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第1部 本
医学&薬学
休み時間の細胞生物学 第2版(坪井貴司)
『休み時間の細胞生物学 第2版 (休み時間シリーズ)』2023/9/29
坪井 貴司 (著)
(感想)
複雑な細胞の情報伝達や細胞周期のしくみを、フルカラーイラストで分かりやすく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
Chapter 1 細胞とは
Chapter 2 細胞を構成する物質
Chapter 3 DNAと遺伝子
Chapter 4 生体膜と輸送
Chapter 5 エネルギーを得るしくみ
Chapter 6 細胞の情報伝達
Chapter 7 細胞骨格
Chapter 8 細胞周期と細胞分裂
Chapter 9 細胞の死
Chapter 10 細胞がつくる社会
*
1テーマにつき2~3ページの解説があり、その終わりに数行の「ポイント」が書いてあります。また章末問題として、その章で学んだ内容についての簡単なテストもあり、復習ができて学習を進めやすい構成になっていると思います。
個人的に、とても参考になったのが、「Chapter 2 細胞を構成する物質」。
まず「水」については、「ポイント」に次のように書いてありました。
・水は分子内の電荷が偏っている(分極)ため、特殊な性質を持つ。
・分極により、水分子は分子同士で静電的に相互作用(水素結合)する。これにより水は粘性が高く、沸点や融点も高くなる。生体内の電子を帯びた原子群とも相互作用する。
……水は分極して「水素結合」でき、「水素結合は弱い結合であるため、容易に生成したり、壊れたりします。このように水分子は、水素結合によって、全体的に大きな、しかし非常にもろい結晶を形成していると考えることもできます。」というだけでなく、「水素結合は、生体内においても非常に重要な役割を果たします。例えば、水分子内の正に帯電した水素原子と負に帯電した酸素原子は、生体内のタンパク質や核酸などの表面にある電荷を帯びた原子群とも水素結合するため、生体高分子化合物を溶かす溶媒になります。」という性質もあり、さらに「表面張力が大きい」とか「疎水性」なども加わって、「生命活動に重要な役割を果たして」いるそうです。
……宇宙で生命を探すとき、「水が液体で存在できる場所」を探すのは、こういう理由によるんですね! すごくよく理解できました!
そして「Chapter 4 生体膜と輸送」も、とても興味津々な内容でした。
膜輸送タンパクには輸送体とチャネルの2つがあり、輸送には、ATPによるエネルギーを消費しない受動輸送と、消費する能動輸送があるのですが、そのうち受動輸送では、主に濃度勾配を利用して物質が運ばれます。これに対して濃度勾配に逆らった選択的な膜輸送が能動輸送。これにはエネルギーを直接消費して膜輸送を行う一次性能動輸送と、一次性能動輸送によって生じた細胞内外のイオン濃度の偏りの電気化学的なポテンシャルを利用して膜輸送を行う二次性能動輸送があるそうです。
なかでも面白かったのは、次の記述。
「実は輸送されるタンパク質には、輸送先が書かれた荷札のような役割を果たすアミノ酸配列が存在します。この配列をシグナル配列と呼びます。このシグナル配列を認識する選別受容体がタンパク質を受け取る細胞小器官の膜上に存在することで、合成されたタンパク質を正しい細胞小器官へと輸送します。ちなみに、細胞質内で機能するタンパク質にはシグナル配列が存在せず、合成後そのまま細胞質基質に留まります。」
……なるほど! 必要な場所に必要な材料が運ばれるのは、ちゃんと「荷札」があるからなんですね!
また「Chapter 6 細胞の情報伝達」にも、次のような興味深い内容が……。
「細胞内シグナル伝達を担うシグナルタンパク質は、スイッチのように機能します。具体的には、シグナルを受け取ると不活性な状態から活性な状態へと変化し、別の過程でスイッチがオフにされて不活性な構造に戻るまで、その活性状態が維持されます。つまり、細胞内の情報伝達は、このタンパク質の構造変化というスイッチのオン・オフが繰り返されることで調節されているのです。このタンパク質におけるスイッチとは、「タンパク質に結合しているリン酸基の有無」のことです。タンパク質にリン酸基が結合したり、あるいは外れたりすることで、タンパク質の立体構造が変化し、活性状態が切り替わるのです。」
……人の体内のシステムって、こんな感じに働いているんですね……うーん凄い……。
そして最後の「Chapter 10 細胞がつくる社会」の最終テーマ「生体防御機構」の3ページは、とても読み応えがありました。そのごく一部分を紹介すると次のような感じ。
「(前略)口や鼻には粘膜があり、粘膜細胞が粘液を分泌しています。粘液には細胞壁を分解するリゾチームが含まれており、粘液で補足した細菌を破壊することができます。粘液にはトランスフェリンも含まれており、病原体の増殖に必要な鉄と結合することで、病原体の増殖を抑制します。気管の粘液でとらえた異物は繊毛運動で口へと輸送され、痰として体外へ排出されます。
口から食道を通って胃に侵入した病原体は、胃液の強力な塩酸と、ペプシンと呼ばれるタンパク質分解酵素によって分解されます。皮膚の表面は乾燥しているだけでなく、常在菌によってpHが酸性になっているため、病原体の増殖が難しくなっています。皮膚の表面の細胞が常に新しいものと入れ替わることも、病原体を増殖しにくくしています。
皮膚に傷がついていて体内に病原体が侵入する場合もあります。そのような場合、傷ついた組織はヒスタミンを分泌します。ヒスタミンは毛細血管に作用し、血管内皮細胞同士の結合をゆるめ、血管からマクロファージと好中球を呼び込みます。すると、マクロファージと好中球は病原体を丸ごと取り込んで貪食し、破壊します。貪食と並行して、マクロファージはインターロイキンを分泌します。インターロイキンは、視床下部に作用して体温を上昇するように作用し、白血球の代謝を活性化して病原体の増殖を抑制します。一方、ウイルスに感染した細胞やがん細胞は、全身をパトロールしているナチュラルキラー細胞(NK細胞)によって破壊されます。」
……そしてこの後は、第3の防御機構「免疫」についての解説が続いていて、とても勉強になりました。
『休み時間の細胞生物学 第2版』……細胞のしくみを全64項目(1テーマ10分)に凝縮して、隙間時間でも学習できるように解説してくれる本でした。医学、薬学、工学、農学などを学んでいる学生の方など、細胞生物学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『休み時間の細胞生物学 第2版』