ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
10万年の噴火史からひもとく富士山(曽布川善一)
『10万年の噴火史からひもとく富士山』2024/6/17
曽布川 善一 (著)
(感想)
約10万年前に現在の原形ができた富士山は、噴火と崩壊を繰り返し、樹海や湖、湿原、滝、溶岩洞穴などさまざまな景観を生み出した……二十余年にわたり富士山に通う写真家の曽布川さんが写し取った美しい写真と解説で、火山としての富士山を紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
口絵
序章 火山 富士山の成り立ち
01富士山が「そこ」にある理由
02美しい円錐形の姿はこうしてつくられた
噴火がつくった富士山の世界
01山頂火口
02樹海を生んだ大噴火
03貞観噴火が生んだ湖
04岩屑なだれがつくった湿原地帯
05白糸の滝
06崩壊谷と大滝
07市兵衛沢
08溶岩洞穴
09樹海の氷、富士山に現われる雲
10火山が生んだ富士修験
11溶岩樹型
12霊場となった溶岩洞穴
13宝永噴火
おわりに
富士山略年表と本書関連記事
参考文献
……これはもう、富士山の素晴らしいグラビア写真集といってもよいでしょう☆ 山頂火口、樹海、湖、湿原、滝、溶岩洞穴、氷筍など、さまざまな場面を写しだしたフルカラーの写真がとにかく美しくて……パラパラ眺めるだけで癒され、うっとりしてしまいます。
しかもそれだけでなく、「富士山の成り立ち」などの科学的な解説もあるのです。
例えば「01富士山が「そこ」にある理由」には……
「(前略)火山の一生は、数十万~100万年とされているなかで、富士山が誕生したのは約10万年前。比較的若い火山です。富士山はその生い立ちの間に、膨大な量のマグマを噴出し急速に成長した結果、日本列島において最大の陸上火山となりました。(中略)
日本列島の陸上火山の多くは主として安山岩マグマを噴出しています。一方富士山は、誕生から10万年の生い立ちを通してごく一部の噴火(宝永噴火)を除き、玄武岩マグマのみを噴出し続けてきました。」
……皆さんもご存じの通り、富士山周辺では、フィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北米プレートの3つのプレートが重なり合っていますが……
「これらのプレートのさらに下から、太平洋プレートの影響を受けて生成されたマグマが富士山に向かって上昇してくるのですが、富士山がのるフィリピン海プレートは凸状にたわんだ形になっています。(中略)
その結果、富士山の地下深部では大量のマグマが供給され続けました。このことが、富士山が玄武岩のみを噴出し、かつ急速に成長した要因だと考えられています。」
……そして「02美しい円錐形の姿はこうしてつくられた」によると……
「(前略)富士山ではこのような山体崩壊が、過去2万年間に少なくとも計3回起きていることがわかっています。富士山はそのたび噴火によって修復を繰り返し、山容を変えてきました。」
……というように分かりやすく解説してもらえます(本書にはもっと詳しい解説があります)。
また「噴火がつくった富士山の世界」の「01山頂火口」では、火口の写真のそばに……
「山頂火口の西壁には、規則正しい柱のような割れ目、柱状節理の断面があります。これは流れ出た溶岩が冷えて固まっていく過程で、体積が収縮してできた現象です。
この柱状節理の存在はかつて火口の中が煮えたぎる溶岩を湛えた溶岩湖の状態であったことを示し、最も深いところで150mはあったと思われます。」
……という解説があるので、実際にその場に行っても、ただぼんやり眺めるだけでは気づかないような部分まで教えてくれるのです。
「02樹海を生んだ大噴火」では……
「(前略)貞観6(864)~7(866)年に富士山北西の側火山に開いた割れ目火口から、大量の溶岩が流れました。「貞観噴火」です。このときの溶岩流を青木ヶ原溶岩流と呼びます。現在、この溶岩台地の上に深い森が育まれ、青木ヶ原樹海と呼ばれる森林地帯となりました。」
……とあり、薄暗い森の底に根がうねうね絡まり合う樹海の写真のそばには……
「溶岩流の上で養分を求め、根を絡ませ広げる樹々。保水条件が悪い環境でも育つモミやツガ、アカマツなどの針葉樹が鬱蒼とした樹林帯をつくる。」
……などの解説があり、そうか、根がこんなに絡まっているのは、栄養分が少ないからだったんだ……という「青木ヶ原樹海らしい風景は、いつ、なぜできたのか」の理由も知ることが出来ました。
「05白糸の滝」についても……
「透水性のよい新富士火山初期(富士宮期)の溶岩と透水性の悪い古富士泥流の地層の間から噴出する幾筋もの滝水」
……と書いてあり、すごく参考になりました。そうだったんだ……。
この他にも、今でも崩壊が進んでいる「大沢崩れ」の状況や、洞内温度が上昇しつつあって地球温暖化を感じさせる「富士風穴」など、富士山のさまざまな側面を詳しく知ることが出来ました。
「富士山に現われる雲」では、息をのむほど美しい彩雲や、富士山を象徴するような傘雲、吊るし雲を見ることが出来て、こんな貴重な瞬間を何度でも味わうことができます。
星空の富士山の頂上付近に登山道を上る人々が、「人」の形をした明かりをつくる夜明け前の富士山の写真もありました。
さらになんと、富士山そのものをご神体とする修験の姿など、宗教的な行事の写真や解説もあって、本当に「富士山のすべて」を美しくぎゅっと詰め込んでくれた『10万年の噴火史からひもとく富士山』です。富士山が好きな方にとっては、お宝本になること間違いなしです。山や風景写真が好きな方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが新しいウィンドウで開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)
『10万年の噴火史からひもとく富士山』