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日本史を支えてきた和紙の話(朽見行雄)

『日本史を支えてきた和紙の話』2023/9/28
朽見 行雄 (著)


(感想)
 古代から現代までの「和紙の国」の物語。和紙は単なるモノではなく、日本人の心情に訴える精神性をも備え、国家経営から芸術、日常生活への寄与まで、驚くほど広範囲に能力を発揮してきました。そんな和紙に光を当て、日本史を読み直している本で、内容は次の通りです。
第一章 日本人と「紙」との出会い
第二章 正倉院文書に見る古代の和紙作り
第三章 和紙の力で鎮護国家を築いた聖武天皇
第四章 和紙と紙巻筆が生んだ源氏物語
第五章 平家一門を西方浄土に導いた装飾和紙
第六章 雪舟の水墨画と日本人の心
第七章 和紙の蝶番が拓いた屏風芸術
第八章 和紙が支えた徳川の天下泰平
第九章 浮世絵は和紙の本懐
第十章 和紙の里・越前の文明開化
第十一章 現代人の心を包む和紙~日本画家・千住博の雲肌麻紙~
   *
「第一章 日本人と「紙」との出会い」によると、初めて紙に接した日本人は卑弥呼(魏志倭人伝)で、五世紀には日本に紙を使う国家が誕生していた(日本書紀)と推定されています。
 そして「第二章 正倉院文書に見る古代の和紙作り」によると、遅くとも七世紀には、日本は自前で紙を作成していたようです(正倉院文書の料紙が七世紀の和紙の実物)。すでに古墳時代には、中国・朝鮮半島から紙漉き技法が伝わっていたのだとか。その後、日本で新しい技法が開発され(中国・朝鮮半島の紙づくりは、「かけ流し漉き」が主流だったのに対し、日本は「揺り漉き」技法)、堅牢な質の紙を作ることができるようになりました。
 そんな和紙は、奈良時代に聖武帝が仏教布教のために国家プロジェクトとして一大写経事業を展開したことで、国家の一大事業へと発展し、さらに平安時代になると、色や模様、匂いまでつけられた華麗な紙が作られるようになるのです。
「第四章 和紙と紙巻筆が生んだ源氏物語」には、次のような記述がありました。
「奈良時代の大々的な写経事業のおかげで質量ともに大幅な発展を遂げた和紙は、平安時代の華麗な文化への何よりの贈り物だった。」
 この章では、平仮名を活用して書かれた源氏物語に、和紙が重要な役割を果たしていたことが書いてあります。
「粘り強く薄くてしなやかな和紙こそ、時にはごくごく細く小さく、時には空を滑るように筆が走る平仮名書きにとってこの上ない贈り物であり、何にも代えがたい書写材だった」
 ……書写材だけでなく「筆」にも和紙が使われていました。
「紙巻筆では書き手の心が素直な筆筋となって紙に移り、書写用具としては最高の機能を備えていた。さらに、巻き付けた和紙が含むたっぷりの墨のおかげで、墨継ぎをせず多くの文字を書けた。」
 さらに「第五章 平家一門を西方浄土に導いた装飾和紙」では、日本独自の紙芸術として成長をしてきた装飾和紙のことが紹介されていました。「漉き掛け」という技法で作られた打雲や羅文などの美しい紙で作り上げられた平家納経は、大和絵や彫金、仮名文字の造形美なども縦横に組み合わされた芸術の集合体だった……うーん、素晴らしいですね……。
 続く「第六章 雪舟の水墨画と日本人の心」では、他の絵画に比べて圧倒的に色彩が少ないなか紙に滲んでできる墨の様子を鑑賞の対象する水墨画では、紙の余白にも大きな意味が込められていること、それが日本人の美意識に深い影響を与えて、後の芭蕉や蕪村の俳諧にも通じる世界を作っていったことが示されます。
 ただ……意外なことに雪舟の水墨画に使われていたのは、竹や藁などを原料とする中国製の紙だったそうです。……そうだったんだ。でも水墨画のルーツが中国にあることを考えると、当然なのかもしれませんね……。
 この後は、「第七章 和紙の蝶番が拓いた屏風芸術」で屏風の素晴らしさを、「第八章 和紙が支えた徳川の天下泰平」では、和紙があらゆる分野で使われるようになったこと、西国各藩が紙を専売制にするなどの統制下に置いて収入の確保に努めたことなどを、知ることが出来ました。
 そして浮世絵を支えた和紙、機械で大量生産された洋紙による打撃、芸術作品で再び脚光を浴びるようになったことなど、日本の歴史で和紙が果たしてきた役割や変遷について、じっくり紹介されていきます。
 日本の誇る材料「和紙」の歴史をじっくり学び、和紙の素晴らしさを再確認できる本でした。ただ……ちょっと残念だったのは、平家納経や水墨画、琳派の屏風などのカラー写真がなかったこと。朽見さんの描写がとても素晴らしかったので、すぐにもその作品を見てみたくなったのですが……。
 それでも本書を読むことで、だんぜん和紙が欲しくなりました(屏風も!)。和紙って、とても素晴らしい材料ですよね!
「第十一章 現代人の心を包む和紙~日本画家・千住博の雲肌麻紙~」では、和紙の力を最大限に引き出そうとする千住博さんの技法を知ることも出来るので、美術が好きな方には、それも参考になると思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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