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第1部 本

描画参考資料

絵画は眼でなく脳で見る(小佐野重利)

『絵画は眼でなく脳で見る――神経科学による実験美術史』2022/4/12
小佐野重利 (著)


(感想)
 古代から現代までの科学画像の歴史をたどり、ニューロサイエンス(神経科学)を基盤とする「実験美術史」の構築へ向かってきた小佐野さんが、人間の知覚と美の関わりを考察している本で、内容は次の通りです。
序章
一章 美術あるいは芸術家と科学の親密性
・どのような親密性があるのか
・科学画像の種類――歴史的変遷と根源的な課題
・レオナルド・ダ・ヴィンチ――芸術家と科学者の未分化の時代
・一七世紀以降、光学器具の時代
二章 美術史には科学画像リテラシーが必要か?
・二〇世紀における写真と美術の関係
・光学機器による科学的調査と美術作品の研究
三章 ニューロサイエンスの観点から美術作品を見る
・一九九〇年代からクローズアップされた美術と脳の関係
・オーリャックの聖ジェロー像の眼のかがやき
・盲目の画家エシュレフ・アルマアンはどのようにして具象的絵画を描けるのか?
四章 美術史はニューロサイエンスと協働できるか?
・ニューロサイエンス(神経科学)からの美術(美術史)へのアプローチ
・美術史家デイヴィッド・フリードバーグの神経科学者との協働
終章 実験美術史の試み
・科学的調査や分析化学を取り込んだ実験美術史の可能性
・ニューロサイエンスとともに歩む実験美術史の試み
コラム カラヴァッジョの絵画は視線を誘導する(文・亀田達也・小川昭利)
人名索引
註・参考文献
初出一覧
あとがき
    *
『絵画は眼でなく脳で見る――神経科学による実験美術史』というタイトルと、「眼球運動追跡を感じさせる青色の点」が打たれたカラヴァッジョの絵『聖マタイの召命』の表紙絵から、「絵を鑑賞する時の脳や眼球の動き」と「絵のテーマ、構成、色彩、暗示するもの」などとの関連を調べたものが中心になるのだろうと期待してしまったのですが、全体的には、「美術と科学の関係」の概要を紹介した内容がほとんどで、「神経科学による実験美術」については、「終章 実験美術史の試み」にその試みの端緒となる研究が紹介されているだけでした。
 そういう意味では残念ながら期待した内容ではなかったのですが、「絵画鑑賞」に新しい視点を与えるものではあったと思います。
 とりわけ「終章 実験美術史の試み」では、科学的調査や分析化学、ニューロサイエンスと美術との関わりについて詳しく知ることが出来て、参考になりました。
「美術と科学画像ひいては科学的調査との協働」として、「保存修復」や「美術作品そのものの研究」、「贋作の鑑定」に、科学的調査や分析化学が使われていることが詳しく紹介されていました。
 非破壊的光学調査(レントゲン(X線)写真、蛍光X線分析、粉末X線開設、紫外線蛍光写真、赤外線反射写真など)では、絵画の基底材のいたみ具合やひび割れの性質、絵の具層のはがれ具合や、改作あるいは描き直し(下書き、筆遣い)などを調べることが出来るそうです。これは保存修復や、贋作鑑定に大いに役立ちそうです。
 また「高精細デジタル画像や3Dプリンター等の機器をつかった複製」は、複製の展示が対象作品の保護に役立つだけでなく、オリジナルの制作方法の推定にも役立ちそう。
 さらに「コンピュータグラフィックによる再現技術」で、作品を制作した画家のアトリエの照明や制作法を推測できるようです。
 そして「ニューロサイエンス」による美術品の研究としては、「眼球運動計測技術」、「fMRI(機能的時期共鳴画像法)」などを利用したものが紹介されていました。
 眼球運動計測技術では……
「眼球運動追跡では、一般的には、静止的な絵よりも力動的な絵、また、風景画よりも人物画で顕著性(注視の引き付けやすさを示す指標のことで、イメージの物理的な特性、輝度、色、方向性などによって目立つ度合い)が強く表れる。特に人物画では顔がもっとも顕著性を示すとされている。」
 そしてfMRI(機能的時期共鳴画像法)では……
「(前略)一般に、肖像画を観ている時には紡錘状回と偏桃体が活動を高める。紡錘状回は側頭葉下面で後頭葉に連続している部位であって、顔の形に特別に応答する神経細胞が多数集まっている。(中略)一方偏桃体は(中略)顔の喜怒哀楽の表情に関係する。(中略)
 風景画の場合、海馬傍回の活動が高まる。風景画では、対象に何を描くかということや、絵画面の前景、中景、遠景といった空間構成が重要であるから、形態視と空間視の両情報を統合する海馬傍回が関与する。静止画では、第三次視覚野V3や側頭葉が活動を高める。」
 ……ということが書いてあり、さらに『聖マタイの召命』(カラヴァッジョ)に関する研究が紹介されていました。「カラヴァッジョ絵画は観る者の視線を主題に関わる領域に誘導する」ようです。
 この他にも、「具象画を描く盲目の画家の脳の働き」や、「ミラーニューロン(自ら行動する時にも、他の個体の行動を見ている状態でも、活動電位を発生させる神経細胞。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように「鏡」のように反応することからミラーニューロンと名づけられた)」など、今後「神経科学による実験美術」で有望なテーマとなりそうなものも紹介されていました。
「美術」をこれまでと違った観点で見ることを教えてくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『絵画は眼でなく脳で見る』