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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

現場で熱を感じ探る 火山の仕組み(宇井忠英)

『現場で熱を感じ探る 火山の仕組み』2023/9/26
宇井 忠英 (著)


(感想)
 日本の、そして世界の火山現場で調査を続けてきた宇井さんが、火山の噴火に関わる現象ごとに章立てして、多くの画像を使いながら解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 流れる溶岩
コラム1 米国流の国立公園
第2章 降り注ぐ噴出物
コラム2 新たに噴火が始まったときに行われる火山灰の緊急調査
第3章 マグマの通り道
コラム3 キッチン火山学
第4章 割れ目は語る
コラム4 ニュージーランドの火山を歩く
第5章 火砕流とその仲間たち
コラム5 研究者が火山を歩くときの装備
第6章 火山が崩れる
コラム6 セントへレンズ国立火山モニュメント
第7章 マグマと水のせめぎあい
コラム7 地層剥ぎ取り標本を作る
第8章 火山がもたらす災害と防災対策
コラム8 火山のジオパークに出かけてみよう
第9章 火山の基礎知識
コラム9 世界の火山データーベース

 とりわけ特徴的なのは、実際に火山現場で撮影してきた溶岩や噴出物の多数の写真に、赤丸や矢印などをつけて詳しく解説してくれるところ。まさに「現場の岩の感触や熱を感じながら」火山の仕組みと全体像を学べる感じがします。
 例えば「第2章 降り注ぐ噴出物」では、黒い噴煙と白い噴煙の違いについて、次のような解説がありました(本書ではもっと詳しく解説されています)。
「(前略)噴煙は高温なので周りの大気を取り込んで膨張し、渦を巻くような形態になります。噴煙の中には火山灰の粒子が大量に含まれているため、太陽光などをさえぎって黒く見えます。
噴火の勢いが弱まってくると噴煙の中に含まれる火山灰の量が減って水蒸気が主体の火山ガスが立ち上がるだけになり、白い噴煙がゆっくりと火口から出続ける状態になります。」
 さらに噴煙の根元が「透明」に見えることがあるそうです。マウナロア火山の2022年噴火の写真とともに、次のような記述が……
「火口のすぐ上の噴煙は主成分である水が沸点を超える温度のため、気体の水蒸気しかなく光を反射しません。そのため透明で噴煙の背後にあるマウナケア火山が透けて見えます。噴煙は上昇すると大気に冷やされて微細な水滴ができるので噴煙は不透明な白に近い色に代わります。」
 ……かなり不思議な感じの写真なのですが、これは高温の水蒸気部分だけが透明に見えているんですね……。
 また章ごとにコラムがあり、それも興味津々な内容のものが多かったです。例えば「コラム2 新たに噴火が始まったときに行われる火山灰の緊急調査」では、火山灰試料の薄片写真を調べるなどのことが実施されるようで……
「多数の火山灰粒子の断面が写っていますが、発泡した気泡が見える新鮮な火山ガラスは見当たりません。このことからこの噴火は火山体内部に浸み込んでいる地下水がマグマからの熱により気化して爆発を引き起こした水蒸気噴火であると判定しました。本格的なマグマ噴火に移行する可能性は低いと判断できたのです。
 噴火の規模を推測するためには降灰があった地点で1平方メートルに降り積もった火山灰を全て採取して、乾燥重量を測ります。」
 このような作業を多数の地点で行い、グラフ化などを行うのだとか。
 さらに「第4章 割れ目は語る」では、ジオパーク観光のハイライトの一つ「柱状節理」について、次のように書いてありました。
「分厚く溜まった溶岩流が冷却する過程で、収縮に伴って溶岩流の厚さの方向に伸びた柱のような形態の割れ目ができます。その表面は六角形の鉛筆を束ねた亀甲模様のような形をしています。(中略)
 溶岩流の断面が観察できる崖では柱が並んでいるように見えるので、これを柱状節理と呼びます。柱状節理の柱は上から下までひと続きにはなりません。なぜなら大気に接する溶岩流の表面と大地に接する底面の両方から、冷却が徐々に進んで節理が伸びていくからです。その結果、中央部で節理面の食い違いが生じます。こうした特徴から露頭で1枚の溶岩流の全てが見えているのか一部が侵食されて失われているのかが判断できます。」
 ……ああ、そうなんですか! 上から下まで綺麗な1本の柱になっているときは……全部が見えていないと判断するべきなんですね。なるほど……。
 またすっかり誤解していた「溶結」という用語についても……
「溶結とは溶けるという文字を使っていますが、岩が溶けたのではありません。高温の火砕流堆積物が自重に耐えられずに軽石が塑性変形してつぶれる現象です。顕微鏡で観察すると軽石の間に含まれる発泡した火山ガラスもつぶれています。溶結した火砕流堆積物を溶結凝灰岩といいます。」
 ……溶結凝灰岩っていうのは、マグマなどの火山の熱で岩が溶けたものをいうのだと勘違いしていました……。
 他にも、かなり専門的な知識も教えてくれます。例えば「岩屑なだれの発生年代測定」では……
「日本のように四季があり湿潤な気候の下では樹木に成長に伴う年輪ができます。年々の天候は一様ではなく、寒くて樹木が育ちにくい年もあれば温暖で生育が良い年もあって年輪の幅は一定ではありません。多数の樹木試料の年輪幅を照合して年輪と生じた年代の特定ができます。
 岩屑なだれ堆積物はその縁辺部で樹幹が集積していることがあります。鳥海山麓では大量に樹幹が集積しているのが見つかりました。掘り出して製材し、和風家屋の欄間に取り付ける銘木として販売する業者が現れました。この地点の埋もれ木を使った年輪年代測定が行われ、鳥海山北麓の岩屑なだれが紀元前466年に発生したことが突き止められました。」
 ……埋もれ木から岩屑なだれの年代を測定できることがあるんですね……。
 さらに「第8章 火山がもたらす災害と防災対策」や、「第9章 火山の基礎知識」もあり、火山について総合的に学ぶことも出来ました。
『現場で熱を感じ探る 火山の仕組み』……多数の火山現場で実際に調査を行ってきた宇井さんが、多数の現場写真とともに解説してくれる本で、臨場感が感じられる「火山の本」でした。とても勉強になるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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『現場で熱を感じ探る 火山の仕組み』