル類の生態/渡り鳥がつなぐ国際協力の輪
2章 鳥はどれくらい生きる?
毎年来るツバメは同じツバメか/長生きする鳥たち/小鳥も案外長生きする/蕪島に集まる3万羽のウミネコ/アマミヤマシギの奇妙な生活/絶滅の可能性を評価する
3章 鳥たちにせまる危機
激減するカシラダカに何が起きている?/スズメの数が減っている/干潟の鳥シギ・チドリ類に未来はあるか?/温暖化で変わる? 鳥たちの渡り/トキの野外個体群を追う/じつは2種だったアホウドリ/鳥類標識調査が生息地保全に貢献
4章 標識調査でわかる、あんなことこんなこと
雄か雌か? 成鳥か幼鳥か? ~性別や年齢と、標識調査~/多くの情報を秘めた足環つきの収蔵標本/ヤンバルクイナの発見/隠蔽種の存在を明らかにする/「そこにどんな鳥がいるか」を知るためには/人獣共通感染症と渡り鳥
鳥類標識調査について
鳥類標識調査100年の歴史/世界各国の鳥類標識調査/日本の鳥類標識調査/標識調査にかかわる法律の話/バンダーになるには/標識のついた鳥が発見されたとき
コラム
「幸福な王子」が教えてくれること/山岳バンディング/皇居の鳥たち/足環の回収記録が生き別れた親子をつないだ物語/鳥類標識調査への批判に応える/日本鳥類標識協会とは/標識調査と山階鳥類研究所

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 TVの動物番組が好きでよく見ているのですが、鳥や動物の生態を調べるのに欠かせない標識が何を教えてくれるのかよく知らなかったので、興味津々で読み始めました。
 現代につながる科学的・体系的な鳥類標識調査は19世紀に始まっていて、1961年から2022年までの62年の累計で、651万4528羽(504種)が標識放鳥され、4万4462羽(272種)が回収されているそうです。……かなりの数ですね!
「1章 渡り鳥が世界をつなぐ」では、鳥たちが国を超えて渡っている状況について紹介されていましたが、中でも面白かったのが、「アジサシ類は天気を読んで渡る?」という記事。その一部を紹介すると……
「(前略)海を越えて渡りをする鳥類においては、繁殖地から越冬地までの途中で発生した台風や低気圧が、渡りにどのような影響を与えるかについてはあまり知られていません。台風に遭遇することは、渡り鳥にとって自身の生死にも直結する重大な出来事であるはずです。だとすれば、鳥たちは台風に対処する何らかの行動をとっているでしょうか。」
 ……そしてロガー(ジオロケーター)をとりつけたエリグロアジサシの調査で……
「解析の結果、8月にフィリピン海を台風が多く通過した2012年から2014年にかけてと、台風の通過が少なかった2017年では、エリグロアジサシの渡りのスケジュールが大きく異なっていることが明らかとなりました。(中略)
つまりエリグロアジサシは、台風が多い年には出発時期を早めたり、ルートを調整したりすることで、台風の少ない年と同じくらいの時期に越冬地へ到着できるようにしていることが明らかになったのです。天気予報をもたないにもかかわらず、エリグロアジサシは台風の到来を事前に察知し行動を変えているということになります。人間にはまねできない驚くべき能力ですが、これについては、台風によって発生するインフラサウンド(人間には聞き取れない超低周波領域の音)などの環境因子をエリグロアジサシが感知し、それに反応することで、結果的に渡りの時期や経路が調整されている可能性が考えられています。一方で、台風によって海面の表面と深い部分が混ざり、餌となる魚が捕りづらくなるという環境に対応した結果であるとも考えられます。今後の研究の進展が期待されます。」
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 移動する動物を追跡するバイオロギングで使用される先端技術についても、次のような解説がありました。
「(前略)バイオロギングは、調査目的に応じて、位置情報だけでなく気温、水温、高度、心拍数、加速度などを記録するセンサーを搭載した機器を動物に装着することで、動物の生態や生理にせまろうというものです。(中略)
 追跡に使用される機器は、鳥に装着した後のデータ取得方法により、蓄積型と発信型の二つに大別されます。蓄積型の追跡機器は、機器を装着した鳥を一定期間経過後に再捕獲し、回収することでデータが得られるものです。光センサーで照度、時刻を記録して位置情報を推定するジオロケーターやGPSロガーなどがよく使われています。(中略)発信型はいわゆる発信器と呼ばれるもので、GPSなどで位置情報を記録し、そのデータをなんらかの通信手段を使って遠隔で取得するものです。通信方法は、人工衛星や無線通信によるものから、近年では携帯電話網により通信する機器が主流になりつつあります。」
 ……重くなりがちな発信型は大きな水鳥や猛禽類に使われていて、小鳥には軽い蓄積型が使われることが多いようです。ただ……軽い蓄積型は鳥を再捕獲する必要があるのですが、一度捕まってしまった鳥はそれを覚えているので、同じ方法では、なかなか捕まってくれないそうです。いろいろ大変なんですね……。
 また意外だったのは、「鳥は寿命が分からない」ということ。
「鳥には、樹木の年輪のような「ここを見れば生まれてからの年数が数字としてわかる」という指標は知られておらず、番号つきの足環によって個体識別をする標識調査が、野生の鳥の寿命を知るためのほとんど唯一の調査方法です。そして、寿命を知るためには、足環をつけたときにその年生まれかどうかを正確に知ることが重要になります。」
 ……そうだったんだ……鳥類標識調査は鳥類の実態を知るのに、とても重要なんですね。
さらに詳しく知りたい人のために、次のような情報もありました。
・「鳥類アトラスWEB版」(環境省生物多様性センターのウェブサイト):標識放鳥のすべての回収記録を地図上に種ごとに表示
・「鳥類標識マニュアル」(環境省の標識調査ホームページ):バンダー(鳥類標識調査員)の教科書とも言えるもの。
『足環をつけた鳥が教えてくれること』……鳥類標識調査について、総合的に解説してくれる本で、とても勉強になりました。山階鳥類研究所では、「バンダー講習会(新人バンダー育成講習会&ライセンス認定試験)」も実施しているようです。鳥が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『足環をつけた鳥が教えてくれること』