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第1部 本

科学

宇宙になぜ、生命があるのか(戸谷友則)

『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在 (ブルーバックス)』2023/7/20
戸谷 友則 (著)


(感想)
 ビッグバン理論、インフレーション理論などの最先端の宇宙論・物理学をもとに、RNAの合成、生命活動のはじまり、それらの発生頻度をあてはめたとき、私たちの知っている138億年の宇宙には、地球以外にも生命は存在するのでしょうか? 宇宙物理学者の戸谷さんが、この宇宙における「生命の発生確率」を真剣に考察している本で、主な内容は次の通りです。
序章 生命の起源~物理と生物の狭間で
第一章 生命とは何か
第二章 化学反応システムとしての生命
第三章 多様な地球生命とその進化史
第四章 宇宙における太陽と地球の誕生
第五章 原始生命誕生のシナリオ~どこで、どうやって?
第六章 宇宙に生命は生まれるのか~原始生命誕生の確率?
第七章 宇宙はどこまで広がっているか、そこに生命はいるか
第八章 地球外生命は見つかるか?
終章 生命の神秘さはどこからくるのか
   *
「序章 生命の起源~物理と生物の狭間で」には、次のように書いてありました。
「(前略)現在の生物も化石で見つかる過去の生物も、地球史上で知られている生命体はすべて同じ起源を持っており、全生物の共通祖先と呼ばれるたった1つの細胞(単細胞生物)から進化してきたと考えられている。(中略)
 したがって生命の起源の問題とは、「全生物の共通祖先となった最初の生命は、生命がまったく存在しなかった状態からどのように出現したのか?」ということになる。(中略)
すべての生物種が一つの共通祖先に由来するということは、原始生命体の誕生は地球史のなかでたった一度しか起きなかったことを示唆している。」
 ……地球史のなかで立った一度しか起きなかった原始生命の誕生があったおかげで、私たちは今、「宇宙になぜ、生命があるのか」なんてことに思いをめぐらすことが出来るんですね(笑)。
 そして「第二章 化学反応システムとしての生命」には、次のように書いてありました。
・「(前略)地球生命とは化学的な原子・分子の結合でできた有機物質が、さまざまな化学反応を起こすことで実現されている、「電気じかけの人形」である。」
・「さまざまなアミノ酸の中で、地球生命が使っているアミノ酸は20種類のみであり、これはすべての地球生命種に共通している。タンパク質はこの20種類のアミノ酸を多数結合させて、立体的で複雑な構造を持つようになったものである。」
・「(前略)設計図である核酸と、それにもとづいて正確に製造されるタンパク質こそ、生命現象の本質をなす二大成分であり、細胞とは、それが膜に包まれた小宇宙であると理解してもよいだろう。」
 ……タンパク質の他に、生命には「水」も不可欠で、とりわけ水の次のような性質が重要なのだとか。
・細胞に必須である生体膜も、両親媒性という水に関する性質を利用して膜として存在できる
・水には極性(1つの分子の中に電気的偏りがある)がある→水分子間に引力が働いて「動きにくい」ので温度によって変化しにくい→生命を安定して維持するのに適している
・水分子が電気的極性をもっているので、さまざまな金属などの原子がイオン状態になって水に溶けやすい
・水の密度が最も高いのは4℃の水→凍らない水がいちばん底にたまる→気候変動のときにも生命が生き延びやすい
   *
 さらに「第五章 原始生命誕生のシナリオ~どこで、どうやって?」には、次のように書いてありました。
・「(前略)まず、RNAだけでできた生命が誕生し、進化が始まった。しかしRNAは、遺伝情報保持と代謝の両方の機能を持つとはいえ、その能力は限られる。タンパク質のほうがより複雑で多様な立体構造をとることができ、生命体に有用なさまざまな酵素を作ることができる。一方、DNAは二本鎖構造をとることで安定し、RNAよりも高い情報保持機能を持つ。こうして進化の過程で、代謝はタンパク質に、遺伝情報はDNAに受け持ってもらうような形に進化してきたというわけである。」
・「(前略)このRNAワールドの立場に立てば、ある程度もっともらしい生命誕生のシナリオを描くこともできる。場所は特定しないが、とにかく水とエネルギーが存在し、有機分子が作り出される環境があった。その中にはRNAの構成単位であるヌクレオチドもあり、何らかのプセスにより、ヌクレオチドが長く連なってRNAとなり、生物的活性を獲得し、さらには自己複製の能力を獲得した。一度自己複製能力を獲得すれば、周囲には天敵となる他の生物もまだ存在していないわけだから、エネルギーと栄養分さえあれば、倍々ゲームで爆発的に数を増やしていくはずである。」
 ……このような生命発生に適した「環境」の候補として、有力視されているのが熱水噴出孔。原始地球も高温だったと考えられる上に、地球生命の進化系統樹の根本(最初の生命)に近いところには好熱菌と呼ばれる生物が多いそうです。
 このように本書は、『宇宙になぜ、生命があるのか』について生物学や宇宙論などの知識を駆使して考察しているので、とても勉強になりました。
 ただし……原始生命の起源は現時点では未解明の謎で、それが起こる確率は極めて低く、奇跡だったとしか言いようがない出来事のようです。
「第八章 地球外生命は見つかるか?」には、
「(前略)知的生命体以前に、そもそも原始的な生命すら誕生する確率はきわめて低く、銀河系どころか観測可能な宇宙の中で生命は地球だけ、という可能性が十分にある。そう思えば、宇宙人が地球にやってこなくても何ら不思議なことではない。」
 と書いてありました。それでも「インフレーション宇宙」という「圧倒的に広大な宇宙」で考えてみれば、「ランダムな化学反応の積み重ねで自己複製可能なRNA(即ち、原始生命)が誕生する可能性がある……ということのようでした。
 まあ……そういう結論が現在のところ、最も合理的なように思います。ただ……「原始生命体の誕生は地球史のなかでたった一度しか起きなかった」んですよね? だったら、その出来事が起こる確率が1になるまでの時間を積み上げる必要はないのでは? とも思ってしまいました。さすがにビッグバン直後は不可能だったでしょうが、現在の生命が生まれるに適した環境が出来た時点からは、たとえ1秒しか経過していなくても1回だけの出来事は起こりえるのですから。
 それでも地球からずっと離れた宇宙のどこかに、他の生命がいる可能性は、ほとんどないのかもしれないなーとは思ってしまいました。
「第八章 地球外生命は見つかるか?」には、他の惑星に落下した地球起源の岩石の中に微生物が潜んでいた可能性や、その粒子が太陽系外へも飛び出す可能性について書いてありましたが……SF小説でよくあるように、地球に訪れてきた宇宙人は、もともとは地球の生命だったという可能性は、意外に高いのかもしれませんね。確率から考えると……(笑)。
『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』……生命の起源に関する考察とともに、生物学や物理学、宇宙論も学べる、とても勉強になる面白い本でした。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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