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第1部 本

描画参考資料

大地とまちのタイムラインドキュメントブック

『大地とまちのタイムラインドキュメントブック: 楢葉町×東京大学総合研究博物館連携ミュージアムができるまで』2024/4/22
大地とまちのタイムラインドキュメントブック編集委員会 (編集)


(感想)
 2023年、福島県楢葉町と東京大学総合研究博物館が連携し、ミュージアム「大地とまちのタイムライン」を設立しました。この本は、その設立に至るまでのプロセスを、構想からデザイン・設計・施工まで、詳細にドキュメントしたものです。
「ごあいさつ」によると……
「大地とまちのタイムラインは、当時の展示設備および資料と総合研究博物館の有する膨大な標本・資料により太陽系誕生から当地域の歴史まで46億年のタイムラインの概略を、「危機~再生~未来創造」のキーワードをもとに学ぶことのできるミュージアムである。」
 ……楢葉町の歴史資料館は、1986年に設置されましたが、マグニチュード9(楢葉町の最大震度6強)の東日本大震災で被災して、長い間休館になっていました。
「連携ミュージアムへの道のり(東京大学アイソトープ総合センター 秋光信佳)」によると、秋光さんが放射能調査依頼で現地を訪れて、歴史資料館が閉鎖されたままであることを知り、その後、東京大学総合研究博物館の収蔵スペース不足を聞いたときに、両者を結びつけることを思いついたのをきっかけに、役場関係者と東京大学総合研究博物館関係者が意見交換を始めることになったようです。
 大学や大きな博物館は常に収蔵スペース不足に悩んでいるので、こういう試みはとても良いですね! 本書は、大学との連携で地元の博物館を再生した経緯が、そのコンセプトづくりから詳細に紹介されているので、特に博物館関係者にとっては、とても参考になるのではと感じました。
 とは言っても、東京大学の鉱物・古生物標本と、町の資料との間には、テーマや性格の違いがあることが課題になりました。そこで両者の関係者が話し合い、「地球規模の自然史と、町の自然や歴史、文化史などをつなぐ骨太のストーリーを軸」に展示の方向性を打ち出すことになったようです。
 そして「「危機と再生」というテーマを悠久の時間軸の中で語り、まちの未来創造へとつなぐ」ミュージアムの「ハイライト標本と資料紹介」には……
「都城秋穂が「プレートテクトニクス」の発見に結びつく調査・研究を行った阿武隈山地の変成岩標本を展示したうえで、プレートテクトニクスの概要、そして、われわれ人類にとっては、その功罪となる、石炭や鉱物資源、そして地震・津波について紹介した。」
 ……ということで、その変成岩の標本写真もありましたが、岩石の縞模様が激しく曲がっていて、この岩石が地下深くで強い変成を受けたことがよくわかるものです。
 この展示周辺の壁には、「ここ福島で「大地は動いている」ことを証明する石を発見した人がいました」と書いてあり……この文章を読んだら、誰でも「どんな石なんだろう?」と興味津々になりますよね! とても良い展示の仕方だと思います。
 また「まちのタイムライン」では、楢葉町周辺の戊辰戦争の様子を示す「冥加金上納減額嘆願書下書」という古文書が展示されていましたが、これには、1868年の岩沢の戦いにおける放火、通行人激増、冷水による旱魃など、幕末の村の窮状が記されているそうで、博物館に展示されている、こういう古文書は、いつもは「ふーん」という感想だけで終わっていましたが……古文書を読み解くことは、この地域の「災害」を知ることに役に立つのだなーと痛感させられました。
 さらに「タイムポイント・ゼロ」という映像展示があり、これは「これまで観てきた展示の内容を、ダイジェストで振り返る体験型の映像展示」だそうで……こういう「復習」が出来る映像展示は、とても良いなーと感心させられました。(さすが東大ですね!)
 さて、「危機」の要因には次の3つがあるそうです。
1)地球や生命、人類が誕生するきっかけとなった宇宙での出来事、地球(自然)が引き起こした出来事(天災、自然災害等)
2)人間が引き起こした出来事(抗争、闘争、戦争、事故等)
3)人間と自然が組み合わさり引き起こされた出来事(原発事故等)
 ……楢葉町のミュージアムで、このような「危機と再生」のテーマ展示を観ることは、とても意義があることだと思います。
「地球惑星科学・生命史・人類史の解明に取り組んできた自然科学や人文科学は、悠久の歴史のなかで生命・人類は破滅的事象に次々と遭遇しつつも、それらを乗り越えてきたことを明らかにしてきた。」
 ……まさに、その通りですね!
 もちろん東日本大震災を引き起こした「プレートテクトニクス」についても解説があり、「プレートテクトニクスは地震や火山噴火を引き起こす悪者一辺倒ではなく、鉱物資源をつくるのにも重要な役割を果たしている。」とも書いてありました。
楢葉町のかつての主要産業(エネルギー供給の源)が黒いダイヤ(石炭資源)だったこと、その後、エネルギー供給源が楢葉町内の福島第二原発(原子力エネルギー)に変わったなども考えると……まさに「危機~再生~未来創造」を実感させられます。
 生命史における危機と再生(5回の大量絶滅)に関連した化石や隕石の展示も、充実しているようでした。
『大地とまちのタイムラインドキュメントブック: 楢葉町×東京大学総合研究博物館連携ミュージアムができるまで』……元の歴史資料館のもともとの構造や設備を生かし(古い展示什器も一部を活用)ながらも、展示デザインと動線計画は大胆に一新したという「歴史資料館のリノベーション」の様子が、展示のコンセプト作りから、展示の移動動線(車椅子移動についても配慮されています)、標本の配置などまで、豊富なカラー写真や図面、イラストとともに具体的に詳しく紹介されています。これからの博物館のあり方を考える上でもとても参考になると思います。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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『大地とまちのタイムラインドキュメントブック』