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第1部 本

生物・進化

進化生物学(佐藤淳)

『進化生物学: DNAで学ぶ哺乳類の多様性』2024/7/17
佐藤 淳 (著)


(感想)
 ゲノムに残された痕跡から進化のしくみを理解し、生物多様性損失の危機について解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 美しい島
1.1 多島海/1.2 素朴な疑問/1.3 記録媒体/1.4 遺伝的変異/1.5 島のネズミと地史/1.6 第1章のまとめ
第2章 日本列島と進化
2.1 進化の仕組み/2.2 有限がもたらす進化/2.3 日本列島の特殊性/2.4 どこからきたのか?/2.5 なぜそこにいないのか?/2.6 第2章のまとめ
第3章 進化の痕跡
3.1 大進化/3.2 パンダではあるがパンダではない/
3.3 分類論争/3.4 収斂進化・平行進化/3.5 地球環境と進化/3.6 第3章のまとめ
第4章 退化の痕跡
4.1 退化と遺伝子の死/4.2 味覚の意義/4.3 味覚の退化/4.4 発見/4.5 味覚喪失の意味/4.6 第4章のまとめ
第5章 テクノロジーと進化
5.1 DNAの増幅/5.2 DNAの解読/5.3 シークエンス技術の革新/5.4 第2世代DNAシークエンサーを使った進化生物学/5.5 テクノロジーとの付き合い方/5.6 第5章のまとめ
第6章 なぜ進化生物学を学ぶのか
6.1 進化の面白さ/6.2 生物の本質/6.3 役に立つのか/6.4 危機にある社会/6.5 進化生物学と歩む/6.6 第6章のまとめ
さらに学びたい人へ
引用文献
索引
   *
「第1章 美しい島」の、瀬戸内海の島々のアカネズミの話がとても興味津々でした。
 瀬戸内海は浅い海で、氷期には陸化していたそうです。次のように書いてありました。
「(前略)貝系虫類の化石の分析によると、約8000年前には、東西から流れてきた海流が中央部でつながることで瀬戸内海が完成し、現在の島の形が見られるようになったと推定されている(Yasuhara,2008)。このように島が形づくられることで、陸地に生息していたものは島に閉じ込められたのである。」
 ……もちろん陸地化していたときには河川も流れていたはずで、瀬戸内海の海底には約2万年前に存在したとされる古代河川があるそうです(西に豊予川、東に紀淡川)。
 そしてこれを伏線として、瀬戸内海の島々に棲むアカネズミの違いが語られていくのです。
「(前略)実は、アカネズミの染色体構成は、富山市と浜松市を結ぶラインを境に東日本と西日本で異なることが知られている。」
 ……ということで、これらは交配できるので同種ではあるのですが、大きな違いが見られるのは、両者の間になんらかの地理的隔離があったことが推定されるのだとか。
 そして瀬戸内海の島々のアカネズミの調査では、過去の古代河川「豊予川」をはさんだ島の近縁性が見られなかった(その両側では、それぞれ近縁性が見られる)ということで……
「(前略)少なくとも最終氷期最盛期に、アカネズミが陸地と化した瀬戸内海地域に存在していたことを意味する。そして、古代河川には水が流れており、その河川がアカネズミの移動の障壁になったことを示唆する。」
 ……そうだったんだ……。瀬戸内海の海底の古代河川の存在が、現在のアカネズミの染色体構成の違いでも裏付けられるなんて、すごく面白いですね!
 ところが、この話。なんと瀬戸内海だけでは終わらないのです。続く「第2章 日本列島と進化」では、もっと大きな話になります。
 中新世の初期から中期にかけて、日本列島の周辺域では大きな地質的大変動があり、北東日本は反時計回りに47度回転し、南西日本は時計回りに56度回転したようなのです。その過程から、日本列島には、東日本と西日本が、別の島であった時代があったと推定されています。そして次のことが書いてありました。
「(前略)アカネズミは日本の哺乳類のなかでも起源の古い種のひとつだ。おそらくは日本列島が海により東西に分離していたころから、アカネズミは日本に存在していたのであろう。こうした過去の日本列島の地理的な分断が、アカネズミの染色体構成の分化を引き起こしたものと考えられる。」
 ……なるほど……「アカネズミの染色体構成が、富山市と浜松市を結ぶラインを境に東日本と西日本で異なる」のは、こんな大きなスケールで起こったことにも原因があるのでしょう。……大きな地理的な変化が、生物の進化にも影響を及ぼしている(逆に言うと、生物の進化を調べることで、地理的な変化を推定できる)ことを実感できて、とても面白く感じました。
 また日本列島の哺乳動物については、次のことも書いてありました。
・「(前略)日本列島の主要な島では、いくつかの海峡による隔離によって、遺伝的分化および種分化が促進された。特に日本の哺乳類の特殊性をかたちづくるうえで影響力が大きかったのは、北海道と本州を分ける津軽海峡と、朝鮮半島と九州を分ける朝鮮・対馬海峡であろう。」
・「(前略)このような海峡の影響により、日本列島は哺乳類層の違いから3つの生物地理学的区画に分けることができる。その区画とは、北海道、本州・四国・九州、そして琉球である。」
・「(前略)北海道の哺乳類の起源は新しく、本州・四国・九州、そして琉球の哺乳類の順に起源が古くなるという傾向を読み取ることができる。」
 ……瀬戸内海は浅い海で陸地化したことがあるので、哺乳類層の違いでも、本州・四国・九州は一つの島(区画)に出来るんですね……。
『進化生物学: DNAで学ぶ哺乳類の多様性』……生物の進化が、地理的変化に影響されていることを実感させてくれる本でした。この他にも、進化に関する基礎知識や、最新のテクノロジーを用いたDNAの解読法に関する解説もあって勉強にもなります。さらにネズミ、アシカ・アザラシ、そしてパンダなど、さまざまな動物たちの進化の謎にも迫っていて、とても興味津々に読み進めることが出来ました。生物学が好きな方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『進化生物学』