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第1部 本

描画参考資料

科博と科学(篠田謙一)

『科博と科学: 地球の宝を守る (ハヤカワ新書)』2024/2/21
篠田 謙一 (著)


(感想)
 明治10年の創立以来、「人類の共通財産」を保存・継承し続けてきた上野・国立科学博物館。コロナ禍で来館者8割減、起死回生のクラウドファンディング……その果てなき挑戦の軌跡を語ってくれる本です。
「はじめに」によると……
「国立科学博物館(科博)は、二〇二七年に創立一五〇周年を迎える日本で唯一の「国立」の自然史と科学技術史の博物館です。」
 ……そうだったんだ。
「科学」博物館には、「科学」ならではの大変さがあるそうです。科学は進歩するので、知識は数十年単位で陳腐化するから……その通りですね! これに対して科博は……
「こうした状況の中で、人生の中で常に科学に関心を持ち、人々が情報をアップデートしていく社会をつくること、それをこれからの国立科学博物館の重要な役割だと考えるようになりました。」
 ……そのために、「科学を文化にしたい」と考えているそうです。例えば芸術の場合は、学校で学んだ後も、楽器を演奏したり絵を描いたり、さらには子どもと一緒に楽しみながら芸術に親しむ環境を作っていったりしますが、「科学」も同じような「人生を豊かにする」ものにしたいという話で……音楽も美術も工芸も好きな私でしたが、科学を芸術と同じものとは考えていなかったことに気づかされました。でも科学はどんどん変わるので、生活の中で常にアップデートしなければならないことは確かで……芸術と同じでなくても、日々親しむことで、知識を常に最新にする環境を作っていかなければなりませんね!
 さて、「現在国立科学博物館には、上野の本館の他に、港区の自然教育園、茨城県つくば市に実験植物園と研究施設・収蔵庫があります。」だそうで、上野と港区(白金)の二つは知っていましたが、筑波にもあることは知りませんでした。自然史や産業技術史の資料は膨大で、また収集の速度が速く、あっという間に収蔵品が増えるので、土地に余裕のある場所に収蔵庫を置かなければならないそうで……考えてみれば、当然のことですね!
「博物館は過去と未来をつなぐ存在(過去の保管、現在の追加、未来へ託す)」として、標本・資料が毎年数万点ずつ増加しているそうです。
「科博の場合、標本・資料は現在、年間数万点ずつ増加しています。分類群ごとに整理され、保管されていますが、すでに筑波地区にある収蔵庫では、収蔵スペースの確保が難しい状況となっています。」
 博物館がこのように大量の標本・資料を収集する理由には、次の二つがあるそうです。
1)例えば生物では、同じ生物種でも収集を続ける必要がある(証拠となる標本が必要になる。過去のものが必要になることも、時系列的に必要になることもある)
2)分析の技術が進歩する(過去の標本まで分析可能になったDNA分析技術のように、どんな標本が必要になるかを予測できないので、過去の標本をできるだけ良い状態で保存し続ける必要がある。)
   *
「標本コレクションの質を高め、量を増やしていくことで、それを元にした研究の質も高くなります。その成果は広く社会で共有され、展示、学習支援活動といった、より皆様に身近な活動に活かされることになるのです。」
 ……これは本当に大事なことですね! 白金の自然教育園では、樹木や動植物の調査を定期的に行い、かつての景観を保存する努力もしているそうです(調査は定期的に行われ、管理と維持だけでなく、生物相の変化についても記録を残し、保護活動を行っているのだとか)。
 でも、これらの標本や資料の収集・保管には光熱費などの維持費がかなりかかり、最近のコロナ禍や光熱費等の高騰は、科博にもたいへんな負担となっていました。
 そこで科博が行ったのが、あの有名なクラウドファンディング! TVニュースでこの情報を知った時には、「国立」の博物館でも、光熱費などの維持費捻出に苦労しているんだ、と衝撃を覚えましたが、幸いこのクラウドファンディングは大成功(目標とした一億円はわずか九時間で達成。最終的に九億二〇〇〇万円を集めた)でホッとしました。
 実は科博は二〇〇一年から独立行政法人に移行していて、完全に国家が面倒を見るわけではなく、全くの民営でもない中途半端な存在だそうです。予算が削減されているだけでなく、科博が集めている多くの標本は「自然標本」で「文化財」とは性質が異なることにも問題があるようです。文化財としては価値をもたないものがほとんどで、「県立の博物館の場合は、自然史標本は県の財産とみなされ、机やボールペンと同じように物品として財務規則に縛られる」なんていう場合もあるのだとか!
「(前略)自然史標本を文化財と同じような扱いにすることが必要です。文化財に対して「自然史財」という概念を確立させることが重要です。」
 ……まったく、その通りですね!
 ところでコロナ禍休館中に、科博ではYouTubeを使った情報発信を試みたそうです。二〇二〇年四月には「おうちで体験!『かはくVR』」というVRコンテンツを提供したり、「ポケモン化石博物館」の企画展をVRコンテンツで配信したりして、世界中からアクセスが来たのだとか。
科博から遠い場所に住んでいる人たちにも魅力を伝えるために、このような情報発信は大切ですが、ネットでの情報発信は入館料という形での集金ができないことが課題でもあります。それでもこれらの配信に多額の費用がかかることは明らかなので、少なくともそれを回収し、次のコンテンツを製作できるような「持続可能な仕組みづくり」が必要だと思います。
 また博物館には教育機能も求められていますが、その場合にも……
「(前略)インターネット上の情報を教育現場で使う場合にも、コンテンツの質や内容の正確性を誰が担保するのかという問題があります。(中略)博物館初の情報がその際に利用されることを考え、今後の情報発信を行っていく必要があると考えています。」
 ……博物館が発信する情報は、今後も重要性を増していくのではないでしょうか。
 さて、国立科学博物館は、世界中の博物館と連携して次のような活動もしているそうです。
「二〇二三年に、世界二八ヶ国の国を代表する七三の自然史博物館や植物園が保有する標本の内訳が調査されました。もちろん、それぞれの博物館は自分たちがどのような標本を持っているかについては把握していますが、多くの場合、その情報は外部から知ることができなかったので、世界全体でどのような標本が保存されているかは知られていなかったのです。(中略)
 地球規模コレクションと総称されるこれらのデータは、生物学、地質学、古生物学、人類学の標本を全体として一九のタイプに分類し、陸地と海洋を地球の全体をカバーするように一六の地域に分けて、それぞれどのような標本があるかを調べたものです。」
……これも本当に重要な仕事ですね! これらが有効活用できることを願っています。
 またコラムでも、「人新世」についての驚きの事実を知ることが出来ました。
 なんと「人新世」は「一九五〇年」が、その開始時期に決まりそうなのだとか!
「(前略)概ね一九五〇年代に始まる世界人口の拡大とそれに伴う人間活動の増大によって、資源の消費と廃棄物の増加が進み、地球規模の痕跡を残すことになりました。そして同時に環境が後戻りできない形で変化しているということになります。この時代を新たに定義したのが人新世というわけです。」
 ……ということで、それを明確に見ることが出来る「人新世の標準地質断面(セクション)」として、二〇二三年七月に、カナダのトロント郊外にあるクロフォード湖にするという勧告がなされたそうです。……恐竜を絶滅させた隕石みたいに、私たち人類が新しい地質時代を作っていくんですね……なんだか複雑な思いが……。
『科博と科学: 地球の宝を守る』……科博について総合的に知ることが出来る本でした。これ以外にも科博の歴史や、東日本大震災で行った資料のレスキュー、博物館の研究者の役割や、展示会の準備の仕方など、さまざまなことを知ることができます。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『科博と科学』