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第1部 本

脳&心理&人工知能

デジタル脳クライシス(酒井邦嘉)

『デジタル脳クライシス――AI時代をどう生きるか (朝日新書)』2024/10/11
酒井 邦嘉 (著)


(感想)
「タイパ」を重視するあまりデジタル機器による「便利さ」「楽さ」に依存すれば、自分の脳が本来持っている力を衰えさせてしまうリスクがあることに警鐘を鳴らしている本で、主な内容は次の通りです。
はじめに  
第1章 デジタル機器やAIの、何が危険なのか  
「タイパ」で失うもの/「もやもや感」を大切にすること/AI時代をどう生きるか/デジタルとアナログ/考える前に調べる「検索依存症」/考える前に合成してしまう「AI依存症」/「一億総無脳化」/「デジタル認知症」?/『脳を創る読書』/不毛な読書アンケート/『スマホ脳』/人間の脳の特性を知る  
第2章 合成AIの脅威  
チャットボットと「対話」できるのか?/チャットボットは意味を理解しない/大規模言語モデルをめぐる誤解/線形順序モデルの限界/言語知識の帰納は不可能/人間の知性に関わる「再帰性」/合成AIによる文明の衰退/情報的健康とは/AI研究者の主張に反論する/デジタルデトックスのすすめ/ゆがんだ「自己肯定感」  
第3章 ペンはキーボードより強し  
手書きかキーボードか/手書きとキーボードの比較研究/なぜ手書きのほうが有利なのか/ノートを取るときの脳の働き/メモを取るマルチタスク/手書きによる記憶の定着/画面で読むか、紙で読むか/教育における紙の優位性/マルチモーダルな体験を  
第4章 脳の仕組みを知る  
大脳の役割/脊髄の役割/小脳の役割/脳の「論理」/海馬の役割/ニューロンの構造/シナプスの役割/グリア細胞と脳の健康/加齢によるニューロンの変化/修道女たちの美しい脳
■コラム  ニューロンのスケッチ  
第5章 紙vs.デジタル、脳活動の差異
紙の手帳とデジタル機器の違い/マンガの見開き提示による効果  
第6章 柔軟な脳の可塑性  
脳にとって最も重要な成長期/臨界期仮説という幻想/大人による多言語の自然習得/   大人の脳が示す可塑性/タクシー運転手の海馬/ジャグリングによる脳の変化/脳がよく働く状態を保つには  
第7章 マルチタスクの重要性  
「マルチタスクは悪」という決めつけ/小学校での誤った指導法/大学での配慮ない教え方/リンク付テキストの落とし穴/リンクが主従を逆転させる/電卓導入の失敗/集中力ではなく選択力を  
第8章 非認知能力を伸ばすには
能動的な好奇心/限界的練習と「十年の法則」/デジタル脳クライシスの克服  
   *
 酒井さんはデジタル機器への依存症について、次のように言っています。
「自分で考える前に調べてしまうことが常態化するのが「検索依存症」です。理解が不十分でも答えが見つかっただけで満足しがちですから、忘れやすいものです。結果的に同じことを何度も検索することになります。」
 ……ぎくっ(……これ、私だ……)。
 そして注目を集めている「生成AI」については、現状のAIはデータの合成ができるだけだから生成AIという名前は不適切だとして、「合成AI」と呼んでいます。
「(前略)ただ新たなものを産み出すだけでなく、退けたり捨てたりできて初めて、本当の意味での「生成」になるのです。その選別の能力にこそ、人間としての知能や知性が現れています。」
 そしてAI依存症について……
「(前略)学校の作文やレポートから、社内文書や公的サービスにまで、合成AIによる文章が出回る時代になりました。(中略)合成AIを使えば、自分で考える前に文章の作成をソフトウェアに委ねてしまうことになります。これが「AI依存症」です。」
 ……これも、すでに発生しているのでしょう。さらに……
「かな漢字変換に頼ることで、簡単な漢字が書けなくなったということは確かにあるでしょう。スケジュール管理なども含めていつでもデジタル端末に頼れると思っていると、約束の日時を忘れてしまったり、勘違いしたりすることも増えているのではないでしょうか。そもそも覚えようとすらしていないのかもしれません。」
 ……うーん、耳が痛い……。私も、漢字は得意だったのに今は「かな漢字変換」に頼ってばかりいるので、手書きしようとすると「あれ、どんな漢字だったっけ?」と思ってしまうことがあります(苦笑)。読む方は問題ないんですけど……(うろ覚えでも大丈夫だから)。
 酒井さんは、デジタル脳クライシスの脳科学研究での結果をもとに、「手書きの場合とタブレット入力後の脳活動の差」、「見開き提示による選択的注意や共感度の差」が発生していることに警鐘を鳴らし、AIの規制と読書習慣を取りもどす必要性を説いています。
 読書には次の力があるそうです。
1)読書を通して、言葉の意味を補う「想像力」が自然に高められる
2)読書を通して思索に耽ることで、自分の言葉で「考える力」が自然と身に付く
3)読書を通して脳が実際に変化し成長する
 そして……
「読書と言う能動的な経験は記憶の蓄積など脳の働きに変化をもたらし、日々の成長を促すことになります。経験は知力を支え、物事の意味を体系化して構造化することにもつながりますから、読書は子どもの教育から生涯教育にまで資するのです。」
 ……良かった。私にもデジタル脳の悪影響は確かにありますが、根っからの読書好きで読書習慣だけはふんだんにあるので(笑)、読書脳の良影響も受けているのでしょう。
 酒井さんは「合成AIの」脅威について、次のようにも語っています。
・「人間の知能は、ただ新しい組み合わせを作ることではありません。一定の枠を逸脱するもの、質の低いものを的確に見極めて、捨てることが肝要です。これが真の「生成」だと第1章で述べましたが、この生成の能力こそが創造性につながります。
 合成AIができることは、ある条件のもとに複数の情報を合成するだけですから、そもそも「生成」ではありません。それにもかかわらず、「よいアイディアが浮かばないときはAIを使ってもいい」と教師が指導するのは、自分の頭で考えること自体を放棄させるようなものです。」
・「自分の考えに自信が持てないと、他力本願で「正解」を手に入れたくなります。そのような人は合成AIの餌食になりやすいと言えます。なぜなら、たとえベストの答えでなくとも、それが「正解」だと信じたいという気持ちが、疑うというまっとうな思考を退けるからです。」
 ……うーん、現在の生成AI(合成AI)は、すでにかなりのレベルの文章を出してくれるので、今後は、どんな人でもAIの文章を活用したくなるしょうし、そのうちに徐々に依存してしまうようになるのかもしれません……。
 そしてこの後は、「手書き」と「キーボード」、「紙」と「画面」が成績やストレスに及ぼす影響に関する研究結果が示され、「手書き」と「紙」の優位性が示されていましたが……、これに関しては、納得できるとともに、こういう結果になったのは、実験参加者がまだ「手書きと紙」に慣れた人たちだからじゃないのかなーという疑いも抱いてしまいました(少なくとも彼らは子ども時代は手書きと紙で学んだ人々なのでは?)。子ども時代から「キーボード」と「画面」で学んだデジタルネイティブ世代だったら、違った結果になるかも……、とは考えつつも、もしも本当に「手書き」と「紙」の方が脳の成長に勝っているなら、デジタルネイティブを育てること自体が良くないことなのかも……とも考えてしまい……ちょっと悩んでしまいました。
 本書では「手書きの優位性の理由」として次のように分析しています。
「キーボードは速くタイピングできる分、情報に対して受け身になりやすい。手書きはすべてを書き取れない分、要点をまとめてノートに取ることになります。(中略)情報の内容を咀嚼したり自分で補って考えたりする脳内の作業が生じるわけです。」
 ……手書きのノートは、書くときにも読み返すときにも、いや応なく脳をたくさん働かせる方法なのだとか。……うーん、そうなのかも……。
 そして次の指摘については、自分の経験から考えても、まさにその通りだと思います。
「(前略)「効率がよい」とか「便利だ」「得だ」「楽だ」といった価値観は、教育には常に逆効果になります。人間の脳はそのような価値基準で動作していないので、一見便利なツールを使うことで、「脳機能を働かせない」という全く正反対の方向に誘導する効果があるのです。」
 最終章「第8章 非認知能力を伸ばすには」には、次の提言がありました。
「(前略)AI時代を迎えて「デジタル脳クライシス」の深刻さは加速しています。特に教育におけるAIの利用は、百害あって一利なしだと断言できます。第2章で述べたように、AIは知的な意味でのドーピングのようなものだからです。」
 ……AIは「考えること自体を機械に任せてしまう」ことを助長させがちなので、少なくとも高校生までは、「作文作成」などの思考力を培うトレーニングに、AI を利用させない方がいいのかもしれません。
 その一方で、AIがとても便利なツールなことも確かで、社会人にはその使いこなしが不可欠な技術になっていくことが予想されるので、大学4年生からは、むしろ使わせた方がいいのでは? とも考えてしまいました(大学生も3年生までは使わせない方がいいかもしれませんが……)。
『デジタル脳クライシス――AI時代をどう生きるか』……デジタル機器が私たちの脳にどのような影響を及ぼすかについて、深く考えさせてくれる本でした。
 ここで紹介した以外にも、脳の仕組みや可塑性に関する解説や、子どもに及ぼす影響、マルチタスクの重要性など、参考になる情報がたくさんあります。みなさんも、ぜひ読んみてください。
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『デジタル脳クライシス』