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第1部 本

自己啓発・精神力

博士が解いた人付き合いの「トリセツ」(カミラ・パン)

『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』2023/8/3
カミラ・パン (著), 藤崎百合 (翻訳)


(感想)
 ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)があり、生化学のPhD(博士号)ももっている、「普通」がわからない科学者のパンさんが、幼いころの自分のために書き上げた「人間関係のトリセツ」、科学で人間関係をラクにする方法です。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「人間を理解できない私のような人たちに向けて、人間について説明する本を書こう。人間を理解していると思っている人たちが、違う物の見方をするのにも役立つに違いない。アウトサイダーのための人生の案内書。それが、この本だ。」
「科学は、この世界を見るためのレンズを私にくれた。」
 この本は、子どもの頃から人間関係に苦労してきたパンさんが、まさに「科学的な視点」から人間を観察し理解しようすることで、人間関係をラクにできることを、自らの体験を通して教えてくれます。いろんなことを考えすぎて生きることが苦しい……そう悩んでいる方には、とても参考になる話が満載。まさに驚くほどタイトル通りの『博士が(科学的に)解いた人付き合いの「トリセツ」』でした。
 例えば「第1章 機械学習と意思決定」では、次のように、機械学習から「意思決定の方法」へのヒントを得ています。
「まず、本当に重要なものを、単に気を散らせるようなものから切り分ける」
「自分が好ましいと思うものを試して、期待通りにいかなければ、迷わず少し引き返して仮定を調整する」
「(前略)機械学習は、私たちが意思決定する際に、機械的にではなく、より人間的に行うことを助けてくれる。機械学習は私たちに、「間違い」は当たり前のことで、現実のデータにつきものだと教えてくれる。本当に二択であることはほとんどなく、何もかもがパターンにあてはまるわけでも、反論の余地のないきっちりとした結論が得られるわけでもない。」
 ……なるほど確かに……。AIが「XXである確率は68.5%」なんていう答えを返してくると、なんとなくモヤっとすることがありましたが(笑)……人間の意思決定だって、実際には同じように、最も確率の高いものに決めているだけのはずですよね(苦笑)。
 そして面白かったのが「第2章 生化学、友情、違いがもつ力」の、サッカーチームをモデルに、タンパク質(そして人間)を理解しようとする話。ちょっと長いですが、以下にそのごく一部を紹介します。
「(前略)私たちの体が機能するのは、主として、タンパク質が自分の役割を理解し、仲間の役割も把握し、それを踏まえて行動しているからだ。チームの一員として働きつつ、まったく異なる個性と能力を発揮している。ダイナミックでありながら決まった役割を持ち、チームでの活動のなかで個々として機能するタンパク質は、私たちが人間としてどのように組織をつくり相互作用するかについての新しいモデルになってくれそうだ。」
 *
「タンパク質は、その命が始まったときには(1本のスパゲティのような)一次構造をとっている。(中略)デザインとして柔軟性があり、特定の構造に縛られていなくて、さまざまな役割に対応できる。(中略)
 ほとんどの場合最初の「スパゲティ」構造はあまりに不安定なため正常に機能しない。そこでタンパク質は第2形態へと姿を変える。自分自身を折り畳むことで、目的を果たすことのできる、より安定な3次元の構造をとるのだ。これは人間が、這うことによって自分で動けるようになるのと似ている。(中略)
 三次構造は、タンパク質の発達の最終段階を表している。ここまでくると、これ以上折り畳まれてさらに複雑な形になることはない。しかし、実際に形を変えることはある。さまざまなパートナータンパク質と結合して、多種多様な機能を発揮するのだ。(中略)
 この最後の四次構造は、発達がさらに進んだ段階ではなく、タンパク質がとりうるあらゆる形状と、形成しうるあらゆる結合だと考えればよい。(中略)
 職場の自分と家庭での自分が、まるで別人のように感じられることはないだろうか? それは四次構造のタンパク質が、条件や状況に適応してさまざまな役割を演じるようなものだ。」
 *
「タンパク質から学べる一番大切なことは、どうすれば上手に他者と関わって、一緒に働くことができるかである。タンパク質は人間とは違って、違いの必要性を認識し、尊重している。だからこそ、説明してきたように、異なるタイプのタンパク質が互いに補い合って、協調しながら機能できるのだ。」
   *
 ……こんな感じで、人間の性質が、科学の理論との対比で考察されていきます。どの考察にも「なるほど……」と納得・共感できるところがあるだけでなく、ユーモアもあって楽しく読めました。
 この後は、「第3章 熱力学、秩序、無秩序」、「第4章 光、屈折、恐れ」、「第5章 波動理論、調和運動、そして自分の共和振動数を見つけること」、「第6章 分子動力学、同調性、個性」、「第7章 量子物理学、ネットワーク、理論、目標設定」、「第8章 進化、確率、関係性」、「第9章 化学結合、基本的な力、人間のつながり」、「第10章 深層学習、フィードバックループ、人間の記憶」、「第11章 ゲーム理論、複雑系、礼儀作法」と続いていきます。
 これらの章タイトルは、最初の方の単語が科学理論などで、最後の方の単語が、それによって解き明かされ、対処法へのヒントが示される人間の性質という感じで並んでいます。
 例えば「第3章 熱力学、秩序、無秩序」では、すでに予想している方もいると思いますが(笑)、次のようなことが書いてあります。
「片付けるというのは根本的に不自然なことであって、きちんと整理整頓したいというあなたの欲求と、おおざっぱにやりたいという宇宙の傾向とを、戦わせているのだ。時間が経つにつれて事物の秩序が失われていくのは偶然ではなく、単純に分子物理学の宿命である。」
 ……熱力学第二法則が示すように、無秩序は「宇宙の宿命」なのだから、几帳面な方も、ある程度は受け入れないといけませんね(笑)。
 このように、多岐にわたる科学的理論を、人間関係の理解へ適用することで、より適切な人間関係を築く方法や生き方を探っているのでした。
 このことは、パンさんに、ある種の安心感を与えてくれたようです。次のように書いてありました。
「教室での空想として始まったものが、今では私にとって、あらゆる関係を理解するための最も重要なツールのひとつになっている。化学結合と力場をひな形として使えば、さまざまな人間関係をモデル化し、形や性質、目的を説明できるようになる。また、時間が経つに従って誰かとの距離が近づいたり遠のいたりするように、人間関係がさまざまな方向に進むことを理解できるようにもなる。私にとって大切なのは、それによって、関係の多様性を理解できるようになったことだ。」
   *
『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』……人付き合いだけでなく、恐怖との対応法、目標の設定法など、人間として生きる上で大切なことを、科学的な視点から見直させてくれるという意味で、とても面白くて参考になる本でした。
 ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)のある方はもちろん、人間関係や生き方で悩んでいる方も、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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