ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
AI白書 2023(AI白書編集委員会)
『AI白書 2023』2023/5/10
AI白書編集委員会 (編集)
(感想)
AIベンダー&AIユーザー企業への独自調査でわかったAI開発・活用の新常識など、AIにまつわる幅広い話題を掲載。AI導入の指針として活用できる『AI白書 2023』です。
第1章は、ChatGPTなどのトピックス、Stability AI、アドビ株式会社のインタビューの他、AI規制・法制化の動き、AI原則の方向性を議論したGPAIに関する座談会。さらに介護の問題からAI社会についての対談など。
第2章は、AIの歴史、開発・運用の基盤、MLOps、大規模言語モデルと画像モデル、倫理・品質など、AI技術の概要と最新動向。
第3章は、デジタルツイン、責任あるAI、インフラ・防災・防犯、ものづくりなど、国内企業の取り組みを紹介。
第4章は、画像生成AIをめぐる著作権、海外のAI知的財産関連動向など。
第5章は、AI開発における契約の諸問題などを取り上げています。
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とても参考になったのが、第1章のChatGPT。「予想外のヒットに驚いた」という開発者の話や、現状では「どの大規模言語モデルも無意味な内容を吐き出す」ことがあること。この状況のなか、ChatGPTは、「応答に確信がもてないといにそれを認めることが出来る」そうです(笑)。開発者の方は、「応答は、役に立つものであること、真実であること、害のないものであることが必要。」と言っていますが、ChatGPTは驚くほど「使えるモデル」に見えるので、可能な限り、これらを目指していただきたいと思います。(ただし利用者側は、その応答が「真実でない」ことがあることを、忘れないようにしなければいけないと思いますが……。)
また、偽情報に対するアドビの取り組みも、とても大事なことだと感じました。AIは違和感のない「偽画像」をつくり出せるので、アドビは2020年にAI倫理委員会を設立したそうです。また2019年にアドビ、Twitter、The New York Timesの3社でコンテンツ認証イニシアチブを設立していて、これはコンテンツの帰属と検証可能な事実によって、コンテンツの真正性を担保する取り組みだそうです(ブロックチェーン技術で来歴情報が引き継げます)。次のように書いてありました。
「いつ誰が何を使ってキャプチャし、それを誰がいつどのように編集し、メディアに持ち込んだのか、Verify(確認)サイトというWebサイト(https://verify.contentauthenticity.org)を使えば、その履歴が分かる仕組みになっています。」
……全部の情報をこのように管理するのは大変だと思いますが、すくなくとも主要メディアのサイトなど、大半の人が「真実」だと信じやすいサイトの情報は、このような仕組みを活用して欲しいと思います。
第2章では、AI技術の基礎知識を総合的にざっくり学ぶことが出来ます。
例えば「AI開発・運用のライフサイクル」は次のようなもの(本書ではもっと詳しく説明されています。)
1)企画
2)開発
3)検証システムへのデプロイ(モデルのシステムへの組み込み)
4)検証システムでの評価
5)本番システムへのデプロイ・運用開始
6)モニタリング(監視)
7)ログ記録
8)再学習のためのデータ収集
9)1)へ戻る
……このように、「ぐるぐる回って」開発・運用していくことになります。
そのため、AI開発・運用は、従来のシステム開発契約とはだいぶ違う契約になるようで、第5章ではその概要が書いてありました。
AI開発における契約の工夫は、次の通りです。(従来型ソフトウェア開発とAI開発の比較)
1)契約の法的性質
(従来)工程によって異なる(上流工程は準委託型、下流に行くにしたがって請負型)
(AI)全工程で準委託型が親和的
2)品質保証
(従来)請負型が適用される工程では合意可能
(AI)なし(2018モデル開発契約7条)。ただし、一定の既知データを用いた場合の性能であれば保証可能な場合もある。
3)検収
(従来)請負型が適応される工程では合意した検収基準により検収実施可能
(AI)なし(2018モデル開発契約7条)。ただし、一定の既知データを用いた場合の検収であれば合意・実施できる場合もある。
4)契約不適合責任
(従来)請負型が適応される工程においてはベンダーに契約不適合責任あり
(AI)なし。
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……かなり違いますね。そして「AI開発と契約でよく問題となるケース」には、次のようなものがあるそうです。
1)品質(性能保証、検収、契約不適合)
2)知的財産権
3)責任
……確かに、こういう問題は発生しやすそう。でも……実際にはどんな感じに契約したらいいのかなーと迷う方には、「ガイドライン・モデル契約」が参考になると思います。現時点で、次のようなものがあるそうです。
1)「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(2018年 経産省)
2)「契約締結におけるAI品質ハンドブック」(JDLA)
3)「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver2.0_AI編」(2022年 特許庁+経産省)
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また第3章では、各社がどのような取り組みを行ってきたかの事例を、たくさん読むことができました。
例えば竹中工務店の「デジタルツイン」については、次のように書いてありました。
「竹中工務店が業務の効率化のために取り組んでいるのがデジタルツインで、スマートビル実現のため新機能を有したIoTデータを扱うクラウド基盤である「ビルコミュニケーションシステム」(ビルコミ)に、BIM(Building Information Modeling)で作成された属性データを連携して、デジタルツインを構築。インターネットの標準仕様に準拠したAPIを提供することで、設計・施工においてWeb、ゲーム、ロボットの開発会社など、多くの開発パートナーの参加が容易になるという。」
なおデジタルツインとは、IoTなどのセンシングデバイスやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)の技術を活用し、「物理空間に存在するモノやヒト、プロセスなどをサイバー空間に双子のように再現したもの、あるいはそれを活用したシステム」です。
また「大日本印刷」は、2021年6月にDNPスマートAIデバイス「魔法の虫めがね」を開発。これは「AIを搭載した専用の虫めがねを対象物にかざすと、AIが文字・絵・写真などを認識し、その内容を音で伝えてくれる“魔法のような”情報デバイス」なのだとか!
そして、製造業のどの企業でも、AIを同じ目的で導入できそうに感じたのが、ニチレイフーズの例。次のように書いてありました。
「AIを導入する一番の目的は、人が行っている作業を自動化によって安定させることにより顧客に安全・安心な食品を提供することだ。また、生産性が向上して今までよりも少ない人数で作業ができるため、人手不足の解消にもつながる。
また、熟練の作業者のスキルをAIに記憶させることで職人技の伝承が可能となるほか、人の手の感覚や目を超える精度が達成できるため、将来的には完全自動化につながる技術だといえる。」
この他にも、さまざまな事例が具体的に紹介されていました。
また海外の動向についても、欧米だけでなく、AI先進国の中国の会社についても紹介されています。
さらにAI生成物の著作権など、AIを産業的に活用するときに参考になる話題もたくさんあって、自社で使うことを考える上でも、とても活用できると思います。
ただ……ちょっと残念なのは、索引や用語解説がないこと。専門用語も多いので、これらがあると、もっと使いやすかったのになー……この本は毎年最新版が出版されるのかもしれないので、今後の改善を期待したいと思います。(大型の本なので、さらにぶ厚く重くなってしまうのを避けたかったのかもしれませんが……)
AI開発・活用の概要を総合的に知ることが出来る『AI白書 2023』です。とても網羅的・体系的にまとめてあるので、参考書として活用できると思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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