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第1部 本

社会

グリーン戦争(上野貴弘)

『グリーン戦争――気候変動の国際政治 (中公新書 2807)』2024/6/19
上野 貴弘 (著)


(感想)
 人類共通の課題、気候変動。各国は温室効果ガスの排出削減を目標に2015年にパリ協定に合意しましたが、17年、トランプ米大統領が協定脱退を宣言。中国やインドなど新興国が条件闘争をはじめ、国際協調が動揺しています……米国、欧州、新興国の利害が錯綜する政治力学を、産業、貿易、金融、エネルギーの観点から解き明かし、日本が進むべき道も示してくれる本です。
「はじめに」によると、「パリ協定」を巡っては、現在も次の三つの対立軸が絡み合い、国際協調が停滞している状況にあるようです。
1)削減目標を巡る西側諸国と新興国の対立
2)米中対立の激化
3)産業と貿易を巡る米欧の対立と、EUと新興国の対立
   *
 温室効果ガスの排出削減が我々人間にとって非常に重要であることは、世界の国々にも広く理解されているようですが、実際に「自分の国」がそのために何かをするとなると一筋縄ではいかないようです。第5章には次のように書いてありました。
「エネルギー需要を満たしながら、同時に二酸化炭素排出をなくすには、省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの拡大、原子力発電の利用、CCSによる化石燃料の排出ゼロ化によって、エネルギーを脱炭素化しなければならない。その実現には、社会や経済を巻き込んだ対策が必要となり、裏を返せば、社会全体で負担が発生する。インドのヤーダブ大臣が懸念するように、エネルギーの脱炭素化は、進め方を誤れば経済発展や貧困削減の足かせとなりうる。」
 ……温室効果ガスの排出削減は、自分の国が大変なコストを払って削減努力をしたとしても、他国が何の努力もしないまま「タダ乗り」をしてくる可能性が大いにある問題なので、他の国々の動向がとても気になるものなのでしょう。
 なお温室効果ガスの「ネット・ゼロ排出」のためには、上記のようなエネルギーの脱炭素化の他に、次のような方法もあることも書いてありました。
「(前略)ネット・ゼロ排出とは、人間活動による二酸化炭素の排出量が、人間が大気から除去した二酸化炭素の量と釣り合う状態を指す。「除去」には、植林によって二酸化炭素を樹木に吸収させることに加えて、大気中の二酸化炭素を装置で直接回収して地中に固定する技術や、植物由来のバイオマス燃料の燃焼時に発生した二酸化炭素を地中に埋める技術など、多様な方法がある。」
 そして、本書には、2015年にパリ協定の他、京都議定書など、さまざまな国際的な議論や方策について詳しい解説がありました。
 例えばパリ協定の目標のNDCについては……
・「(前略)パリ協定の全ての締結国は、排出削減目標を5年ごとに提出する義務を負っている。協定の条文では、目標は「国が決定する貢献(nationally determined contribution)」と表現されており、略称はNDCである。」
・「(前略)パリ協定は各締結国に対して、NDCの進捗状況を2年ごとに国連に報告し、その報告に対する評価を受けることを義務付けている。加えてNDCの目標年が到来した後には、NDCを達成したかどうかも、報告・評価の対象となる。パリ協定は法的な義務で縛るのではなく、説明責任を強化することによって、各国をNDC達成に誘導するとの考え方をとっている。」
 ……などの解説がありました(本書内では、もっと詳しく説明されています)。
 そして「終章」には、本書の概略も踏まえた次のような提言が……
「(前略)国際社会がとるべき対応としては、パリ協定のNDC方式を継続しつつ、脱炭素化の実現に向けて、貿易・金融・エネルギーなどの側面からも協調を追求することが、今後も基本線となる。その際、国境炭素調整を通じた好循環への誘導(第3章)、金融の分野で見られたようなグローバルガバナンスの様々な手法(第4章)など、パリ協定を外側から補完する新たなアプローチを積極的に試すべきである。また、脱炭素化への実現に向けた道筋が多様であることを踏まえ、エネルギー技術の選択肢を広げる国際的な努力も、特にアジアでは重要である(第5章)。」
 ……とても説得力を感じます。
「IPCCの最新の報告書(2023年)によると、世界全体でカーボンニュートラルを実現する時期は、温度上昇を1.5℃に抑える場合は2050年頃、2℃より低く抑える場合は2070年頃とのことである。」
 ……と予想されているそうです。温室効果ガスの削減に対する取り組みはとても重要なのですが、アメリカやEU諸国、中国やインド、島嶼国、ロシアや中東の産油国など各国の利害が錯綜していて、パリ協定などの議長国が、いかに取りまとめに苦労したかについて、本書で詳しく知ることが出来ました。
 度重なる地震に苦しめられる日本は、被災地の復興に加えて温室効果ガスの削減コストを負担するのが大変ですが、なんとか目標を達成できるよう願っています。リサイクルやエネルギー節約など、微力ながら今後も個人的協力もしていくつもりです。
『グリーン戦争――気候変動の国際政治』……各国の利害が錯綜する政治力学を、産業、貿易、金融、エネルギーの観点から解き明かしてくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『グリーン戦争』