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第1部 本

生物・進化

恐竜大陸 中国(安田峰俊)

『恐竜大陸 中国 (角川新書)』2024/6/10
安田 峰俊 (著), 田中 康平 (監修)


(感想)
 恐竜種発見と新種報告数は世界最多。でも盗掘・密売や政治関与も世界有数……世界一の恐竜大国の中国の実態を紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
恐竜の基礎知識――本編に進む前に
第1章 中国恐竜最新事情――恐竜の常識を変えた「羽毛恐竜」は中国で見つかった
コラム1 中国恐竜の命名ルールと珍名恐竜
第2章 レジェンド中国恐竜秘話――『ドラえもん』でも有名な中国恐竜たち
コラム2 中国恐竜学の泰斗・楊鍾健の恐竜よりも数奇な人生
第3章 中国人の大発見――化石は意外な局面で見つかる
コラム3 化石盗掘の暗い影と中国恐竜研究の混乱
第4章 中華全土、恐竜事情――新疆・チベットでもマイナーな町でも化石は出る
コラム4 台湾と香港で恐竜の化石は見つかるか?
第5章 中生代中国の「海と空」の生き物たち――中国では翼竜や首長竜の化石も見つかる
コラム5 「世紀の大発見」をものにした恐竜オタク博士の光と闇
おわりに
参考文献
   *
「はじめに」には、次のような驚きの情報が書いてありました。
「(前略)2016年には、中国人研究者がミャンマー東北部で入手した琥珀のなかから、生前の形態を保ったままの軟組織を残す恐竜の尾が発見され、こちらも世界的なニュースになった。
 いまや中国は、化石が見つかった恐竜の種が世界で最も多いのみならず、研究上でも非常に重要な国である。世界一の恐竜大国といっても、あながち間違いではない。」
 この琥珀漬けの恐竜の尾は「EVA」と呼ばれているそうです。そして、「同じ琥珀のなかに含まれていた白亜紀前期のアリが年代確定の決め手になった。」のだとか。これは……今後の研究にも期待できそうですね!
「恐竜の基礎知識――本編に進む前に」によると……
「恐竜(Dinosauria)は、学術的には以下のように定義される存在である。
「トリケラトプスと鳥類の最も近い共通の祖先から分岐したすべての生き物」」
 ……なのだそうです。この章では恐竜の主な系統図など、恐竜に関する概説を読むことができて、とても参考になりました。
 続く「第1章 中国恐竜最新事情」では、恐竜の常識を変えた「羽毛恐竜」が中国で多数見つかっていることが紹介されています。
 例えば、1995年、中国東北部(旧満州)の遼寧省西部で農民が山肌に転がっている岩のなかの奇妙な化石に気づき、最終的にこれは「シノサウロプテリクス」と命名されたそうです。ところが同じ時期に同じ遼寧省で話題になった羽毛恐竜・アーケオラプトルの方は、なんと後に捏造されたものと判定されたそうです。
 これはまさに中国の恐竜事情そのもので、重要な恐竜化石が、建築現場や土砂崩れ現場、農地などから続々発見されている一方で、残念なことに、盗掘や捏造も盛んに行われているようです。なんと盗掘者は、貴重な化石に見せかけるために、いくつかの別の化石を組み合わせることすらあるのだとか……困ったことですね……。
「第3章 中国人の大発見」によると……
「中国では伝統的に、土中から出てきた古生物の骨を「龍骨」と呼び、削った粉を薬として服用する民間療法が存在する。そのため、中国における化石は、ときに地域の住民の手で薬にされてしまうことがあった。」
 ……ということで、化石が誰かに発見されると、化石が薬になるからと近所の人が大挙して押し寄せて削り始める、盗掘やニセ化石づくりが始まるという流れが起きてしまうようです(これを防ぐため発見者の地域住民が、命がけで守り抜いてくれた化石もあるようですが……)。
 またインターネットが盛んになった現代では、農民インフルエンサーが巨大な「ニワトリの爪痕」を動画のネタにしようとカメラを回してネットで公開したら、翌日にすぐ恐竜学者から連絡が来て発掘が始まるということがあったという話も紹介されていました。ここで発見された恐竜足跡は合計8点にもなったそうです。これは、とても良い話ですね!
 そしてこの時の「足跡につけられた学名」は、エウブロンテス、アノモエプス、グララトールなどなのですが、実はタマゴや足跡はどの恐竜のものかは多くのケースで確言できないので、タマゴや足跡「だけ」を指す学名がつけられるそうです。……「足跡」に足跡だけの名前がつく……これは必要なことなので考えてみれば当然なのですが……なんだかちょっと面白いですね(笑)。
 なおこれらの恐竜足跡化石が、「天鶏」のような巨大ニワトリ神話のモチーフになったのかもしれないとのことでした……たぶん、そうなんでしょう。そして……やっぱり恐竜は鳥類と近い存在なんですね!
 本書では、中国国内で発見された多数の恐竜の発見時の状況や、その後の展開などを詳しく知ることができるだけでなく、その恐竜の復元イラストなども数多く掲載されています(残念ながら、すべて白黒ですが)。
 また「コラム4 台湾と香港で恐竜の化石は見つかるか?」には、次のようなことが……
「台湾本島はかなり大きな島だが、地層は新生代第四紀のものが大部分――。すなわち、私たちが生きている時代とかなり近い地質年代の地層が広がっているため、恐竜の化石が見つかることは期待しにくいとされている。(中略)
 台湾は恐竜学よりも人類学の島だと考えたほうがいいだろう。」
 ……なるほど。地層の年代で、恐竜が発見される可能性を推定できるんですね!
『恐竜大陸 中国』……発見された恐竜の種類が、いまやアメリカを抜いて世界一の恐竜大国となっている中国の恐竜研究を総合的に詳しく知ることができて、とても興味津々でした。日中戦争や文化大革命をはじめとした動乱が、研究者たちにどのように影響したかについても知ることができます。中国の研究者は研究だけしていれば良かったわけではなく、政治的な激動のなかで生き抜いていかなければなかった(涙)など、複雑な歴史的事情についての解説もありました。恐竜好きの方はもちろん、中国の研究者事情に興味のある方も、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『恐竜大陸 中国』