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第1部 本
工作(紙以外)
図解 建築の技術と意匠の歴史(溝口明則)
『図解 建築の技術と意匠の歴史』2023/9/29
溝口 明則 (著)
(感想)
建築の歴史では「様式史」が中心となることが多いですが、架構にかかわるアイデアや耐用年数を延ばすための工夫こそ建築の根幹であり、意匠と技術は密接にからみあっています。本書はその観点から、建築の黎明期である古代にさかのぼり、空間創造の手がかりやテクノロジーの変遷を、約300点の3D図版などを用いて分かりやすく解読してくれます。内容は次の通りです。
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さまざまな架構技術がつくる建築のシルエット(カラー図版4ページ)
はじめに 溝口明則
序章
1. 古代初期のふたつの架構
2. 建造物のふたつの時代のシルエット
3. 専制国家の記念的建築
4. 古代建築の4つの相貌
I 石材、レンガを積む 壁構造の世界
1.壁に開口を設ける
2.ブロックを重ねて空間を覆う
3.アーチを架けて空間を覆う
II 木材を架ける 柱・梁構造の世界
4.柱を立てる、屋根を載せる
5.瓦を葺く、屋根を支える
終章
索引 図版出典・クレジット おわりに
「終章」に本書のまとめが書いてあったので、まず、それを紹介します。
「あらためて世界の建築を俯瞰すれば、それぞれのアイデアや工夫は一見して多様なもののようにみえますが、背後に潜む目標は、文明を超えて共有されたテーマ、さまざまな自然の脅威に対処し建築の耐用年限を可能なかぎり伸長させようとするものでした。
この視点から見れば、日干しレンガから焼成レンガへの移行、瓦の発明、木造建築の軒下の工夫や架構の複雑化、木造神殿の石造化など、そしてそれぞれ独立したアイデアのようにもえる数々の細部の工夫等々、一見して多様で異質、相互に無関係ともみえる世界各地の建築への工夫とその変遷、発達が、たしかに共通の目標へ向けてたどった筋道であったことがわかります。
このような世界の古代建築への俯瞰を出発点として建築の変遷を大局的に整理すれば、
1)自然に対処しようとする施設にはじまり、社会的性格が付与されて建築が誕生した古代。
2)社会性のもとで対自然の残された課題を解決し、建築の定式化を進めていった中世。
3)社会性を意識し、定式化された建築の生産性を最大のテーマとした近世(西欧では中世後期、およそルネサンス以後)。
という3つの段階に区分できると思います。」
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本書では、「使いやすく」「長持ちする」建築を目指して、建築がどのように変遷してきたのかを詳しく知ることが出来ました。
例えば、「I 石材、レンガを積む」では、アーチとヴォールトについて、次のように書いてありました。
「ロマネスク教会堂は石造の壁体の上に木造の小屋組みを架けた架構にはじまり、さまざまなトンネル・ヴォールトの架構、つまり、クリアストーリィ(注:高窓列)を持たない初期形態、側廊を高くとって間接光を導入する工夫、トンネル・ヴォールトの迫り元あたりに小さな開口を設ける例、身廊を横断する方向にトンネル・ヴォールトを架けるアイデアなど、150年ほどのあいだにさまざまな展開をみせ、そしてついに交差ヴォールトへたどり着きました。この過程をみれば、ロマネスク教会堂は石造架構のもとで十分なクリアストーリィを実現することを、一貫して目標にしていたことがわかります。」
「石材ヴォールトのもとでクリアストーリィの実現を目指したスケルトンの発達過程は、半円交差ヴォールトを経て柱間と高さのとりあいが自由になる尖塔アーチへと移行し、半円アーチのベイにもとづいて現れた六分ヴォールトを経て四分ヴォールトへと到達しました。(中略)わずか200年ほどのあいだに、架構に対する考え方が大きく発展したことがわかります。」
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また「II 木材を架ける」では、長寿命を目指した寺院建築と、短期更新をシステム化した社殿の違いについて、次のようにまとめてあります。ここでは、長寿命の寺院建築の例としては唐招提寺金堂が、式年造営を繰り返す社殿の例としては伊勢の正殿がとりあげられていました。
・寺院建築と社殿の6つの特徴の対比
1)葺材:伊勢の正殿の萱葺に対し、唐招提寺金堂では瓦を葺いています。
2)軒構成:伊勢の正殿の垂木は直線的に一本架ける「一軒」としていますが、唐招提寺金堂の垂木は(中略)「二軒」構成です。
3)組物:伊勢の正殿は、柱上に直接丸桁を載せますが、唐招提寺金堂では、複雑な「組物」の上に丸桁を載せています。
4)丹塗と装飾金物:伊勢の正殿は白木のままですが、唐招提寺金堂では木部に「丹(硫化水銀)」を塗布しています。一方、どちらの建物も木造部材の木口など特定の位置に装飾金物を設けています。
5)礎石柱:伊勢神宮の正殿は、地表から深い穴を穿って柱を据える「掘立柱」の構法ですが、唐招提寺金堂では基壇上に据えた礎石の上に柱を載せる「礎石柱」としています。
6)基壇:伊勢の正殿は直接地表上に建っていますが、唐招提寺金堂は「基壇」上に建っています。
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歴史的な建築物には、さまざまな工夫が取り入れられているんですね!
ところでお城やお寺などで、屋根の下の木材に複雑な模様がついた金属のキャップが取り付けられていたり、応接間の柱の釘の部分が小皿のような金属の飾りで覆われていたりするのを見て、贅沢感がある美しい模様だなーと感心していましたが……これらはただの美しい飾りではなく、木材などを保護する役目があることを知りました。装飾金物は、木部の弱点(木質繊維が断面を見せている場所や釘が打たれた場所など木材が痛みやすい場所)を保護する役目があるそうです。
建築物の構造の変遷を通して、建築について詳しく学べる本でした。
なんとあの石造神殿で有名なアテネのパルテノン神殿は、屋根に大理石の瓦が使われていたようです。イラストもあって、興味津々でした。屋根があったときには、ちょっと暗かったのかもしれません……。
専門用語も多くて読むのは少し大変でしたが、とても参考になる本でした。建築に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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『図解 建築の技術と意匠の歴史』