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第1部 本
生物・進化
一寸の虫にも魅惑のトリビア(鶴崎展巨)
『一寸の虫にも魅惑のトリビア: 進化・分類・行動生態学60話』2024/8/2
鶴崎展巨 (著)
(感想)
知る人ぞ知る虫知識を、世界的なザトウムシ研究者の鶴崎さんが、虫への愛情たっぷりに60話も紹介してくれる本です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「本書は朝日新聞鳥取版に2019年5月から2023年3月まで約4年間にわたり月に1回「虫にまつわるエトセトラ」というタイトルで私が連載した昆虫やクモに関するエッセイを母体としている。その連載にあたり、私は市販の図鑑や書籍に散見されるありきたりな解説記述ではなく、私自身の研究・経験に基づく話題や、その「種(しゅ)」の分類や生態や進化についての研究されてはいるが世間ではまだあまり広くは知られていないと思われる話題を選んで紹介することを試みた。(中略)
取り上げた種は合計56で、新たに追加したコラム4つを合わせて60話である。
あまり知られていない虫のあまり知られていないであろう側面を中心に書いたので、昆虫やクモに対しすでにかなりの知識をおもちの方にも新鮮に感じていただける話があるはずと思う。(中略)
取り上げた内容は動物分類学やその周辺、行動生態学、群集生態学、集団細胞遺伝学(染色体数の地理的分化)、種分化などの進化生物学、生物地理学、動物生理学、保全生物学など、多岐にわたっている。」
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……ということで、多数の虫の生態が次々紹介されていきます。
土の中に巣を作る「ホクダイコハナバチ」というハチがいることに驚かされました。鳥取砂丘の南側駐車場から砂丘に上がる坂の手前の地面に、毎年春になると、中央に穴の空いた噴火口のような小さな砂山がぼこぼことできあがるそうですが、これは地下の坑道で越冬したホクダイコハナバチが春の訪れで活動を再開し、地表に向けて掘り進んだ結果できた巣穴なのだとか。
また鳥取砂丘の南西側の広場付近には、巨大なニッポンハナダカバチの集団営巣地があり、このハチも砂地に坑道を掘っているそうです。このハチは……
「幼虫の餌とするために他の昆虫やクモを狩るハチを狩りバチと言うが、その中で、育児のために砂地の地中に坑道を掘るものを砂バチ(英語ではサンド・ワスプ)という。」
……鳥取砂丘には、不思議なハチがたくさんいるんですね……。
また「マメザトウムシ」の記事では、黒船来航について……
「一八五三年の黒船来航は誰もが知る日本史の重要事件だが、船団が植物採集の任務も負っていたことはあまり知られていない。担当者はウイリアムスとモロー。二人は上陸の機会を得るとすかさず植物を採集し標本をつくった。黒船は翌年も来日し、ライトとスモールという別の二人が植物を採集した。採集地は浦賀、横浜、下田から、函館や沖縄にも及ぶ。」
……という事実があったことを初めて知りました。この時代の西洋人が世界中で植物採集をしていたのは歴史の本で知っていましたが……日本でも採集していたんですね……。
また鶴崎さんの専門でもあるザトウムシ類には、染色体の数が地理的に変わる種が多いという不思議な特性があるそうです。例えばヒコナミザトウムシの染色体数は、鳥取では一六、大山で二〇、倉吉で一八なのですが……
「(前略)染色体数が変わっても外見は区別がつかない。染色体の二〇から一八への変化は、第八と第九の二本の染色体が遺伝子を含まないDNA部分で接着することで起きており、もっている遺伝子の種類や数は変わらないからだ。」
……ええっ! 「染色体数が変わる」ほどの大イベントが起こっても、外見上は区別がつかないなんてことがあるんですか! しかも染色体数の数が違っても交雑することもあるのだとか……染色体の変化による進化って、緩やかに起こることもあるんですね……。
『一寸の虫にも魅惑のトリビア: 進化・分類・行動生態学60話』……日本のあちこちにいる小さな虫にまつわるトリビア知識とともに、生物学もちょっぴり学べる本でした。冒頭には本書で紹介される虫のカラー写真もあります。虫好きの方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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『一寸の虫にも魅惑のトリビア』