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第1部 本

生活

建築家は住まいの何を設計しているのか(藤山和久)

『建築家は住まいの何を設計しているのか』2022/12/17
藤山 和久 (著)


(感想)
 一つの住宅を設計するとき、優れた建築家は、どこを見ているのか、住まいで何を実現しようとしているのか……建築のシロウトには思いもよらない、住宅設計の奥深さと面白さに、建築専門誌元編集長の藤山さんが16の切り口で迫っている本で、「居心地の良い住まい」が、どんなものかを深く考えさせてくれます。内容は以下の通りです。
はじめに
彼らの視点
手がかりは納まりの良し悪し〈広さ〉
天井が低くてなぜ悪い〈高さ〉
豊かさを広げる技術〈動線〉
誰も知らない場所だからこそ〈寝室〉
縄張りは六歳からつくる〈子供部屋〉
語らうよりも食べること〈リビング ・ダイニング〉
スペシャルがなければ〈キッチン〉
まるで建築家みたいな……
これも、 住まいのかたち
いまどきの来客応対〈玄関〉
ガラスの壁の意味するところ〈窓〉
見えないものをデザインするには〈冷暖房〉
名前はまだない〈半屋外〉
平らの誘惑〈家具〉
日本の夜を落ちつかせたい〈照明〉
終の住処は新築で〈老後〉
愛しのわが家は一代限り〈改修〉
あとがき
   *
「天井は低くてもいい」、「子供部屋は親から離す」、「ていねいな設計も考えものではないか」など、従来の常識とはちょっと違う視点に、目からウロコ感がありました。
 住宅のCMでは「天井の高さ」を売り文句にしているものが多いような気がしますが、個人的には「天井の高さは普通で十分」だと、ずーっと思っていました。天井が高すぎると、寒い時期の光熱費が心配になってしまうからです。ところがこの本を読んだら、「高すぎる天井」には他のデメリットもあることが指摘されていて、とても共感を覚えました。「低い天井を良しとする理由」は次のようなもの(本書内では、もっと詳しく説明されています)。
1)温熱環境が効率化される
2)家のかたちがキマる(住宅全体のフォルムが良くなる)
3)階段の勾配をゆるくできる
4)建具が大仰にならない(建具の反りの心配のないのは高さ2200ミリまで)
5)サッシがぴったりハマる(一般的なサッシの規格寸法では高さ2200ミリが限度)
   *
 日本の天井高は2400ミリが多いそうですが、これは、石膏ボードなどがこの高さで出来ているので、切ったり継いだりする手間がなくなり手間賃や作業時間を節約できる(経済寸法)からだそうです……「普通の天井高」、やっぱり最高ですよね(笑)。
 また思わず笑ってしまったのが、「寝室はいつの間にか物置と化してしまう」問題。次のように書いてありました。
「寝室が物置になる過程はなんとなく想像がつく。(中略)ほとんどの家庭は、押し入れはもちろんのこと、それ以外の収納スペースを使っても、しまいたい物をしまい切ることができなかった。家族が収納したい物の量に対して、収納スペースの総量が圧倒的に足りなかったのである。
 それでも、しまいたいものは次から次へと増えていく。
 仕方がない、納まらない物はひとまず押し入れの前に置いておこう。(中略)だが、押し入れの中が整理されて順番待ちの物がきちんとしまわれる「いつか」は、いつまで経ってもやってこなかった。(中略)
 かくして寝室は、足りない収納スペースの「仮想メモリ」として部屋全体が一気に収納化していく。」
 ……まったく、その通りですね!(爆笑)困ったものです。寝室をリフォームするときは、寝室と収納をセットで考えないと必ず同じ失敗をするそうです。
 さらに考えさせられたのが、「縄張りは六歳からつくる」という子ども部屋の話。
 最近は、リビングなどのパブリックなスペースの近くに、二人以上が並んで座れるカウンター上の机を造りつけたスタディコーナーが人気だそうです(机に二人以上が並んで座れるのは、子どもの勉強を親が見てやるのに都合がよいから)。その一方で、子ども部屋はいろいろな理由から狭くなる傾向にあるのだとか。
 その子ども部屋の場所は、「できるだけ、親のいるところから離れた場所に設置」した方がいいそうです。ちょっと意外に感じましたが、自分が子どもだった頃のことを思い出せば、やっぱりそれがいいよなーと考えてしまいました。子どもだって、ときには一人になりたいときがありますよね。
 それと同じ理由で、二世帯住宅は「完全分離型」のほうが、結局はうまくいくことが多いようです。次のように書いてありました。
「互いに安心して仲良く暮らしていく秘訣は、なるべく距離を保つこと、互いを適度に遠ざけること。この距離感が生き物の本能に即した無理のない住環境をつくる。
 いつまでも仲良しを続けたければ、積極的に離れることだ。」
 ……うーん、確かにその通り。「本当に居心地がいい場所」って、そういうものですよね……。
 この他にも、「住まいというのは、のんびりくつろぐ場所はなく、朝から晩まであれこれ作業する場所だから、一家団欒はリビングのソファよりも、ダイニングのテーブルのほうがむしろいいのではないか」とか、「雨の日の傘や自転車、犬の散歩後びしょ濡れを考えたら、軒下や縁側などの屋根のある「半屋外」が便利ではないか」とか、「人間が最も心地よいと感じる室内環境とは、たとえ微弱であっても常に「気流感」が持続している空間」とか、「道路に面した家の、閉め切ったカーテンがかかった掃き出し窓は必要か」など、本当に「暮らしている人」のことを考えている「使えるアイデア」が満載☆
 これから住宅の新築やリフォームを考えている方は、これらをぜひ読んでおいて欲しいと思いました。
 建築家のインタビューを交えながら、玄関、リビング、キッチン、寝室、子供部屋、収納、広さ、高さ、動線、冷暖房、照明、窓など、住まいの様々な場所や設備について、どんどん深く考えさせてくれる本でした。実際に暮らす人たちの立場で考えている話が多いので、うーん、確かに……と実感させられる、すごく参考になる話がたくさんあって、どんどん読み進められました。
 語り口も軽妙で、建築に関する話題だけなのに、とても読みやすいエッセイ集という感じです。気軽に読めるのに、いつの間にか住宅のことを深く考えられるようになっている(しかも知識がつく)素晴らしい本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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