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第1部 本
生物・進化
付着生物のはなし(日本付着生物学会)
『付着生物のはなし: 生態・防除・環境変動・人との関わり』2024/10/29
日本付着生物学会 (編集)
(感想)
フジツボや海藻、カキなどの「付着生物」と呼ばれる生き物について総合的に解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 付着生物の多様性
第2章 付着生物の幼生生態
第3章 付着の仕組みと付着防除技術
第4章 付着生物と人為的影響・環境変動
第5章 付着生物の利用
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「付着生物」と言われてすぐに思い浮かぶのは船にくっついて困らせるフジツボぐらいだったのですが(苦笑)、実は美味しいカキやコンブも付着生物だそうです。
「第1章 付着生物の多様性」によると……
「水中に生息する生物たちは、分類体系ではなく生活様式によって、遊泳生物(ネクトン)、底生生物(ベントス)、浮遊生物(プランクトン)と類型化される場合がある。その類型化の一つである底生生物はさらに移動能力により分類され、岩石などに付着する生物を「付着生物」と総称する。」
……そして付着生物には、生活史を通じて変化するものも多いようで……
「(前略)付着生物として生活する無脊椎動物は、卵から孵化した後に、一次プランクトンとして、幼少期を送るものがほとんどである。浮遊生活の期間は数分から数か月と種類によってさまざまであるが、水中を漂うことによって親から離れ、分布を広げていると思われる。一定期間、浮遊生活を送り、成長した幼生は、海中の好適な基質に付着・変態し、付着生活を始める。」
……そうだったんだ。しかも……
「(前略)そもそも、地球上に最初に誕生した生物は化学合成細菌やシアノバクテリアといった原核生物であるとされるが、これらは元来それらの生育に適した環境に留まり生育していたものである。つまり、地球上に最初に誕生した生物は付着生物であったと捉えることができる。」
……なるほど。最初に登場した生物は付着生物……生物が動けるようになるには進化が必要だったはずだから、これにはもちろん納得できました。
あまり動かないので地味そうに感じられる「付着生物」ですが、生態系で果たす役割には大きいものがあるようで……
「付着生物は、沿岸域では藻場やカキ礁などの立体的な群集を構成することにより沿岸生態系の中で重要な一群である。これらは遊泳生物や底生生物の隠れ家や棲み処を提供しているだけでなく、餌生物としても大きな役割を果たしている。」
さらに産業界では……
「一方、産業上の観点から汚染生物として扱われる場合も多い。汚染生物とは、発電所取水系統、船底、漁具などの人工構造物に付着し、効率低下や不具合を引き起こす生物のことを指す。」
……という悪いイメージもありますが、フジツボのキプリス幼生や成体が付着しにくい材料や構造物を開発する目的で、それらの付着機構や付着力を詳しく調べる研究が行われてきたこともあり、産業上でも役に立っているとも言えるかもしれません。もちろんカキやコンブなどは食料として大いに役に立っていますし。
「第3章 付着の仕組みと付着防除技術」によると……
「キプリス幼生は体内の中央部にセメント腺と呼ばれる器官を持っており、接着タンパク質を合成し放出時まで備えておく。このセメント腺にはセメント管が接続しており、付着時にこの管を通して一対の付着器先端から接着タンパク質を分泌することで付着する。」
……とのことです。
またナメクジの粘液分泌による優れた防汚機能からヒントを得て、粘性液体、水、氷雪、海洋生物の付着を効率よく防ぐSLUGという撥液性・難付着性材料も開発されているようでした。
『付着生物のはなし: 生態・防除・環境変動・人との関わり』……編集が「日本付着生物学会」なので、付着生物について本当に総合的に詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました(冒頭の4ページのカラー写真で、さまざまな付着生物を見ることもできます)。ここで紹介した以外にも、船舶バラスト水や地球温暖化の問題、フジツボの養殖への試みなど、いろんな情報が満載です。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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『付着生物のはなし』