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第1部 本

絵本づくり

世界をひらく60冊の絵本(中川素子)

『世界をひらく60冊の絵本 (1052;1052) (平凡社新書 1052)』2024/2/19
中川 素子 (著)


(感想)
 絵本の視覚表現や表現構造を専門としてきた中川さんが、現代を生きる誰もが共有すべき13のテーマに基づいて、60冊の絵本を取り上げて紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
まえがき
第1章 自分らしく生きる
第2章 生き方の多様性
第3章 恋するとは
第4章 家族の愛に包まれる
第5章 ジェンダーについて考える
第6章 老いの姿を見つめる
第7章 命に出会い、命を知る
第8章 戦争を見つめ、平和を祈る
第9章 災害に襲われ、乗り越える
第10章 自然の豊かさを味わう
第11章 地球と宇宙・二つの視点
第12章 人間の作り出した世界
第13章 絵本を作り、世界を開く
あとがき
   *
「第1章 自分らしく生きる」では、『キリンのなやみごと』や『シマをなくしたシマウマとうさん』など、心が温かくなる素敵な絵本が紹介されていました。
「『キリンのなやみごと』は、首が長すぎるとコンプレックスに悩むキリンのエドワードが、首が短いと悩むカメと出会い、仲良しに。」という内容で、悩み苦しむキリンに……
 カメは言う。「したから、そのすてきなくびをみてました。わたしのくびも、あなたみたいにながかったら、あれも、これも、できるのに!」。
 ……こんなことを言われたら、友達になってしまいますよね☆
 また『シマをなくしたシマウマとうさん』でも、キリンは悩んでいます(笑)。
「シマウマなのに、シマが消えていき慌てるとうさんだが、出会ったキリンの悩みを解決してあげようと考えていく中で、自分の悩みを忘れる。」という内容で、シマウマとうさんは言うのです。
「シマなんかなくても。こまらないさ。きょうはそれどころじゃないんだ。かんせいしたサポーターをキリンくんとためしてみることになってね。」
 ……他人の困りごとを解決してやろうと、あれこれ工夫しているうちに、自分の悩みごとを忘れてしまう……とても素敵な話で、あらすじを読むだけで心がほっこりしました。
 ……と、素敵な絵本紹介に喜んでいたのですが、「第3章 恋するとは」に、大人向けの江戸川乱歩の本が絵本として紹介されていて、驚かされました。と言うのも、子どもの頃、江戸川乱歩=怪人二十面相+少年探偵団だと思い込んでいたのに、他の大人向け乱歩本を読んでみたら……グロさやエロさ気持ち悪さに驚愕してしまったという苦い経験があり、『押絵と旅する男』もその中にあったからです。
 ……これは、絵本紹介の本として、子どもたちに勧められるのかなーと迷い始めてしまいました。しかも絵本の紹介本なのに、「絵」がカラーで紹介されているわけでもなく、白黒で小さな表紙絵があるだけだしなーと、その後も、かなり迷いながら読んでいて……「第8章 戦争を見つめ、平和を祈る」まで来て、ハッとしました。
 世の中には「楽しくて良いこと」ばかりがあるわけではなく、犯罪者もいれば、戦争もある……子どもたちは、そういう現実も少しずつ学んで、世の中での生き方を見つけていかなければならない、ということに。
「第8章 戦争を見つめ、平和を祈る」では、広島に落とされた原爆をテーマにした『探しています』や、ロシアのウクライナ侵攻により緊急出版された『キーウの月』などの絵本が紹介されています。この『世界をひらく60冊の絵本』は、一般的な絵本の紹介本では、あまり紹介されない世界の問題(生き方の多様性、ジェンダー、老い、命、戦争、災害)などをテーマにした絵本が多く取り上げられているので、それらの問題を子どもに教えたい人にとって、とても参考になるのだ、と思いました。
『探しています』では、「まる焦げになったメガネが「ウランの核爆発をはじめたらどうやっておわりにできるか……さがしているけど見えないんだ。」と語っている。」のです……。
 ……世の中には、まさに戦争中の国もある……
 私自身のことを考えても、読書は自分にとって安全な環境にいながら「世界を知る」ことが出来るものだったし、その経験は今でもとても価値があったと思っています……。
「第9章 災害に襲われ、乗り越える」では、『津波』、『つなみ てんでんこ はしれ、上へ!』、『およぐひと』、『ダンゴウオの海』、『希望の牧場』が紹介されていました。
 また「第10章 自然の豊かさを味わう」では、『鳥の巣 いろいろ』、『ゆりかごになりたい とヤナギは言った』、『スモン スモン』、『ルージュベックのだいぼうけん』、『ひとがつくったどうぶつの道』が紹介されていました。これらも「世の中」を知る上で、大事なことを教えてくれる本です。
 また「第5章 ジェンダーについて考える」では、『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』のことが……
「絵本の主人公であるメアリー・エドワーズ・ウォーカーは、実在した人物で、最初にズボンを穿いた女性の一人として知られているが、そのために何度も逮捕されているとは驚きだ。ズボンだけでなく、世の中の人が女性医師を認めないときにも、メアリーは外科医として活躍したそうだ。」
 ……女性がズボンを穿いただけで逮捕される時代があったんですね!
 この他にも、『360°BOOK 白雪姫 SNOW WHITE』や『点字つきさわる絵本 あらしのよるに』などの絵本も紹介されていました。
『世界をひらく60冊の絵本』……明るくて楽しい本を紹介してくれるというよりは、ちょっと苦しくても「世界をひらく」絵本を紹介してくれる本でした。かなりグロい感じがする本もあるので、子どもたちに読ませる前に、大人が内容を確認した方がいいかもしれません。それでも……地震や戦争などの「世界のこと」を子どもたちに伝えたいというときに、どの本を選んだらいいかの参考になると思います。ぜひ一度、読んでみてください☆

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『世界をひらく60冊の絵本』