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第1部 本
ペーパークラフトの本(日本の作家)
その他
和紙を科学する(大川昭典)
『和紙を科学する: 製紙技術・繊維分析・文化財修復』2024/6/28
大川昭典 (著)
(感想)
古文書・古典籍・絵画など、日本には「紙」の文化財が数多く残されています。これらの料紙に、どのような材料が使用され、どのような漉き方、加工が施されたのかを調査するとともに、和紙の材料や構造、製法まで幅広く解説してくれる集大成的な本です。
40数年に及び、先駆的に紙の文化財の調査・科学的分析に関わり、料紙の材料や構造、製法の研究で数多くの実績を残し、修理用紙の作成、料紙の復元などにも尽力してきた大川さんの知見を初めて集成したもので、250点超の図版とともに「紙」の研究の基盤と歩みを紹介してくれます。
「第I部 日本古代の製紙技術」では、古代日本の紙の歴史とともに紹介されている『延喜式(927年完成)』に記された製紙に関する各工程別の労働基準が、かなり具体的だったことに驚きました。
それには、紙料の布、穀、麻、斐、苦参ごとに、造紙工程と必要な日数が記されています(図表として、まとめてくれています)。仕事の工程には、繊維を切る、煮る、塵を取り除く、臼でつく、紙を漉くなどがあり、例えば布の場合は、2kgの布の原料から紙を漉くまでに、1人で行うと29.3日もかかることが書いてありました。この造紙工程で特に目立つのは、叩解(臼でつく)に時間をかけていることなのだとか。
またこのうち麻については……
「平安時代以降、麻の紙はほとんど製造されなくなりますが、それは紙の需要が増加し生産性の悪い麻を使用するよりも、原料処理が早くできて、生産性の上がる楮や雁皮が原料として選ばれるようになったということと思われます。そのことは『延喜式』の造紙工程を検討することで理解できます。」
……そうだったんですか。
また古写経紙の繊維の分析では、C染色液での染色観察も行っています。
「(前略)C染色液で染色して観察すると、麻は赤茶色を呈し、雁皮は薄青色を呈していることで区別することが出来ます。」
……イネ科の植物は大体青い色の呈色、こうぞ麻類は赤い色の呈色をするそうですが、これだけでは決め手にならないので、最終的には、繊維形態や繊維長、繊維幅等も調べて判別することが大切なのだとか。
また写経用の料紙には生紙を使用することはなく、必ず熟紙を使用していたようで、紙を熟紙にする最も一般的な方法は、「打紙」だそうです。次のように書いてありました。
・「延喜式の造紙方法、熟紙にするための打紙の方法、古代の紙及び顕微鏡による繊維の観察などについて検討をしました。この結果、繊維は短く切断されたり、短い繊維を使用した異種原料を配合したりして紙造りが行われていたことがわかりました。写経料紙に使われている紙は、熟紙にするために必ず打紙加工などを施していました。」
・「(前略)現在、忘れられている技術に、紙を湿らせて重ね、槌で叩く「打紙(うちかみ)」と呼ばれる技法があります。打つことによって、紙の表面が滑らかになって、雁皮の紙か楮の紙か、三俣の紙か区別することができなくなります。この打紙によって紙の密度は高くなり、光沢がでて、平滑性は向上し、吸水性が少なくなります。紙表面が平滑になり、字が書きやすく、墨でゆっくり書いても滲まなくなります。
このように、奈良時代、平安時代と現代では、紙づくりの方法や加工法が違っているため、外観だけで繊維の種類を推定することは難しいと思われます。」
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このような感じで、古代の紙について詳細な分析や、実際に試作した結果などの論文が掲載されていました。そして……
「(前略)古文書調査は非破壊調査が原則なので、通常は紙に落射光や透過光を当てながら顕微鏡による繊維の識別を行っていく。紙は繊維が重なり合っているうえに異種繊維を配合している場合もあって観察しにくく、繊維を採取しプレパラート上に広げて観察する方法に比べれば繊維の識別は難しいと思われる。」
……確かに、そうですよね。
また「第II部 和紙の製法と材料」では、和紙の製造について、次のような詳しい解説がありました(ここでは項目の一部のみを抜粋紹介しています)。
・和紙の主な原料はクワ科のこうぞ、ジンチョウゲ科のガンピ、ミツマタ。
・原料加工(こうぞ原料の加工方法)※この前に刈り取りなどの作業あり
1)水漬け
2)煮熟(アルカリ薬品で煮る)
3)水洗、晒し
4)塩素漂白(良い紙を作る時は行わない)
5)水洗(漂白後の洗浄)
6)塵取り
7)打解(即解)
8)解繊(離解)
9)紙料調整:白土などの填料配合、染色や滲み止めなど
10)紙漉き(流し漉きと溜め漉きの2方法あり)
11)圧搾
12)乾燥
13)断裁
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・手漉き用粘剤(トロロアオイ、のりうつぎ等が使われる)の効果
1)繊維の配列を良くするので地合いが良くなる
2)紙の強度を増す
3)薄い紙を漉くのに便利
4)紙の密度を高める
5)紙床の剥離を良くする
6)繊維の沈殿を防ぐ
7)紙の光沢を良くする
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・填料配合の効果
1)不透明性が向上する
2)白い紙の方が浮世絵のように色料を使う場合は、正確に発色することが出来る
3)繊維間の空間を埋めるため平滑度が増し、印刷適性が向上する
4)寸法安定性が良くなる(伸縮の減少)
5)米粉を配合することにより、繊維間の間隙が少なくなるので、にじみが少なくなるが、白土の種類によっては吸水度が高くなるものもある
6)保存性
7)経済性(歩留まりの向上)
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さらに「第III部 料紙調査の技法と分析」、「対談:料紙研究の視点」などでは、料紙繊維分析の第一人者ならではの知見を惜しみなく語ってくれています。
ただ……特に「第I部 日本古代の製紙技術」では、昔の漢字が使用されているようで読めない漢字もあり、残念ながら意味が分からないこともありました……。
それでも、まさに『和紙を科学する: 製紙技術・繊維分析・文化財修復』というタイトルに相応しく、料紙の繊維分析や、和紙の製法・材料について、総合的に詳しく解説してくれる貴重な本で、和紙に関係する仕事をしている方のバイブルになりそうな本だと思います。紙に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『和紙を科学する』