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第1部 本
脳&心理&人工知能
情動と理性のディープ・ヒストリー(ルドゥー)
『情動と理性のディープ・ヒストリー:意識の誕生と進化40億年史』2023/4/10
ジョセフ・ルドゥー (著), 駒井 章治 (翻訳)
(感想)
生命40億年の歴史をたどり、私たちと私たちの祖先との間の類似点を深く掘り下げて、神経系の進化がいかにして生物の生存・繁栄能力を高め、意識の出現を可能にしたのかを探求している本で、内容は次の通りです。
プロローグ いったいどうして……?
第1部 自然の中の私たちの場所
第2部 生存と行動
第3部 微生物の命
第4部 複雑さへの移行
第5部 ……そして動物は神経系を発明した
第6部 海で生きた後生動物
第7部 脊椎動物の出現
第8部 脊椎動物脳進化のはしごと樹
第9部 認識のはじまり
第10部 思考による生存と繁栄
第11部 認知ハードウェア
第12部 主観性
第13部 記憶眼鏡から見た意識
第14部 浅瀬
第15部 情動的主観性
エピローグ 私たちは自覚した自身を救えるのか?
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「訳者あとがき」に、本書の概要が、次のように簡潔に紹介されていました。
「「情動」とは何か。情動は知覚情報に自分事としての価値を与え、さまざまな判断に利用される。本書において著者のジョセル・ルドゥー博士は、自覚意識の基盤となる記憶により情動に価値が与えられることを、生命誕生のディープ・ヒストリーをたどることで明らかにしようとしている。」
そして本書で最も印象に残ったのは、「第15部 情動的主観性」で、ちょっと長いですが、その一部を以下に紹介します
「(前略)私の提案は、意識的な情動経験は、典型的には、前頭前野の高次ネットワークによるさまざまな非意識的構成要素の処理から生じるというものである。すなわち、1.引き金となる出来事についての知覚情報、2.検索された意味記憶とエピソード記憶、3.意味の層を追加する概念記憶、4.自己スキーマ活性化を介した自己情報、5.生存回路情報、6.生存回路活性化による脳の覚醒と体のフィードバックの結果、および7.個人の情報スキーマの活動化の結果として展開される、あらゆる情動状態についての情報である。」
*
「情動はヒトで特殊化されたものであり、私たちの脳の独自の能力によって可能になっていると私は提案する。情動は、初期のヒト科の祖先が言語を進化させ、階層的な関係推論を行い、心的な意識をもち、反射的な自覚意識をもたない限り、私たちが経験する形で存在することはできない。これらの能力により、古代の生存回路の活動は、自己認識に統合され、意味的、概念的、エピソード的な記憶として組み立てられ、パーソナライズされた自己と情動のスキーマとして解釈され、現在の行動を導くために、また将来の情動的な経験を計画するために、使用されることが可能になったのだ。それによって情動は、人間の脳の精神的な重心となり、ナラティヴや民話の素材となり、私たちが知っているような、人生において重要なすべての文化、宗教、芸術、文学、そして他者との関係の基礎となった。」
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この本は、「人間の本質を本当に理解したいなら、その進化の歴史を理解しなければならない」と考えたルドゥーさんが、生命40億年の歴史のなかで神経系の進化をたどっていったもので、生命の進化や、ヒトの心理や脳の研究の経緯を大きく俯瞰できて、とても勉強になりました。本書には、次のようなことが書いてあります。
・「(前略)原生動物は万能細胞がひとつだけであるにもかかわらず強い行動力をもっていて、有害な化学物質を避け、有用な化学物質に向かって泳ぎ、過去の経験を使って現在の反応を導き、学習と記憶の能力をもっていることを示唆している。論理的な結論は、行動、学習、記憶は、実際には神経系を必要としないということである。」
・「(前略)動物の神経系の進化は、単細胞生物の単純な走向反応を超えて、接近と離脱の新しい選択肢を実施することを可能にした。動物とその神経系がより複雑で洗練されるにつれて、動物の行動のレパートリーも複雑になっていった。」
・「(前略)私がここで説明した過程は、感覚細胞と運動細胞がコミュニケーションをとる必要性が、ニューロン誕生の基礎になっていることを示唆している。」
・「(前略)神経系が存在することで動物に与えられた大きな利点のひとつは、生物が環境と相互作用する際にニューロンを変更することができることである。この能力はシナプス可塑性と呼ばれ、学習の基礎となる。
動物の身体のカンブリア爆発には、神経系を使った学習が登場したことが重要な要因であると考えられている。(中略)神経系は学習をより洗練された柔軟なものにした。そして、このサバイバルツール・キットの改訂は、ボディプランの多様化に貢献したかもしれない。」
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そしてヒトに関しては……
・「(前略)非言語的コミュニケーション、連続的認知、道具使用などの既存の特性を支える神経メカニズムを結合するシナプス可塑性によって、初期の人類は言語をつくり上げたと考えられている。」
・「言語に関連するさまざまな認知能力によって生み出された適応的相乗作用が一度はじめると、短期的にはシナプス可塑性を介して、長期的には自然選択を介して、脳のさらなる変化を駆動し続ける可能性が高い。」
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……ただ……この本で『意識の誕生と進化40億年史』が明快になった、というわけではありませんでした。ヒト以外の動物の意識は、そもそもどのように測ればいいのかも明確ではありませんし、まして今は存在していない過去の生物の脳や神経系のことは調べようもないので、仕方がないのだと思いますが……。
さらに「人間の情動や理性や意識」も、現時点ではまだ「分かっている」とは言えない状態にあります。そういう意味で……全体として、発展途上にある「意識の誕生と進化40億年史」を、とりあえず現時点で総括したもの、という印象を受けました。「第15部 情動的主観性」で、ルドゥーさんご自身も、次のように語っています。
「私は意識の高次理論の提唱者であることは明らかだが、脳のなかで意識がどのようにして生じるかは、いまだ未解決の問題であることも認識している。」
……「意識」はいまだ難問の一つのままですが、現時点で分かっていることなどを「総合的・俯瞰的」にまとめてくれたという意味で……やっぱりこれは、凄い本だと感じました。そして今後は、この本をベースに、最新の知見で追加(修正)していくこともできるのではないかと思います。
『情動と理性のディープ・ヒストリー:意識の誕生と進化40億年史』……とても読み応えがあり、生命の進化や、脳・神経系について学ぶことができる本でした。興味がある方は、ぜひ読んでみてください☆
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