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第1部 本

社会

インターネット文明(村井純)

『インターネット文明 (岩波新書 新赤版 2031)』2024/9/24
村井 純 (著)


(感想)
 全世界でインターネット利用者が50億人を超えた今、インターネットは、趣味や仕事から医療や安全保障までを包摂するひとつの「文明」と化しています。そこにはどのような人類史的な課題や使命があるのか……第一人者の村井さんが語ってくれる本で、主な内容は次の通りです。
プロローグ インターネット史に刻まれたふたつの大事件
第1章 インターネット文明とは何か
第2章 テクノロジーと共に生きる
 1 AIとインターネット
 2 IoTとインターネット
 3 5Gとインターネット
第3章 日常生活に不可欠となったインターネット
 1 インターネットにおける文化の多様性
 2 インターネットがビッグテックを生んだ理由
 3 オンライン課金の仕組みと暗号セキュリティ
 4 メディカルインクルージョンの実現に向けて
第4章 インターネット文明の政策課題
 1 プライバシー保護と監視社会
 2 インターネット規制と国際協調
 3 言語と出版文化
 4 サイバーセキュリティの三つの空間
 5 デジタル庁の発足と日本のDX
第5章 国際政治におけるインターネット
 1 インターネットと地理学
 2 インターネットと地政学
 3 米中摩擦とインターネットの未来
第6章 インターネット文明で果たすべき日本の役割
 1 日本の技術開発の底力を見せるとき
 2 インターネットの公共性と持続可能性
エピローグ インターネット文明の未来
 1 人類がふたたび月面に立つ
 2 より良いインターネットを維持するために
 あとがき
   *
「プロローグ インターネット史に刻まれたふたつの大事件」では、「COVID-19パンデミック」によって、世界中の人がインターネットに依存するようになったことと、「ウクライナ侵攻」によって、「電力」や「オープンソースインテリジェンス(OSINT)情報の正しさの分析・検証」の重要性を痛感させられたことなどが書いてありました。……まったく、その通りですね! 今やインターネットは私たちの「生命線」の1つになっています。
 そして「第1章 インターネット文明とは何か」、「第2章 テクノロジーと共に生きる」では、インターネットの歴史的経緯とともに、最新テクノロジーについても概説してくれます。こんなにも短くて簡潔に、インターネットの変遷や技術を解説できるのは、その黎明期から日本のインターネットを牽引してきた村井さんならではだなー、さすがだ……と感心させられました。
 短い中にも、「インターネット五〇年史の最初を飾るのは一九六九年です。この年に、世界初のパケット交換のネットワークであるARPANETができ、同時に、現在のコンピュータの基礎を作ったUNIXの研究開発がスタートしました。つまり、通信とコンピュータのふたつのオリジンが、たまたま同じ一九六九年なのです。」とか、一九八三年、ARPANETとUNIXが結びついて、TCP/IPでお互いつながることができるようになったなど、インターネットの核となる技術も紹介されています。
 また1980年代にはすでにスタンフォード大学の哲学科で、カントの哲学書をまるまるコンピュータに打ち込んで、カントがどういう言葉をどういう頻度で使っているかを分析していたなどという情報も本書で初めて知りました。このような「人間のふるまいをデータとして計算によって分析する」ことが、後のAIへと繋がっていったんですね。
 そして「第3章 日常生活に不可欠となったインターネット」では、現在のウェブで多言語が使えているのは、日本人の貢献が大きかったことについて次のように書いてありました。
・「現在、ウェブではほとんどの言語を表示できるようになっています。そうなったのは、それを望んだ人がいたからであり、じつは日本人の貢献が大きかった。自分たちの言語が使えれば、自分たちの文化を記録として残すこともできるし、ほかの文化圏の人たちに向けて、自分たちの言葉で情報発信することもできます。言葉や文字は生活と切っても切れない関係だからこそ、他国の言語を押しつけられることなく、自分たちの言語で表現できることが重要なのです。」
・「インターネットが、それぞれの違いをならして均一化・標準化に向かうのではなく、多様な文化を多様なまま、いまの言葉で言えば、異質なものを異質なまま包み込む「インクルーシブ(包摂的)」な方向に発展するには、すべて英語で統一されるのではなく、それぞれの言語が共存するインターネットを作る必要がある。インターネットが多様な世界であり続けるために、いの一番に取り込まなければいけないのが、言語の問題だったわけです。」
 ……まさしく、その通りですね! 英語だけしか使えなかったら、現在ほど世界中に普及していなかったでしょう。村井さんたち初期の関係者のおかげですね(感謝、感謝)。
 さらに「第4章 インターネット文明の政策課題」では、日本の出版業界に巨額の損失を与えた漫画の海賊版サイト「漫画村」事件の時に……
「(前略)出版社側は対策に乗り出しますが、海賊版サイトが日本国内ではなく、海外にあることが障壁となって、日本の法律での取り締まりが難しいとされていました。困り果てた出版社の陳情を受けて、政府からは「海賊版サイトへのインターネット接続を切断しよう」という方針が出てきます。(中略)海賊版サイトへのインターネット接続を強制的にブロッキングすることを決定し、インターネット接続業者に要請するという事態に発展します。」
 ……これは結局、接続をブロックすることで生じる他の悪影響への懸念があって実行されなかったようですが、海外の有害あるいは犯罪サイトをどう扱うかは、今後も大きな問題になっていくと予想されるので、真剣に検討しなければいけないのではないかと思います。
 村井さんは、サイバーセキュリティを三つの空間に分けて対応することを提案しています。その一つは国の空間で……
「国の空間には、その安全を守り犯罪を取り締まる組織と法がありますから、インターネット空間を利用した犯罪の場合にも、これまでのリアル空間と同様に調査や取締りができます。サイバー空間を利用した犯罪(中略)に対しては、警察が動き、日本の法律で裁かれねばなりません。
 たとえインターネット上の犯罪だとしても、日本国内で起きたなら、外国の法律ではなく、日本の法律で裁く必要があるし、外国で起きたら、その国の法律で裁かれなければいけません。国境をまたいだ犯罪ということになれば、インターポール(国際刑事警察機構)や、各国の警察機構の横の連携を通じて犯人を引き渡したり、外国に籍のある企業はその国の法律で罰してもらったりすることになります。」
 また二つ目は国際空間で、国家レベルのサイバーセキュリティ。インフラにサイバー攻撃することや防衛システムへのハッキングは、すでにサイバー犯罪ではなくサイバー戦争なので、国防やミリタリーの領域になると言っています。
 そして三つ目がグローバルなサイバー空間。国に依存しないで起きるセキュリティ上の脅威に対しては、各国が力を合わせて調整する必要がありますが、現在はそういう機関がないので、地球省を設立するなどして対応すべきではないかと言うのです。……インターネットはすでに世界のインフラになっているので、これも重要な課題だと思います。
 さらに「第5章 国際政治におけるインターネット」では、「時差の問題」や「地理の問題」についての指摘に、ハッとさせられました。
 インターネットは世界中に繋がっているのが当たり前のような気がしていましたが、もちろんそれは「物理的に」繋がっているのです。実は、世界のインターネットのトラフィックの95%は光ファイバーを中心に動いていて、無線が担っているのは、おもに基地局からスマートフォンやタブレットをつなぐ最後の部分だけなのだとか……なるほど、考えてみれば確かにそうですね! しかも日本とヨーロッパの間には、必ずしも常に良好な関係であったわけではない中国とロシアが……さらに海底ケーブルには、「切断の危機」という問題もあります。東日本大震災によって切れた海底ケーブルは20カ所以上あったし、船が移動のためアンカーを引き上げるときに、うっかりケーブルをひっかけて切ってしまうことも何度も起こっているそうです。これに対しては……
「これまでに東京・香港・シンガポールを拠点としてきた光ファイバーのネットワークに、新たにグアムの拠点が加わるという計画です。」
 ……こういう複線化がとても大事だと思います。
 同様に、ウクライナ侵攻の時に注目が高まった「衛星コンステレーション」も、今後は日本にも必要なのではないでしょうか。
最後の「エピローグ インターネット文明の未来」では、インターネットの接続維持だけでなく、インターネット上を流れる偽情報の排除や、ポスト量子計算機暗号、半永久的にデータを保存する方法など、今後の重要課題についても語っています。
『インターネット文明』……インターネットの過去・現在・未来を総合的に概説してくれる本で、本当にとても参考になりました。正直に言ってインターネットについてはそれなりに詳しいつもりでしたが……新しい視点に気づかされ、いろんなことを考えさせてくれた本でした。多くの人に読んで欲しい良書だと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『インターネット文明』