ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
生物・進化
働かないアリ 過労死するアリ(村上貴弘)
『働かないアリ 過労死するアリ~ヒト社会が幸せになるヒント~ (扶桑社新書)』2024/3/1
村上 貴弘 (著)
(感想)
働き者のイメージがあるアリの社会でも、実際はそうでもないアリも多い……原始的な小さい社会で生きるアリから、超複雑でシステマチックな社会をつくる進化したアリまで、アリのさまざまな生態を知ることが出来る本で、『アリ語で寝言を言いました』の続編だそうです。なお冒頭には8ページのカラー写真があり、アリのいろいろな写真を見ることもできます。
子どもの頃、庭でたくさんのアリを観察したことがありますが、アリは生態系のなかで重要な位置をしめているようです。次のように書いてありました。
・「アリがこの地球に出現したのは約1億5000万年前。約5000万年前にはほぼ現存する属が出現し、その後さらに、多様な環境に適応する中でさまざまな種に分かれていった。」
・「地球上の動物の中で、もっとも個体数が多く、生物量も多いアリ。その社会は緻密に構成され、非常に安定している。安定して数が多く、寿命が長い生物の宿命として、さまざまな生きものが巣の中を利用することになる。」
……なんと水の上を歩けて泳げるアリがいるだけでなく、干潟に住む水に強いアリ、砂漠に住む暑さに強いアリ、寒さに強いアリまでいるようでした。
またアリの社会については……
「アリは真社会性と呼ばれる見事な社会を作る。その定義は、1.集団が子どもを協力して育て、子どもを産まない個体が存在すること。2.繁殖だけを行う女王(アリ)が存在すること。3.世代が重なること、の三つだ。そして、真社会性となるための条件は、「長寿」と個体としての「弱さ」だ、と考えられている。」
……なるほど「弱い」から群れて(社会を作って)いるんですね。
アリの興味深い生態をたくさん読むことができました。なかでも興味津々だったのは、「第3章 利用するアリ 利用されるアリ」。驚くような不思議なアリたちの生態が赤裸々に……。最高に驚いたのは、ヤドリウメマツアリという寄生アリと、宿主にされるウメマツアリの話。
寄生する側のヤドリウメマツアリには、なんと「働きアリがいない」そうです! 生まれてくる子どもはすべてオスアリと女王アリのみ。托卵されたコロニーは大飯食らいのナマケモノが増えるので弱体化してしまうのですが、全滅するほどではない程度で、この「パラサイト夫婦」は出ていってくれるということですが……岐阜県の生息エリアでは50%以上の割合で寄生されていることを考えると……出て行ってもらって「やれやれ、やっと……」とホッとしたころに、また次の別なパラサイト夫婦がやってくるのでは? ……うわー、なんてこった……。
そしてこの可哀そうな寄生される側のウメマツアリも、それ以上に風変わりなアリのようで、ウメマツアリの女王はなんと未受精卵から生まれていて、受精卵はすべて働きアリになるそうです。女王は「テリトキー」と呼ばれるクローン繁殖で、二つの娘核が融合することで未受精卵から二倍体のメスが生まれてくるのだとか。つまり次世代に残す遺伝要素はすべて母親由来で、父親由来の遺伝的要素はまったく次世代には伝わっていかないそうです。(父親由来の遺伝子は同世代の働きアリにのみ受け継がれる)。さらにオスアリの方も、受精した卵からわざわざメスのゲノムを排除して単数体のオスの卵になるので、オスの持つ遺伝子はオスに100%引き継がれるのだとか。
えー? すると女王アリ(メス)の遺伝子はメスだけに、オスの遺伝子はオスだけに引き継がれるってことですよね? たしか生物学では、オスとメスがいる有利な点は遺伝子が多様化することにあると習いましたが……このアリにとって、オスとメスがいる必然性はいったいどこに? うーん、……まあ、生物には例外がつきものですよね……。
例外といえば、「第5章 過労死するアリ サボって長生きするアリ」でも、不思議なアリたちの生態が。
人間の社会と同じように、普通のタイプのアリにも「2:6:2」の法則(よく働くアリが2割:そこそこ働くアリが6割:あまり働かないアリが2割)が成り立つようですが、例外はどこにでもあるもので、働くアリが多いハキリアリでは、なんと働いていないアリが全体の1~2%しかいないそうです! しかもその1~2%は「蛹から出たばかりだから未熟で働けない」アリというだけなので、要するに全員が働くアリばかりという凄さ。そんな働き者だらけのハキリアリの寿命はたった3カ月(普通のクロヤマアリの寿命は2~3年)。でもコロニー全体の寿命(女王アリの寿命)は10~15年と、普通のアリより長いそうです。
これに対して働かないカドフシアリの場合、1つのコロニーの平均サイズは働きアリ50個体、そのうち働いているのは2個体程度(この2個体も数時間しか食料探索をしない)という怠け者率。1日の大半を寝ているせいか、カドフシアリの寿命は5~6年もあるそうです。……うーん……ただ寝ているだけって……生きている楽しさはどこにあるのかなあ……。……なんか、両方とも、いろいろ考えさせられる生き方ですね……。
多様なアリの社会を垣間見ることが出来る本で、とても面白かったです。そんなアリの巣の中は、「なんでも入り込める小宇宙」なのだとか。
「アリの巣の中は、細菌からキノコ、昆虫、果ては爬虫類まで、なんでも入り込める小宇宙だ。そこでは騙し騙され、複雑な関係性を築き上げている。単純に、損得勘定だけで生物の世界を決めつけていては、この小宇宙を堪能することはできない。底知れぬ奥深さに刮目せよ!」
『働かないアリ 過労死するアリ~ヒト社会が幸せになるヒント~』、多様なアリ社会を知ることができて、勉強に(?)なりました。村上さんは、「おしゃべりするアリ」を研究しているので、特典音声として「ハキリアリのおしゃべりが聞けます!」(QRコードがついています)。
昆虫や生物が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
* * *
姉妹編の『アリ語で寝言を言いました』も以下の商品リンクで紹介しています。
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが新しいウィンドウで開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)
『働かないアリ 過労死するアリ』
『アリ語で寝言を言いました』