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第1部 本
伝記・職業紹介
ティラノサウルスを発見した男(ディンガス)
『ティラノサウルスを発見した男 バーナム・ブラウン』2024/4/27
ローウェル・ディンガス (著), マーク・A・ノレル (著), 松本隆光 (翻訳), & 1 その他
(感想)
1902年、米・モンタナ州ヘルクリークで、ティラノサウルス・レックスを発見するなど、新種を次々と発見するような天才的嗅覚を駆使した伝説の恐竜ハンター、バーナム・ブラウンさんの生涯を描いた伝記で、内容は次の通りです。
プロローグ――バーナム・ブラウンの考え方
第1章 辺境に育つ 1873-1889
第2章 優等生……とは言えないけれど 1889-1896
第3章 比類なき見習い実習生 1896-1898
第4章 地の果て――パタゴニアへ 1898¬-1900
第5章 ヘルクリークの奥へ 1900-1903
第6章 愛する者 1903-1906
第7章 喪失 1906-1910
第8章 カナダの恐竜ボーンラッシュ 1910-1916
第9章 キューバ、アビシニア、そして秘密の活動 1916-1921
第10章 東洋の宝物――英領インド 1921-1923
第11章 イラワジ川のお宝と命の危機――ビルマ 1923
第12章 密謀の島、サモス 1923-1925
第13章 古代のアメリカの人々はバイソン狩りをしていたか? 鳥は恐竜か? 1925-1931
第14章 恐竜の発掘、そして空から――ハウ発掘地と上空からの西部地質調査 1931-1935
第15章 退職に向かって――謎の足跡を残した恐竜とグレンローズの恐竜回廊 1935-1942
第16章 スパイ活動、映画の監修、万博での興行 1942-1963
解説「バーナム・ブラウンとティラノサウルス」真鍋真(国立科学博物館)
【付録】
1 アメリカ自然史博物館の化石ホールに展示されているバーナム・ブラウン採集標本
2 バーナム・ブラウン回想録「ティラノサウルス・レックスのタイプ標本(AMNH973)の発見・発掘・プレパレーション作業 発見1902年、発掘完了1905年」
3 バーナム・ブラウンとアメリカ自然史博物館による化石採集の概要
*
「第1章 辺境に育つ」に、彼の生涯の概要を表している文があったので、まずそれを紹介します。
「(前略)父が家族の住む家として選んだのが、たまたま不思議な化石や地層のある場所だった。これによって、バーナムのなかに好奇心の種が蒔かれ、芽を出した。そして、父親が後押しし、また母親の自然を愛する心に導かれて、どんどん育っていった。家畜の世話から馬車や農具などを操る農場の仕事をするなかで、バーナムは遠く離れた土地を旅したり、そこで暮らしたりする力を伸ばしていった。母を手伝って、農場で作業する人々や石炭を掘る人たち大勢の食事や世話をすることで、のちの化石発掘作業で大勢のクルーに飯を食わせたり、性格もばらばらな集団をまとめあげていったりする力も育った。父親から学んだビジネスの才覚で、博物館の遠征でも、石油会社や鉱山会社のための偵察でも、金銭面での取引を抜け目なくおこなうことができた。そして、父親が言い出した幌馬車でのおよそ五〇〇〇キロの長旅こそが、バーナムの技量と本能を間違いなく鍛え上げた。だからこそ、のちの人生において、危ない橋を渡りながらもバーナム・ブラウンは世界中のバッドランドで恐竜を発掘することができた。」
*
バーナムさんは、アメリカのみならず、パタゴニア、インド、アフリカ……世界をまたにかけ、悪地であればあるほど冴えわたるフィールドの申し子で、あらゆる場所から標本の木箱を勤務先のアメリカ自然史博物館に届けたことで、博物館の化石標本コレクションの礎が築かれました(現在もバーナムさんが発見した組み立て標本が50点以上展示されています)。
なかでも有名なのはティラノサウルス・レックスの骨の発掘(うち一体は、ほぼ完全な骨格)。この他にも巨大な恐竜化石を多数、哺乳類の化石、足跡化石、植物化石など、大量の化石を掘り出しています。
また次のように、恐竜時代の終わりと哺乳類時代の始まりを明らかにするK-Pg境界も発見しました。
「発掘作業に加わっていないときブラウンは、この地域一帯にある露頭の層序を注意深く観察していた。オズボーンに宛てたシーズン最後の手紙のなかで、ある重要な層序のパターンを明らかにしている。(中略)この観察はバーナムたちの恐竜化石を見つけるのを容易にしただけでなく、この二つの層の境界こそ、生物進化における重要な出来事を標すものであることが判明することになる。すなわち、六六〇〇万年前の恐竜時代の終焉を標すK-Pg(中生代白亜紀と新生代古第三紀の境界)境界である。」
さらに「鳥類が恐竜から進化した」仮説に関わる重要な化石も発掘しています。
自然環境(地形、天候、猛獣、感染症)だけでなく、政情不安(戦闘)にも脅かされる過酷な環境で、大量の化石を発掘し、道もない荒野からきちんと梱包して運び出す……そのとんでもなく厳しい仕事をむしろ楽しんでもいたようにもみえて、まさに凄腕化石ハンターそのものの姿に圧倒されっぱなしでした。
しかもこの過酷な海外経験を買われて、コンサルタントや諜報活動(?)までしていたようです。
「一九一七年、ブラウンはアメリカ財務省にて戦時コンサルタントとしての役目を担った。(中略)戦争をきっかけに、ブラウンはアメリカ政府と仕事のうえでの関係を築き、他方で、鉱業や石油産業の地質コンサルタントとしてのキャリアを進展させた。」
さらに一九四二年末から一九四三年には、フィールド作業で知り尽くしたエーゲ海知識をもとに「四つある侵攻ルートのうち、エーゲ海の島々を経由してヨーロッパの『泣きどころ』に侵入できるルート」を策定することにも関わったのだとか……。
それだけでなく、なんとあのディズニー映画『ファンタジア』でも、恐竜全盛期や環境の変化と最後の絶滅を描く部分へ科学的知識を提供したようです。
『ティラノサウルスを発見した男 バーナム・ブラウン』……恐竜発掘がまさしく「探検」そのものだった時代を追体験できるようなロマン溢れる本格的評伝で、とても面白く読めました。化石発掘などの写真も40枚超収録されています。恐竜好きの方はもちろん、博物館や生物好きの方、冒険好きの方は、ぜひ読んでみてください☆
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『ティラノサウルスを発見した男』