ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
脳の本質(乾敏郎)
『脳の本質-いかにしてヒトは知性を獲得するか (中公新書 2833)』2024/11/20
乾 敏郎 (著), 門脇 加江子 (著)
(感想)
どうして相手の心がわかるのか? 脳はいかに言語を操るのか? 知覚、感情、運動から、言語、記憶、モチベーションと意思決定まで、脳が発達する原理を解き明かそうとしている本で、主な内容は次の通りです。
まえがき
第1章 脳の本質に向けて
第2章 五感で世界を捉え、世界に働きかける
コラム1 感覚統合――異種感覚を統合する
第3章 感情と認知
第4章 発達する脳
コラム2 ヘブの洞察力
第5章 記憶と認知
コラム3 海馬の機能――出来事の順序を記憶し、再生する
第6章 高次脳機能――知識、言語、モチベーション
第7章 意識とは何か
終 章 脳の本質
あとがき
参考文献
索 引
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「脳の本質」の鍵は、脳がする「予測」と「予測誤差の修正」にあるようです。「第2章 五感で世界を捉え、世界に働きかける」には、次のように書いてありました。
「(前略)予測誤差を最小化することで、ある仮定のもと事後確率がもっとも大きくなる値(つまり可能性がもっとも高い推論結果)を求めることができる。そしてそれがニューロンにより符号化されることが理論的に示されている。」
……脳のニューラルネットワーク・モデルも、これを利用して構築されています。
「学習や発達の研究分野では、二つ以上の事象の相関関係を随伴性と呼ぶ。知覚に限ったことではないが、私たちはさまざまな事象にまつわる随伴性を、生きている中で経験を通じて獲得し続け、いつでも自分たちが使えるように磨いて蓄積している。そして、脳は近似的にベイズ推論を行っているという考えのもと、脳のニューラルネットワーク・モデルが考案され、脳科学研究が進展してきたのだ。」
……そして生物は、自由エネルギーという評価関数(指標)を最小化することで、生命を維持しているのだとか。
また「第4章 発達する脳」の章末には、「まとめ」が次のように書いてありました。
「脳は臨界期または敏感期という制約を備えている。なかでも、感覚野は早い時期に臨界期を迎えるが、そのスタートとなる鍵は、GABA作動性ニューロンにある。この時期に、脳に過剰に備わったシナプスが刈り込まれていく。だから、子宮内環境や乳児を取り巻く環境との相互作用は非常に重要だといえる。
学習は、大脳では基本的には相関学習として、小脳では正解のある教師あり学習として進む。胎児は狭い空間で運動を繰り返すことで感覚と運動を学習し、そこから自己の身体や環境の知識の基を獲得する。また、ミラーニューロンにより、他者の運動を自己の運動として理解できるようになり、それがコミュニケーション機能につながる。」
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本書にはこのように各章末に簡潔な「まとめ」があるので、ちょっと難しい内容を復習できて、理解の助けになります。
そして最後の「終章 脳の本質」には、筆者たちの考える脳の本質が次のようにまとめてありました(本書にはもっと詳しい説明があります)。
1)環境を知る
2)複数データに基づき推論する
3)誤差を修正する
4)環境に働きかける
5)神経修飾物質(アセチルコリン、ドーパミンなど)で精度をコントロールする
6)世界のモデルを学び続ける
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最新の脳科学による知見を取り入れていて、とても納得できる解説が多かったと思います。脳の本質が、かなりAI(ニューラルネットワーク)に似ていることに驚かされました(苦笑……ニューラルネットワークは人間の脳神経系を模倣しているので、当然ではありますが……)。
でも脳の本質が「推論」「誤差最小化」にあるとしたら……私たちが何かを学んだあとに「きちんと理解できた!」と感じるのは「誤差最小化」が達成されたときなのかもしれませんが、その先の「理解した知識を何かに活用しようとする」とか、さらに「新しい何かを思いつく」「創造する」のは、やはりこれだけでは分からないような気もしてしまいます。そういう意味で、これはまだ「脳の本質」のすべてではないとも感じました。でも本書は『脳の本質-いかにしてヒトは知性を獲得するか』というタイトルなので、脳の本質のうち「知性の獲得」の側面に関するものなのでしょう。
脳科学研究は今もどんどん進んでいるので、今後も「脳の本質」の新しい側面が明らかになっていくのかもしれません。今後の展開にも期待したいと思います☆
『脳の本質-いかにしてヒトは知性を獲得するか』……私たちの脳が高度な知性を獲得する仕組みについて、最新の知見をもとに詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『脳の本質』