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第1部 本

社会

新聞記者とニュースルーム(木下浩一)

『新聞記者とニュースルームー一五〇年の闘いと、妥協』2024/5/31
木下浩一 (著)


(感想)
 新聞はどのようにして制作されてきたのか……新聞の送り手である記者に焦点を当てたニュースルーム研究で、主な内容は次の通りです。
第一章 明治・大正・昭和初期の記者たち―多様な分化の実相
第二章 政治記者―最高権力者との対峙
第三章 経済記者―高いエリート意識と専門性
第四章 写真記者―時代を最前線で目撃する
第五章 整理記者―ニュースルームの「最後の砦」
第六章 デスクと遊軍―苦悩し疲弊するベテラン記者
第七章 社会部記者と遊軍―社会の複雑化に翻弄される記者たち
終章 相互比較―歴史・ルーチン・要因と文脈
   *
「はじめに」によると、新聞はゲートキーパーとして、社会に流通する情報をコントロールするとともに、社会的な議題を設定し続けてきたということで、そのゲートキーピングの機能を明らかにすることは、ニュースワーカーのルーチンと意思を、歴史的文脈の中で理解することだそうです。
そして本書は、『新聞研究』の他に、『新聞労連』、『新聞印刷技術』、『新聞経営』も資料としています。
「第一章 明治・大正・昭和初期の記者たち―多様な分化の実相」では、政治中心の大新聞と庶民生活中心の小新聞に分かれていた「大新聞・小新聞並列期(明治4~19)」から、戦争によって需要が高まった「中新聞成立期(明治20~大正元)」、さらに記者の分化が進んでいった「全国紙成立期(大正元~昭和11)」などの新聞業界の変遷が書いてありました。
 続く「第二章 政治記者―最高権力者との対峙」では、政治部記者のジレンマについて……
「(前略)政治家などのニュースソースに近づきすぎると、内部に取り込まれて批判性が低下し、結果的に指導性も低下する。情報を入手するには、政治家に「肉薄」しなければならない。かといって、近づきすぎると取り込まれる。この矛盾を「どう調和するか」は、政治記者にとって根源的な問題であった。」
 ……これは、おそらく今でも悩ましい問題なのだと思います。
 そして「第三章 経済記者―高いエリート意識と専門性」では、経済面は専門用語が多くて勉強しなければ読みこなせないことや、企業広告の急増で広告専門記者が必要とされるようになったことなどが書いてありました。
「第四章 写真記者―時代を最前線で目撃する」では、カメラの能力向上で一般人でも気軽に扱えるようになったことで、一般記者に撮影が求められるようになっただけでなく、写真記者には取材や記事執筆が求められるようになったなど、記者のマルチスキル化の経緯とともに、電子カメラと携帯電話の普及で、撮影した写真が撮影と同時に本社へ伝送されるようになったことが紹介されています。
 そして「第五章 整理記者―ニュースルームの「最後の砦」」では、……そもそも整理記者って何? と思ってしまいましたが……
「整理記者は取材しない。政治部や社会部などの出稿部から提出された記事を整理、あるいは編集するのが、整理記者の主たる職務である。」
 ……だそうで「紙面に関する最終決定を有すのは整理部」なのだとか。次のようにも書いてありました。
・「整理部記者に求められる最重要な責務は、ニュースについての「正しい価値判断」であった。価値判断は、「広い知識」に基づいてなされるべきだとされた。」
・「(前略)締め切りに追われるなかで、正確かつ迅速な判断を下さなければならない整理記者にとって、ニュースの客観的な価値判断は、極めて困難であった。」
 ……とても大事な仕事ですね!
 ところが……機械化によって整理記者の自由度が低下し、独創性を発揮しにくくなってきたとか、「完全原稿(修正のない原稿)」が求められるようになり、整理部の仕事は軽視されるようになったとか……。次のようにも書いてありました。
「機械化やコンピュータ化によって、整理記者に求められる職能は平易となった。紙面作成の自由度が高まる一方で、整理記者の権限は低下した。」
 ……そうなんでしょうか? 機械化とは関係なく、整理部の仕事は今でも、とても大事なもののような気が……。
 続く「第六章 デスクと遊軍―苦悩し疲弊するベテラン記者」では、デスクについて……
・「戦後日本のニュースルームにおいて、デスクは実務上のトップであった。局長や局次長あるいは部長といった上司がおり、時に相談することもあったが、実質的に実務を取り仕切ったのはデスクである。」
・「(前略)すでに四十年代後半に、後の原型が見られる。すなわち、デスクの下にキャップがおり、さらに内勤や外勤の穴を埋めるために一定数の遊軍が配置された。社会部では遊軍の存在が大きく、他部よりも人数が多かった。」
 ……デスクって、そういう位置づけの役割なんですか。
「万能」が求められるデスクは、「管理職としてだけでなく、あらゆる面で微妙な立場にあり、それは悩みとなっていた」そうです。
「(前略)デスクがいかに経験豊富であっても、伝聞情報に基づいて的確な判断を下すのは極めて困難であった。」
 ……まったく、その通りですね! そんな大変なデスクを支えるのが「遊軍」だそうですが、それは……
「遊軍は、自らの意思で企画・取材を行いつつも、突発の事件・事故などに対応する必要があった。後者こそが本来の務めであった。」
 ……というもの。ところが……
「新聞記者がカバーしなければならない領域は拡大していったが、多くは社会部が、なかでも社会部の遊軍記者がカバーした。社会部の遊軍がカバーする領域は増え続け、遊軍は結果的に、余裕や自由度を失っていった。」
 ……うーん……デスクや遊軍は、疲弊しているんですね……。
 そしてちょっと意外だったのが、「第七章 社会部記者と遊軍―社会の複雑化に翻弄される記者たち」に書いてあった次のような「一次情報」の意味。
「記者という職業における情報は、ほぼすべてが伝聞である。伝聞か否かは、重要な観点となり得ない。記者が直接体験した狭義の一次情報とは、記者自らが現場で人や物や行為を目撃するか、現場で遺留品を入手するなど、極めて例外的である。(中略)
 以上から、新聞記者にとっての一次情報とは、ジャーナリズムの領域において当該の記者のみが排他的に有する報道以前のニュース価値を有する情報ということになる。既述のように、報道された瞬間に、当該の情報は二次情報になる。」
 ……なるほど。考えてみれば確かに、厳密な意味での「一次情報」なんて、ごく僅かなはずですよね……。
『新聞記者とニュースルームー一五〇年の闘いと、妥協』……新聞業界の歴史や、記者のおかれている状況や仕事を知ることが出来て、とても参考になりました。ただ……「ニュースルーム」で日々、どのような活動(闘いと妥協の実態)が行われているのかを、もっとリアルに見せてくれるのかと期待してしまったのですが、そのへんはわりと概要紹介レベルだったような……。
 まあ、それはともかく、新聞業界は「機械化」で大きく変わってきたようで、記者には「一般化」や「マルチタスク化」が求められるようになってきたようです。
 そして機械化は今後も進むことでしょう。
「CTSすなわちコンピュータ化によって、記事の入力から紙面の製作までが統合的にシステム化された。コンピュータ化されていない唯一の工程は、原稿の執筆であった。」
 ……と書いてありましたが、「コンピュータ化されていない唯一工程」の「原稿の執筆作業」ですら、今後は生成AIによる機械化が進んでいくことは、ほぼ間違いないと思います。
 それを考えると……今後、最も求められていくのは、「整理記者」ではないでしょうか。整理記者については……
「(前略)新聞業界内では裏付けを取ることを「裏取り」というが、裏は取れているか、事実誤認はないのかを最終的に確認するのは整理記者であった。」
 ……と書いてありましたが、「裏取り」や「ファクトチェック」は、これまで以上に重要になっていくと思います。新聞を含むマスコミ業界には、ぜひ「ファクトチェック」(もちろん有償でいいと思います)を行って欲しいと思います。
 また、社会部記者については……
「社会部記者は、なぜ文章が上手いのか。それは社会面の主な読者が庶民であり、「表現のよさ、面白さで読ませねばならぬ」からであった。政治部や経済部の記事は、文体が硬くなりがちであった。対する社会部の記事は、「はじめから、やわらかく書くこと」を記者自身が心掛けていた。」
 ……と書いてありましたが、記者が「庶民にも分かりやすく書く」ことは、今後も重要な仕事だと思います。
『新聞記者とニュースルームー一五〇年の闘いと、妥協』……新聞記者の役割と歴史的変遷について詳しく解説してくれる本でした。とても参考になるだけでなく、いろいろなことを考えさせてくれる本だったので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『新聞記者とニュースルーム』