ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
生物・進化
進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる(長谷川政美)
『はたらく土の虫』2023/11/30
藤井 佐織 (著)
(感想)
土の上で忙しそうに動き回る虫は、いったい何をしているのか。土の中にいるたくさんの虫は、動きにくい環境の中で何を食べ、どうやって生きているのか。そして、生態系の中でどんな役割を担っているのかについて解説してくれる本です。
冒頭には「土に暮らす虫たち」のカラー写真が8ページあって、過酷な環境で生きられることで有名なクマムシなどの姿を見ることが出来ます。ただ……センチュウやダニ、クモやムカデ、シロアリなどの写真は……ちょっと、うーん……となってしまいました。それでも本書を読むことで、大嫌いだったシロアリが、生態系の中で本当に重要な役割を担っていることを痛感してしまいました。シロアリは地球にとって、なくてはならない虫だったんですね……でもやっぱり、家には来ないで欲しいと思ってしまいますが……。
さて本書のタイトル『はたらく土の虫』から、土に暮らす虫たちは、毎日せっせと土壌改良にいそしんでいるんだろうなーと思ってしまったのですが、どうやら、そうでない虫もいるようです。「まえがき」には、ミミズやシロアリなど特に影響力の強い土壌動物以外の土壌動物は、生態系維持に役立つ「分解」で役に立っているのかどうかよく分かっていないと書いてありました。なお、本書では土の虫たちを「土壌動物」と呼んでいます。
「第1章 生態系のはなし」には、次のようなことが書いてありました。
・「生物が使い古した有機態の炭素や窒素は、分解者による腐食連鎖を通過する過程で、再び生産者である植物が吸収できる形態である無機態に戻ります。」
・「(前略)土壌にはさまざまな虫や微生物が数多く生息し、分解作業に従事しています。」
・「分解者の主なメンバーには、土壌動物だけでなく、細菌類や菌類(カビやキノコに代表される真菌類)からなる「土壌微生物」がいます。」
・「土壌微生物のようにリグニン分解酵素を生成する能力はもたなくても、多くの土壌動物は頑丈な口器(口の役割をはたす器官)をもち、硬い有機物でも咀嚼することができます。咀嚼され、細かくなった有機物は、土壌微生物の酵素による無機化作用を受けやすくなります。」
・「(前略)分解者たちの食べ残しや糞は、分解されにくい安定的な物質でできた腐植となって長く残り、土壌をつくります。」
・「落葉変換者の多くは、リグニンのような難分解性の成分が多く含まれるリター(注:植物の枯死体)を、微生物のように自ら分解する能力は持ちません。その代わり、微生物によって部分的に分解されたリターを、微生物ごと大量に食べます。そして、口器や消化管の中で、リターと微生物を一緒に細かくかみ砕いたり粉砕したりして、混ぜ合わせます。彼らの消化管の中で多くの微生物は生き延びることができます。消化管内で微生物が出す分解酵素によってリターの分解はさらに進み、落葉変換者そこから出た養分を利用することができます。」
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……「土に暮らす虫たち」は、それぞれのやり方で「分解」に貢献しているようです。
そして「第2章 土に暮らす虫たちの紹介」では、さまざまな土壌動物が紹介されていました。そのなかから、生態系エンジニアの代表ともいえるミミズとシロアリについて、以下に少しだけ紹介します。
・「ミミズは、たとえ表層性種であっても、多くの種がリターと一緒に鉱物質土壌を食べています。これは、体内でリターをすり潰すのに土壌粒子を使っているためと考えられています。(中略)ミミズのいる土壌では保水性が向上し、微生物やミクロファウナの生息場所も増えるのです。
団塊構造は安定性が高くて壊れにくく、長期的に土壌構造に影響するため、ミミズは代表的な生態系エンジニアとして知られています。」
・「シロアリは強力な落葉食者であり、かつ、巣や坑道をつくる能力から、主要な生態系エンジニアでもあります。したがって熱帯域において、乾燥に弱いミミズの代わりの役割を担っているともいえます。(中略)
土壌動物には珍しく、シロアリはセルロース等難分解性有機物を消化できる分解酵素(消化酵素)をもつことが知られています。加えて、腸内に共生関係にある細菌や原生生物を住まわせることで、超難分解性の有機物(リグニンとセルロースの複合体であるリグノセルロースなど)も分解することができ、落ち葉だけでなく木材でも消化することができます。(中略)ほとんどの土壌動物が周りの環境にいる微生物相をあまり選り好みせずに利用しているのに対し、シロアリは特定の微生物を利用するため、分解効率が非常に高くなっています。」
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……シロアリは自前の分解酵素だけでなく、共生関係にある細菌なども利用して、木材などを強力に分解しているんですね。
そして「第3章 「分解」だけではない土壌動物のはたらき」では菌根菌やキノコなどと土壌動物の関係などが、「第4章 土壌動物の生きざま」では土壌動物がどんな環境でどのように生きているかが、「第5章 生態系の調和」では土壌動物の多様性が解説されていました。
『はたらく土の虫』……土にいるたくさんの虫がどのように生きていて、生態系の中でどんな役割を担っているのかについて詳しく知ることが出来る本でした。昆虫好きの方はもちろん、ガーデニング好きの方も、ぜひ読んでみてください。
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『はたらく土の虫』