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第1部 本

生物・進化

虫・全史(ニコルズ)

『虫・全史 1000京匹の誕生、進化、繁栄、未来』2024/7/18
スティーブ・ニコルズ (著), 熊谷 玲美 (翻訳), 丸山宗利 (監修), & 1 その他)


(感想)
 縦横無尽に身体機能を進化させ、大きな成功を収めた昆虫たち。その数、110万種、推定1000京匹。ずば抜けた繁殖能力から植物と結んだ複雑なパートナーシップ、様々な子育てのレパートリーに洗練された社会生活までを、じっくり紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
昆虫の目
節足動物と昆虫の系統樹
地質時代とさまざまな昆虫の起源
イントロダクション 昆虫入門
1章 群がる大集団 昆虫の種類と数のとてつもない多さ
2章 起源 昆虫の長い歴史
3章 六脚類 脚の進化が与えた足がかり
4章 昆虫が空を征服するまで
5章 世界を越える翅 昆虫の渡り
6章 フラワーパワー 昆虫と植物の複雑な関係
7章 交尾をめぐる駆け引き
8章 次世代 昆虫の子育て
9章 仲間と暮らす 社会性生物としての昆虫
10章 女王とコロニーのために ハナバチとカリバチ 単独性から社会性への道のり
11章 超個体 アリとシロアリ コロニーからスーパーコロニーへ
謝辞
原註
参考文献
索引

『虫・全史』というタイトルだったので、太古の虫の化石から現生の虫まで、大量の写真が掲載されているのかなーと恐る恐る(苦笑)ページを開いたら……かなり文章多めで、ホッとしました。著者撮影による昆虫写真120点収録とありますが、なにしろずっしり重くて凄くぶ厚い本(なんと本文だけで609ページも!)なので、ところどころに写真(カラーと白黒)がある、という感じでした。
 虫の歴史を太古から時系列的に解説してくれる本なのかと思いきや、一応、概説のような歴史は2章に書いてありましたが、脚や空などの進化については、個別のテーマごとに各章に分散して書いてあるなど……全体としては、「昆虫の歴史の本」ではなく、「昆虫の知的エッセイ集」みたいだったので、少なくとも内容は気軽に読めるものでした(ずっしり重いので、気軽には持ち運べず、机に載せて読むものでしたが……)。
「イントロダクション 昆虫入門」によると、昆虫の祖先はおそらく海洋生物だったようですが、最初期の昆虫の化石は見つかっていないので、はっきりとはしていないようです。
 また「1章 群がる大集団」によると、昆虫は世界中(南極大陸や溶岩源などの超過酷な環境にも!)住み着いていて、全体の数としては、「多すぎて150万種から3000万種という大雑把な数字しか言えない」のだとか! その理由として……
「(前略)昆虫は他の動物グループに比べて絶滅しにくいと考えられるため、多様性が時間の経過とともにどんどん高まっていったのである。たとえば、恐竜を絶滅させた白亜紀末の大量絶滅(K-Pg境界の大量絶滅と呼ばれる)は有名だが、理由は十分に分かっていないものの、かなりの数の昆虫がこの大量絶滅を生きのびている。」
 ……と書いてありました。昆虫、凄いですね! ただしペルム紀の大量絶滅期には、昆虫も半分以上の科が消滅したそうですが……(昆虫史上最大の絶滅)。
 また昆虫は化石が残りにくいので、どのように進化してきたのか、はっきり分かりにくいようですが……
「(前略)決定的な化石がなくても、分子時計を使って、節足動物の歴史上の重要なターニングポイントの時期をある程度うまく推測することは可能だ。そこから、クモ類、多足類、昆虫という古くから陸上に生息する系統はそれぞれ、カンブリア紀とシルル紀のどこかの時点で現れたことがわかる。どうやら多足類はカンブリア紀初期、クモ類はカンブリア紀後期に登場し、陸上に住みついたのはカンブリア紀とオルドビス紀の境界だったようだ。(中略)
 これまでのところ、昆虫はオルドビス紀初期(約4億7900万年前)に海洋生物として登場し、その後陸地に進出したことが示されている。」
 ……という経過をたどってきたと推測されているようです。
 そして、とても興味津々だったのが、「4章 昆虫が空を征服するまで」の昆虫の翅の話。
「昆虫においては飛翔の進化は1回だけ起こった。」そうで、飛ぶ昆虫は4億年前に空を飛んでいた同じ共通祖先から進化したと考えられています。
 空を飛ぶ脊椎動物の翼と、昆虫の翼の大きな違いとしては、昆虫の翅の内部には「筋肉がない」ことで……
「昆虫の翅はどれも、複雑に折りたたまれた構造として発達する。(中略)
 虫の翅は、乾燥した死んだ構造に見えるが、それはまったくの間違いだ。翅脈には神経繊維や感覚器があるし、そうした生きた組織には酸素が必要なので、細い気管も通っている。」
 ……そうです。そして次のようなことも……
・「クラップ・アンド・フリング(注:拍手してさっと開くような飛翔方法)」で翅が開く際に前縁部全体に空気の渦(前縁渦)ができ、それによって揚力が増す。
・「(前略)昆虫が飛び回る微小世界は空気の粘性が高く、そうした乱流の果たす役割がはるかに大きい。」
 ……なお、折りたたまれた翅を開くときには、血リンパを翅脈に流し込むことで、翅を開くとともに硬さを与えているとのことで……翅にある葉脈みたいな模様は、こんな風に活用されていたんですね!
 そして驚いたのが、「11章 超個体 アリとシロアリ」で解説されていたシロアリ塚の作り方。大地に突き立っている尖塔状のシロアリ塚は、内部の通気性が巧みに保たれているようです。尖塔の周りの風の力と、地下の巣から中央の煙突を通って上昇する温かい空気が組み合わさって、塚の周囲で空気循環が生じて、内部の温度と二酸化炭素濃度が一定に維持されている他、シロアリが活動することで空気が動くことも、その通気性に寄与しているようです。
「シロアリ塚の壁の材料はただの泥と唾液、排泄物かもしれないが、これらの材料を塗りつける際には、塚の表面を多孔質にしてガス交換が素早くおこなえるよう、最新の注意が払われている。」
 ……ということですが、もちろん、そこに「設計者」や「現場監督」はいないのです。
「(前略)シロアリ塚というとてつもない構造は、数十万匹、あるいは数百万匹もの労働力がすべて単純なルールに従うことで作られている。(中略)シロアリは土のかけらを持ち上げて別の場所で下に置くよう、あらかじめ遺伝子にプログラミングされている。この行動をどこでどのようにおこなうかは、巣内部のさまざまな刺激によって決まる。(中略)
 シロアリが温度だけでなく、湿度や二酸化炭素濃度の変化にも同様の反応をすることで、塚の内部に広がるトンネル網や、表面直下に走るより細いトンネルができる。シロアリ塚は超個体の「精神」から現れるものだ。」
 ……みんなが単純なルールに従って、結果的に快適な住居を作り上げていっている……社会的昆虫は、まさに「超個体」と言っていいのかもしれません。
『虫・全史 1000京匹の誕生、進化、繁栄、未来』……昆虫について多面的に学べる本で、とても面白くて勉強にもなりました(ただし、とてもぶ厚い本なので、購入する場合は、書店で実物を確かめた方がいいかもしれません)。昆虫好きの方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『虫・全史』