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第1部 本
生物・進化
チョウの翅は、なぜ美しいか(今福道夫)
『チョウの翅は、なぜ美しいか:その謎を追いかけて (DOJIN選書 096)』2023/3/20
今福 道夫 (著)
(感想)
チョウの翅の色、色覚、行動の謎を、実験によって粘り強く解き明かしていく本です。
その主な対象は、ゼフィルスの愛称で親しまれるチョウのミドリシジミ。翅の緑の輝きは構造色に基づき、その美しさとともに彼らの生態にどのような意味をもつか、また「雄が派手なのは雌の関心を引くため」という説は果たして本当なのか? 動物行動学の第一人者の今福さんが、実験やフィールドワークの克明な様子とともに、じっくり紹介してくれます。
チョウの美しい翅の色は、次のように二通りのやり方で作られているそうです。
「チョウの翅の色は二通りのやり方で作られている。一つは「色素」によるもので、もう一つは「構造色」と呼ばれる、鱗粉の微細構造によるやり方である。色素色は私たちの周囲に満ち溢れており、木の葉の色であれ本の表紙の色であれ、ほとんどが色素によって作られている。(中略)
一方、構造色は私たちの周囲にはあまり多くはない。身近な例としては、CDの裏や一万円札の表の左下にある銀色のマークがそうである。これらを傾けてみると、さまざまな色を見ることができる。つまり見る角度によって異なる色が見える。これが構造色の特徴の一つである。」
この二つの色を、実際のチョウの翅で見てみると……
「(前略)メスアカミドリシジミの翅とアカシジミの翅とでは、光の反射の仕方が全く違う。ミドリシジミのこのような方向性をもった反射は、構造色と深く結びついている。アカシジミのような色素色では、反射光は広い範囲に散乱されるが、ミドリシジミのような構造色では、反射光は特定の方向に集中する傾向がある。」
そしてチョウの「雄はなぜ美しいのか」という問いに、ダーウィンは「雌が美しい雄を好むから(異性間淘汰)」と考え、ウォーレスは「雄同士の争いが作用した(同性内淘汰)」と考えたようですが、これまでの実験や研究からは、両方の場合があることが分かっているようです。
本書は「チョウの翅はなぜ美しいのか」の謎をじっくり追いかけていきます。
翅の色の測定や色覚分析、翅への反応行動を調べるための実験装置の製作や提示刺激の製作……ただし繁殖のシーズンは年1回。さらに近縁種での比較実験も必要で……実験の結果を得るためには多くの時間がかかります。そのうえチョウの気まぐれな行動にも翻弄されて……動物行動の研究には、苦労や紆余曲折がつきないようです。
そして実験の結果は……
「これまでの実験から、ジョウザンミドリシジミの雄の美しい翅が他の雄の侵入を抑制すること、ミドリシジミの雄が相手の翅の色で雌雄や雌の型の識別をすることがわかった。」
残念ながら雌については、雄の色や翅の美しさを好むかどうか明確にはなりませんでした。ただ、これまでの実験や研究では、「美しい雄は縄張り保持を通じて、有利に雌を獲得している」ことが多いようです。
『チョウの翅は、なぜ美しいか:その謎を追いかけて』……チョウの翅の美しさの謎を通して、動物行動学の研究方法や、チョウの生態を知ることが出来る本でした。生物(昆虫)好きの方にとっては、とても興味深い内容だと思います。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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